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オネエがDKになって青春を謳歌する話  作者: 椎名忍
目覚めたらプロローグ
1/6

始_1

 「と………お…てっ……っ は…く……っ! 」


 遠くから声が聞こえる。ふわふわした頭がゆっくりと覚めて行く感覚は自分が夢の中に居た事を理解させた。


 「おきてっ………! おきてよぉ……っ! 」


 先程より近くなった声は、どうやら自分に呼びかけられているもののようだ。

はっきりとしていく意識に反して瞼や身体は鉛のように重い。


 (ああ……昨日は…呑みすぎた…のかしら…? )


 しかし、徐々に身体のあちこちに痛みが走り出す。

なんだこれ。呑みすぎて暴れたりしたのだろうか。

記憶を辿ってみるが、まったく心当たりが掴めない。


 (えっと…誰と呑んで……)

 「虎丸っ……!! 」


 (虎丸……? ……だれ…? )

 「起きてよおっ…! 虎丸っ…! 」


 (だから……誰なの……? )


 自分の名前では無いそれを呼ばれながら揺らされる身体。

痛覚はひたすら鮮明になっていく。


 (痛い…)

 「……痛い…っ! 」


止んだ揺れ。ようや出せた声が相手に伝わったようだった。

ゆっくりとこじ開けるようにして瞼に力を入れた。

隙間から入り込む日差しが現在の時刻が昼間である事を伝える。


眩しさで顔をしかめながらもようやく開けられた瞳。

一番最初に目に入ったのは、見知らぬ美少女だった。


 「と…とら…? お…きた…の…? 」


 覗きこんできた彼女の顔は、まるで泣き腫らしたかのよう。


 「……よかった…っ! 」

 「……っつ……!」


 安堵の表情を浮かべたかと思えば、直後に飛びつくように抱きつかれ体中に激痛が走る。

漏らさずにはいられなかった呻き声。

その声にハッとした彼女はすぐにその腕を解いた。


 「ごっ、ごめん…っ! …あっ、い、今、おばさまと…先生呼んでくるねっ! 」


 立ち上がった美少女がバタバタと廊下に出てしまった。

室内には、状況の飲み込めない頭と所々痛む身体が取り残された。





 ――……一先ず、今の状況を整理しよう。

視界に広がるのは見たことの無い部屋。だが、真っ白い壁紙や布団、カーテン、そして匂いや雰囲気から"病室"なのかもしれない。


 「なんで…こんなとこに……」


 昨日の記憶すら曖昧で、状況の整理が出来る気はしなかった。


 「もう~…なんなのよ……身体痛いし…… 」


 "酒は呑んでも呑まれるな"

飲酒した記憶すら朧気だが、誰かが言ったそんな台詞が浮かぶ。肝に命じてた筈だが、ついに呑まれてしまったということか。


「ハア」と、ため息を付くと肋骨が軋む。


重い頭を支える為に手を添えた時、ふと、触れた髪の毛に違和感を感じた。


 「あれ……? 」


前、横、後ろ…と触るとそれは確信へと変化した。


 「な…無くなってる…… 」


多少、語弊があるので言い直せば、「短くなっている」のだ。

自分には肩にかかる程の襟足と、ワンレンに憧れて伸ばしている最中だった前髪があった筈だ。


 「う…うそ……? 」


病室を見渡せば、一角に洗面台と鏡を見つける。

痛む身体に不自由を感じつつ、ベットから降り、目的地を目指す。


 「いてて……」


 思うように動かない足のせいで鏡までの距離が遠く思える。


ようやく辿り着いたそこ

恐怖で細めていた目を恐る恐る開けば……。


 「……………誰…? 」


 ……そこに映った人物は見覚えの無いものだった。



☆★☆



 (なにがどうなってるの……? )


 恰幅のいい白衣を着た先生と思われる人物に身体をあちこち触られている。

異常が無いか、触診による診察だ。


 心配そうに見つめるのは先程の美少女と、これまた初対面の婦人。


 「虎丸……大丈夫なの……? 」


 また、その名前だ。アタシの名前じゃあないんだってば。


 「他に…どこか気になる所はあるかな? 」

 「えっ……えっと……」


 触診を終えたらしい先生が尋ねる。

どう説明していいのか言葉がまとまらないが、言うしかない。


 「あの……全然記憶が…無くて……」

 「「………っ!!」」


 白衣の後ろに見える女性二人が絶句しているのがわかった。


 「と、トラっ…! どこまで…無いの…? 」

 「ええっと…その…」


 これ以上言葉にするのは悲しませることになることがなんとなくわかった。


 「………貴女、誰…かなあ? …なんて… 」


 ほら、やっぱり。

底のない絶望に堕ちていく様な表情をした美少女。

声も涙も出さず、椅子へと崩れるように腰をかけた。


初対面な筈だが、心が締め付けられる痛みを感じる。

だけど、これは紛れもな事実なのだ。


 (とりあえず…この身体は自分の物…みたいだけど…)


 鏡に映ったのは少年だった。

 所々大きな絆創膏や、包帯が巻かれてはいるが、それなりに印象の良い顔つきで背丈や肉付きは平均的なもの。

自身の慣れ親しんだ姿ではないことは確かだ。


 だが事実として、身体は自らの意思に従って動く。それに今、見渡す視界も、病院独特の臭いも鼻を通る。会話も耳に入る。

そしてなにより、痛覚。はっきりと感じるお陰で「夢」である可能性をも否定する。


正真正銘、自分の身体であり、紛れも無い現実だった。


 (どういうことなの……)


 「衝撃による、記憶障害かもしれません。

 ……なにせ、"高い所から落ちた"のですから…」


 混乱の最中、医師の言葉が鮮明に響き渡る。


 (落ちた………? 高い所…… )


 ぐるぐる回り出す記憶。


 (………そうだ…アタシ……あの時………)


 朧気な記憶が急速に巡る。まるでフィルムが回るかのように断片的な画面シーンがそれぞれ浮かび、その中の一部分きおくが抽出された。


 (…上から落ちてきた"人"にぶつかったんだ……! )


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