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オネエがDKになって青春を謳歌する話  作者: 椎名忍
六人のヒロイン
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会_2

 「青鳩あおばと 奏司そうしです。よろしくお願いします」


 (そうし君…ね……。)


 五十音順で並んでいるらしいこの席順。

廊下側のイケメンが名乗るのはすぐだった。


 ばっちりと彼の名前を頭に入れつつ、順に立ち上がる生徒達も記憶に詰め込んだ。名前を憶えるのは得意なのだ。



 「弓野 虎丸です。よろしく。」


 自身が最後だった。簡潔に済ませ、席に座る。

すると、担任が廊下から名前を呼ばれ、教室を後にした。


 おさが不在となった室内は、徐々に話し声が各所から漏れ出す。

隣近所で、初めましての挨拶や元からお友達同士は話をしたり…。


 「青鳩さんともお友達ですか? 」


僕も例外ではなかった。振り返った鈴が、またもや前置きも無くそんな質問をした。


 「あ、えっと……うん(……多分だけど)」

 「鶴ヶ谷さんとは? 」

 「え? ああ、幼馴染。(…らしい)」

 「では、青鳩さんも幼馴染になるのですね」

 「……え、そうなの?」


 …………あ。

 やっちまった。


 つい、素直な声が漏れてしまった。

 鈴は質問主だ。わからないこそ聞いている訳で、現に彼女は首を傾げていた。


 「あっ……えっと……」

 「青鳩社は、鶴ヶ谷の会社の子会社と聞いておりますけど…」


淡々と言ったその言葉に救われる。何も知らないの自分なんかよりも信用できる情報だった。


 ていうか、やっぱりあーちゃんはお金持ちなのか。社長令嬢であり、奏司君も御曹司なのか…。

そうすると、彼と彼女が知り合いで、彼女と幼馴染である僕の事も彼は知っている…というわけか。


 「あっ、ああ、そうそう。そーいうこと。うん。幼馴染だよ」

 「……はあ」


 少し挙動不審すぎただろうか?


 「………羨ましいですね」

 「……え? どうして…」


 だが、台詞の続きは聞けなかった。担任が戻ってきた為だ。

ざわついていた教室が、徐々に静けさを取り戻す。


 しかしそれは彼に従ったわけではないと知る。

その後ろを歩くブロンド髪の少女に全員が注目していたからだった。


もう一度教卓に立った担任の言葉に生徒達は耳を傾ける。


 「さて。諸事情で入学式には間に合わなかったんだが、このクラスにはもう一人居るんだ。それが…彼女。…自己紹介、できる? 」


 「Yes. ダイジョブ、出来まス」


 カタコトな発音で返事をした彼女。

はっきりとした目鼻立ちが真っ直ぐに前を向いた。


 「ワタシ、Canada(カナダ)カラ来マシタ!

 Ashley(アシュリー)Maize(メイズ)デス! "Ash(アッシュ)"ト呼ンデ下サーイ! 」


 ひらひらと手を振り、笑顔も振り撒いた彼女。

まるでその周囲だけ異国のようだ。……話す言葉は日本語だけど。


 「君の席なんだが…あそこ、窓際の一番後ろ、空いてるだろ。そこに座ってくれ。」


 担任が指差した方向に一斉に視線が集まる。


(………!)


 僕の後ろだった。


 「自己紹介タイムがさっき終わってしまってな。君には席辞表のコピーを渡しておく」

 「Oh! Thank you! 」

 「読めない字は…そうだな、本人に直接聞け。コミュニケーションにもなるだろ」


 「丸投げしやがった」と、担任に対して全員が思っただろう。 入学式翌日で早速クラスが一致した瞬間だったかもしれない。


 「OK! 」


 相変わらずキラキラした笑顔で返事をしたアシュリーが指示された席へ足を向ける。

そうすると、僕が彼女と目が合うのも自然な流れだった。


 「オネガイ、ヨロシクネ!」


 日本語か英語か、どちらで挨拶を返すべきか迷っていればウインクを飛ばされたのちに指定された席へと座ってしまった。


 (……単語逆に並べてるじゃないの…)


 若さに着いていこうと気合を入れたばかりなのに、まさか国際交流まであるとは…。恐るべし、高校生。


 (よし、がんば………ん…?)


