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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
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ガンルレック要塞攻防戦二日目②~イムレッヤ帝国軍の防衛戦~

 シュタット隊が守る南門は正面門である。その為、高台や投石機などが多く配置されており、堅固だった。リテリューン皇国軍は三度の攻撃を仕掛けているが、シュタットはいずれも撃退している。

「シュタット様、味方は優勢。加えて、敵は兵力を分散しております。こちらから攻めてはいかがでしょうか?」

 ハウセンが提案する。

 その提案に対して、シュタットは首を横に振った。

「この優勢には違和感がある。それに我々の優勢は要塞内でのみ発揮されるに過ぎない。ここにいる兵士のほとんどが野戦を経験したことがない」

 戦い慣れている精鋭の兵士のほとんどをカタインが連れて行ってしまった。ガンルレック要塞に残った兵士は、シャマタル独立同盟とグリューンの直属部隊を除けば、戦いの経験が少ない新兵か、何かしらの理由で前線から外された弱兵が殆どだった。

「敵が攻めてくるなら、迎撃せよ。しかし、深追いは禁ずる。各部隊にそれを徹底させろ」

 シュタットのことを落ち着いていると判断する者もいれば、消極的すぎると笑う者もいた。それでもシュタット直属の部隊長と兵士はシュタットの命令に背くことはなく、淡々と防衛戦を行った。



 西門、グリューン隊。

 豊富な迎撃兵器で有利に戦いを進める南門の戦場とは違い、西門は激しい乱戦になっていた。

 グリューンは前日にシャマタルが行ったように城壁の上で戦うことを選択していた。

 グリューン直属の兵士たちは、カタイン軍団の中でも近接戦闘に特化した部隊である。本来なら、カタインの近衛隊を務めている。

「リテリューン皇国の兵士は弱いですな」

 小隊隊長の一人が呟く。

「確かに弱い。だが、変だ。まるで我らを勝たせて、気分を良くさせているようだ。城壁の上に登ってきた皇国の兵士は討ち取る。だが、欲を出し、こちらから攻めてはならない。我らは防御に徹する」

 西門の戦いはグリューン隊が圧倒した。

「俺たちはカタイン将軍のこの近衛隊だ。死にたい奴はかかってこい!」

 イムレッヤ帝国最強の男がガリッターなら、イムレッヤ帝国最強の女傑はカタインである。

 大陸唯一の女将軍であるカタインの勇名は大陸に轟いていた。そして、カタインを守る近衛隊は、カタイン同様に元戦奴である。己の武のみで成り上がった者たちは強かった。

 その強さは、以前にガリッターから「同数なら我が最精鋭を凌駕する」と評価されたほどである。

 乱戦において、グリューン隊はその強さを最大限に発揮した。

 それでもグリューンはシュタットの基本構想を外れることは無く、積極的に攻勢に出ることはなかった。



 リテリューン皇国軍本陣。

「報告します。南門、西門から敵が出てくる気配はありません。被害を増す一方です! 特に西門を守る隊は化け物のように強い、と報告が入っております!」

 兵士からの報告を、ルルハルトは無表情で聞いていた。

「これでは思惑通りにはいかないのでは? それに居残りの中でそんなに強い部隊が残っているのは驚きですな」

 ベルリューネが言う。

「西門を守る部隊は、カタイン軍団の軍旗を掲げている。あれを掲げるのはカタイン本人以外では、噂に聞く腹心のグリューンであろう」

「グリューン、強者だと聞く。私が首を刎ねたいものですな」

 ベルリューネは好戦的な笑みを浮かべた。

「そのような機会があったら、お前に任せよう。だが、今はその時ではない。西、南、北にはそれなりの将がいる。しかし、要塞に優秀な将が多いはずもない綻びはある」

 ルルハルトの言葉は当たっていた。

「東の城壁の敵が誘いに乗りました」

 その報告を聞いても、ルルハルトは特に喜ばない。ルルハルトが戦場で感情を出したところを見た者はいない。



 東門、ルーゴン隊。

 ルーゴンはシュタットの防御方針を無視して、要塞の外へ出陣した。

 東門も南や西のように防御を固めていたが、リテリューン皇国軍を何度が撃退したことでルーゴンは気を良くした。

 リテリューン皇国軍は攻め手がなく、苦戦している。ルーゴンはそう思った。

「出撃する」

 ルーゴンは号令する。それはシュタットの基本方針を無視するものだった。誰も止める者はいなかった。



 リテリューン皇国軍、前線。

「シックルフォール将軍、敵が出てまいりました」

 兵士から報告が入った。

「そうか、前線に伝えろ。うまく負けたふりをして後退せよ、と」

 それを聞いた兵士は不思議そうな顔をした。

「心配するな。全てはラングラム司令官の筋書き通りだ」

 この日、リテリューン皇国軍はルーゴン隊に散々追い回された。

「どうだ。俺たちだけで敵を圧倒しているぞ! リテリューン皇国軍など俺が撃退してくれる。いや、ここで武功を挙げれば、もっと多くの兵を指揮できるようになる。そうなれば、俺の手で大陸連合軍を撃滅してやるぞ!」

 ルーゴンは自身が英雄になったつもりでいた。

 結局、この日の日没までルーゴン隊は主導権を握り続けた。


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