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オネエがDKになって青春を謳歌する話  作者: 椎名忍
六人のヒロイン
6/6

会_3

 ”にゃあん”


 「……猫? 」


 その声が聞こえたのは第2校舎の裏をフラフラしている最中だった。


 「私、桃菜と部活の見学に行くわ。トラも何か見てくればいいじゃない」


幼馴染のそんな一言が始まりで僕はこの場に居る。


 クラス委員決めから、午前中はHRで終わり午後からは新入生歓迎会とのことで理事長のありがたいお言葉(寝てたけど)や、部活動紹介など、講堂で行われた集会で一日が終わってしまった。

そうして放課後、僕は一人取り残されてしまったのだ。


あーちゃん は委員長 と部活見学へ。

奏司君 は"経営学講座"という、名前のまま会社経営等のカリキュラムの受講へ。

鈴 は アッシュ に校内案内するよう頼まれ、半強制的に連行されてしまった。


 「ああ、いたいた。ここで鳴いてたのね」


 可愛らしい声の主は校舎の影になっている草木の下にいた。


 ”にゃあお”


 可愛らしい子猫と目が合う。

この学園のイメージから勝手に高貴そうな種の猫を想像していたが、その子はトラ柄の雑種猫だった。


 手を伸ばせばすり寄ってくる姿は人に慣れているのだろうか。

両手で抱き上げると、ゴロゴロと喉を鳴らす子猫。可愛い。


 (男の子……かしら?)


 幼いながらキリッとした顔立ちだ。

 チラリとお尻を覗けばすでに去勢済みである。


 (まあ。オカマちゃんなのね……)


 体の向きが変わり、嫌がる子猫が僕の手を噛む。


 「貴方、私と"一緒"ね…」


 元の体勢で抱き直せば、また子猫の喉は鳴る。撫でられて気持ちよさそうな顔をしている。


 ――……「一緒ってどういう事? 」


 突如、聞こえた声。

驚きで腕を開いてしまい子猫を手放してしまうが、心配せずとも綺麗に着地をしていた。


 声の主を探して周囲を見渡すが、誰も居ない。


 「えっ…だ、誰…? 」


すると、問いに答えるように目の前の茂みが揺れ始める。


 

 「じゃじゃーん」

 「………っ! 」


 草まみれで登場したのはツインテールの女の子だった。

彼女お手製の効果音は気が抜ける程に気持ちが入っていないものだった。


 「……誰? 」

 「名を問うのならば貴様から名乗るのが常識であろう」

 「は、はあ…」

 (……武士? )

 「と、虎丸です…」

 「おお! 何と奇遇! 此奴こやつの名は"トラ"じゃ! 」


 目を輝かせた少女が僕の目の前に出したのは、先程抱っこしていた子猫だった。


 ”にゃあ”

 「だから”一緒”と言ったのじゃな! 」


 満足げに鼻を鳴らすツインテール。

同じ"オカマ"だから…なんて説明はできないが、勝手に解釈してくれて助かった。


 「え、ええ、ああ、そ、そうね」

 「あれ、でも何でこの子の名前知ってたの? 」


 気の抜けた割にはなかなか確信を突く質問をしてくる。

とりあえず、武士言葉は終わりらしい。


 「えっと…それは…と、虎柄…だから…? 」

 「…………」

 (無理があったかしら…? )

 「……そういう事か」


 どうやら無事に納得してもらえた。


 「ボクはシホノ」

 「へ…? 」

 「名前だよ。一条いちじょう 紫穂乃しほのって言うんだ」

 「あっ…そう、なんだ…」


 どうにもこの子の突拍子もない言動に着いて行くのは至難の技だった。


 「でもこのがボク以外に抱っこされるなんて珍しい事だよ」


 (まさか…同じ"性別"として通じるものかあったのかしら…)


 だが、そんな事が言える筈も無い。


 "にゃあん"

 「そうか、そうか、《《部員》》を探してくれていたのか」


 (……え? )


 「よし、虎丸。部室に案内するぞ」

 「は? ちょ、ちょっと…」

 「なんだ、もう別で決まっているのか? 」


 決してそんな事は無かった。

現に、適当に回ってふらふらしていた所でこんな人気ひとけの無い場所にいるのだから。


 「決まって…無い…けど…」

 「じゃあ行こう! 」


 キラキラな瞳で 一条さん は僕の手を取る。尚更断りにくくなってしまった。


 (まあ、いっか…。見るだけだし…)


 そうして手を引かれるまま、第2校舎の中へと足を踏み入れた。



☆★☆



 「お…オカルト研究会…」


 校舎の入口からさらに奥、放課後であるにしても静か過ぎる場所にそれはあった。


 「ようこそ、オカ研へ!」

 ”にゃあん! ” 


勢いよく開けられた扉。ガラガラと滑りの悪い音がやけに大きく響く。


 「ぶちょー、部員連れて来たよ」


 まだ正式な部員ではないのだが…。

 一条さん の呼びかけに反応してか、中から物音がする。


 室内はオカルト研究会なだけあって得体の知れない物が散乱していた。

天井からも色んなものがぶら下がっている。


 見回していると、一番奥の物が動く。

何事かと思えばそれは扉だった。どうやらもう一つ部屋が続いているらしい。


 「よっ…よくやった!一条! 」

 「あ、ぶちょー居た~! 」

 「……!? 」


 埃を被って出てきたのは…


 「しょ、小学生…? 」


そう思える程小さな女の子でした。


 「今何て言った!? 」


 強い口調と強い眼光で睨みつけられる。

しかし、150cmも満たないであろうその身長で見上げた姿には威圧感も恐怖感も感じる事は出来ない。顔立ちも幼い為に尚更だ。


 だが、よく見れば少女はこの学園の制服を着用している。


 「ほんとに…高校生…? 」

 「失礼な奴!! 私は正真正銘の高校生だっ!! 」


 怒りの形相でワンピースのポケットに手を入れた少女が取り出したのは生徒手帳だった。

表紙を開いて1ページ目を握り締め、僕の目の前に突き出した。


 「ほら! よ~く見なさい! 」

 「堂島どうじま……瑠璃子るりこ…2年…C組…っ!

 ……先輩っ!?!? 」


 本人へ視線を移せば、襟元にシルバーのピンがついていた。

この学園では、1年生はピン無し、2年はシルバー、3年はゴールドと学年によって印がある。


 「オカルト研究会《《部長》》、堂島 瑠璃子 だ! 覚えておけ! 」


 得意気な顔で腕を組む小さな少女は、間違いなく高校生で、しかも1つ上の先輩だった。


 「むしろ存在がオカルトだわ…」

 「…っ!! 失礼な奴っ!! 」

 「ぶちょー、新入部員ですよお~」

 「ふん…っ! これからこの私がたっぷり礼儀を教え込むしかないようね!! 」

 「えっ? ちょっと、まだ決まったわけじゃ…」

 「部の存続危機回避ですね~! 」

 「ええ! よくやったわね! 一条 ! 」


 「ちょっと! 勝手に話進めないで頂戴!! 」


 悲痛な叫びも虚しく誰も僕の声など聞いてもいなかったのでした…――。




 ――……こうして、虎丸オネエの前には六人のヒロイン達が揃った。

この六人に振り回される青春になろうとは、今はまだ想像も出来ない話であった。



 そんな彼の学園ライフは今始まったばかりである―――。


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