 心の中で独り円陣を組んでいた最中、背中をつつかれる。

この状態で後ろにいるのは一人しかいない。


 「ハ、Hi?」

 「コレ、何ト読ムデスカ?」


 アッシュが指差したのは席次表。彼女の前の席。つまり、僕だった。


 「ぼ、僕…?」


 ブンブンと頭をふり、肯定の意を示す。


 「エット……ゆみ……の………まる ……? 」

 「あ、ああ、"トラ"だよ。僕の名前は弓野虎丸。」

 「トラ………虎……! Oh! "Tiger(タイガー)"!? 」

 「そ、そうそう。タイガー。」

 「A-ha! OK! OK! ヨロシク! Mr.タイガー! 」


 遠くで吹き出す声が聞こえた。あーちゃんだった。



☆★☆



 「よーし、じゃあ次はクラス委員を決めてもらうぞー。まあ、決め方だが……くじ引きだ」


 担任は気だるそうに割り箸の束を取り出した。

きっと初対面同士が多いクラスで、立候補や推薦者を募るより効率が良いやり方かもしれない。


 ざわざわする室内でぼんやりと割り箸を分ける担任を眺める。


 (それにしても面倒な事はやりたくないんだけど……)


 正直、嫌な予感はした。



 ―――……そして。


嫌な予感はばっちり当たってしまった。

 

 ただ、幸か不幸か……


 「……副委員長…」


 自分が引いた割り箸には、青ラインが引かれていた。赤が委員長である。


選ばれし割り箸を握りしめた者が教卓へ促される。

赤の割り箸を持って前へ出た女生徒は見覚えがあった。


 (あーちゃんの友達……? )


 朝、幼馴染が話していた子だった。


「はーい、二人とも、挨拶して~」


 教室の入り口近くに移動した担任が指示をする。


おどおどと女生徒がこちらをチラりと見る。

気が弱そうに震え、大きく丸い不安そうな姿はチワワを連想させた。


 (僕から…言っていいのかな…? )


 ジェスチャーで自分を指さすと、チワワは大きく頷いた。

どうやら先に言っていいらしい。


 「えっと、副委員長になりました、弓野虎丸です…よろしく… 」


 教室を見回すと奏司君と目が合う。「がんばれよ」と口パクで言われた気がして心に華が咲き乱れる。


 (はあ、なってよかった……)


 自分でも単純だと思う。

幸せに浸りつつ、後ろで待機する"委員長"へとバトンタッチをした。


 「あ……あ……あのっ……えっと……」


 委員長は言葉に詰まってしまったが、あーちゃんが静かにエールを送っているのが横目に見える。

彼女は深呼吸をしてもう一度口を開いた。


 「い、委員長に……なってしまいました……っ

 ……あ、綾小路あやのこうじ 桃菜ももなですっ」

 

 淡いピンク色のカーディガンを羽織り、眼鏡をかけたチワワ改め、綾小路さん。

彼女の苗字もまた、なかなか敷居の高そうなものである。


 自己紹介が済めば拍手が浴びせられる。

僕たちが役員となった事への称賛とはまた違うだろう。

多分、自分達が難を逃れた安心からかもしれない。あまり嬉しい拍手ではないのは確かだ。


 そして、この後の各生徒が所属する委員会決めや日直、掃除当番などまさに"学校生活"と言える事柄を決めるよう、担任に任せられる。


ちなみに、クラスの書記には鈴が立候補してくれた。これにはなんだか安心だった。


 「じゃあ…進めようか、綾小路さん」

 「はっ、はい! "丸虎"さんっ…! 」

 「……"丸"

の中に入れるな」


 訂正しよう。この先結構不安だ………。


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