人間好きな人魚も種族差には悩む 2
気分転換に短編投稿です。すみません。前回の短編の続きです。
こぽこぽと水の音が聞こえる、とある場所。
明るい声が響いている一角があった。
「なあなあ!オレがこれつけるのかー?」
パタパタと小さな尾を振りながら目を輝かせる少年は、磨いた大きな石の上で小さな細工を作る煌びやかな男の側に近寄りその手元を凝視している。
熱視線を浴びた男は、手元は絶えず動かしながら苦笑を浮かべた。
「こら、まだ触ってはいけないよ。そろそろみんなの髪飾りの用意をする時期だからね。君のはこの青だね。……ただ、その言葉遣いは頂けないな。オレではなく、私。だろう?」
さらりと肩から落ちる白銀の髪を纏める髪紐には大小様々な飾り玉が連なり、光を反射しては涼しげながら華やかな彩りを男に添えている。
髪のみと言わず、首や手首と、細かな細工をつけた男は僅かに柳眉を顰めて窘めた。
「えー。でも、アイーシャが「オレ」のほうがかっこいいって!」
「……またですか」
元気よく笑う少年に、男は額を抑えた。
アイーシャ。
この界隈で知らない者はいない人魚だ。
その美しさはもちろん素晴らしいのだが、それよりも噂に登るのは、その特殊な性癖だった。
人魚なのに人間の男が好みと公言して憚らない豪胆なアイーシャは、人魚族の男とは真反対の美的感覚の持ち主である。
曰く、筋肉の付いていない男はお呼びでない、と。
それは公言当時かなりの話題になった。
なぜなら、人魚族の男とは、美しい者こそが優位に立つからである。
「いいかい、悪いことは言わないから、改めなさい。私、だ。そんな粗野な言い方をしては折角の君の良さを台無しにしてしまう。君もそろそろ宿舎を出る頃だろう?大人の一歩手前なんだ。相応の話し方に改めなければ」
「えー、でもアイーシャが……」
「あの子は特別です」
ピシャリと言い切った男は、話は終わりとばかりに手元の作業に集中していく。
近くに寄っていた少年は少々不服そうではあったものの、どこか思う所があったのだろう。間をおかず背を向け去っていった。
残った男はますます作業に没頭していく。
人魚族の男の髪は長く、波に遊ばれやすい。
そのため成人を迎える一歩手前、学舎卒業と共に記念品として髪紐を送る習わしがあった。各々の色にそったそれは、特に美に対して厳しい感覚を持つ人魚族の男達にとって、最も身近で気を使う場所でもある。
男はその製作者の中の一人だった。
「アイーシャにも、そろそろ考えを改めてもらわなければ」
懐に伸ばした手に感じる装飾品の感覚に、男は緩やかに笑みを浮かべた。
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一方、その頃のアイーシャは。
「きゃーーー!!メチル!メチル!これ見て!何これ!裸の筋肉がこんなにーー!!」
「……アイーシャ。うるさい。えーと、……『男祭り!……』なんて読むの?これ」
「『消防士』よ!人間達の中でもスッゴイ大変な仕事らしいの!そして……なにより筋肉が凄くて!それに!は、は、裸で!!」
鼻を抑えるアイーシャの手元には、まるで壊物の様に厚みのある紙束がある。
男達が上半身裸で笑顔で微笑むそれは、難破船からの落し物。少々水に濡れてはいるものの、再現魔法をかけたそれはアイーシャの目を釘ずけにした。
カレンダーと呼ばれるその紙束が、アイーシャの秘蔵コレクションNo.1になったのは言うまでもない。