頂は常に(裏話)
意外な展開に作者困惑中
とある、尊き方々の執務室。
「シャルル、彼の論文がないよね?」
「ありませんわね」
お兄様が、提出された論文のチェックをしながら不思議そうに首を傾げている。
お兄様が探しているのは、奇抜ながら核心をつく魔法学園の鬼才の論文。
私が手にしているのは、真逆の平凡でありきたりな纏まり方をしている彼女の論文だけど、お兄様の読んでいる論文の束の方にもいくつも混じっている。
昨夜、この論文をネタに乗り込もうと思っていたのに、本人がいなくて残念な思いをしてしまった。
彼女の調理器具や研究器具はそのままだったので、たまたま他で寝泊まりしていたのかもしれないが、彼氏でも出来たのだろうか。
クマとメガネに隠された素顔は、同性からみても極上。健康的でなく病的に痩せているから異性を感じる者はいないようだけど、これまでの功績を含め数年もしない内に利用価値が兄の目に止まり、私のような魔法使いの側室の王子が生まれても不思議ではない。
彼女は私の母が辿った末とよく似た道を歩いている。
今はすでに鬼籍にあるが、母は学園卒業者だ。
それもかなり優秀で美しかった。
才能を見込まれ側室となったとされているが、どんな形であれ、王家に見初められるのであれば、それはとても名誉な事だ。
「…やはり、論文に提出者の名前がナイのは不便ではないか?」
「あら、外国に研究者個人を特定させないための処置ですもの、仕方ありませんわ」
「だが、顔を知らないのは仕方ないとしても後々夜会で会った時の事を考えるとだな…」
「研究所の研究者すら、自らの研究を名乗り出る事はありませんもの、私たちは彼らの研究に全力であやかればいいのですよ?」
「…シャルル頼むから普通に話してくれないか?」
「兄上も一度女装して女心を学んだ方がいいですよ?」
「そのまま堂々と夜会に出て行くのは、どうかと思うのだがな。」
「女性が気になるブランドを着ていけば、気安く話しかけてくれますし、妙案だと思いますが?」
異性に対しては、警戒心を剥き出しにしていた私には、夜会での女心を知るために始めた女装が役に立っている。
今では立派なライフワークといっても差し支えない。
「…で、お前はまた彼女の部屋とやらに忍び込むつもりか?」
「忍び込むだなんて人聞きの悪い、立派な逢い引きです」
「…女同士の関係だったんじゃないのか?」
「私が望めば、いつでもモノに出来るくらいの関係は出来てますし、無理矢理でももみ消せばいいと思いませんか?」
「誰かこの犯罪者捕まえてくれっ!」
なんの、まだまだお兄様にはかないませんわ。
お兄様は、今月だけで何人のメイドさんを召し上がりになったとお思いです?