私の思いとうらはらに
えーと、話がそれてしまいました。
私がお世話になるのが、ラインハルト侯爵家なのはオーケーです。
侯爵≒辺境伯らしいですが、侯爵は主に王都とのやりとりをしなければならないらしく、侯爵を拝命した時に、辺境伯がなくなるなら侯爵にならなくていいとゴネたら爵位の譲渡を許され、辺境伯がルーベンス様の爵位であるそうです。
辺境伯は建国時からたくさんあるそうで、一番小さな領地は王都から一番離れた村だけという方もいるそうです。
この辺りの土地名は建国時から変わらずラインハルト辺境伯領。侯爵領地は国王様が、分かりやすくグルーデック領と呼ばれているそうです。
土地名はまた別にあるそうですが…。
辺境伯は基本的に国の政治には関わっていないそうですが、代わりに独自の統治権が保証されています。
その地域の安定と国が指定している税さえ納めていれば問題ないのだそうです。
土地からは税を取らず商いだけで、税金を賄う辺境伯もいるそうですし、辺境伯に関しては国の方が一歩引いていて、あまり干渉したがらないでいるといった風潮があるそうです。
もともとは王都から離れていて無派閥であった辺境伯を、戦績から放置するには惜しい有能な臣下であると判断し、王族派が城関係者として取り込みたかったが為に誕生した異例の武闘派侯爵らしいです。
継承を許された辺境伯が統治を行い、実績により発言力がある侯爵様が領地の外側を受け持っているらしいです。
でも、私からしたらどちらも雲の上の方なので、精神的圧力はバカになりません。
カティア様やルーベンス様から私の事や学園の事を聞かれて答えているんです。
その際、学園での過ごし方を私なりに説明すると、侯爵様から発せられる威圧感が異様に増したりして、泊めて頂くよりも先に、心臓の方が止まるんじゃないかという思いを抱いてたりします。
平民なので、どうか言葉と礼儀を知ないのをお許し下さい。
「そういえばアナタ、アティアさんの下宿先は決まりました?」
「そうだったよ。下宿先の話もしておかないとだね」
ルーベンス様が、執事さんから封筒を受け取りこちらに歩いて来られました。
普通は立場が上の方々は封筒や書簡を執事に預けて渡したりするのだと思いますけど、早いところ下宿先を紹介していただかなければ、心労で倒れるかもしれません。
「…それでだね、知り合いの下宿先を訪ねてきたのだけど、今は独身者ばかりだから、若い女性が一人だけだと下宿は難しいと断られてしまってね。」
そう言いながらルーベンス様は、椅子に座る私の目の高さに交わせてから、私に封筒を握らせました。
「…見てもらえるかな」
「はい」
受け取った封筒の中には書類らしき紙が一枚。
どうやら、住民票とか所在地がかかれているようです。
「クルカロ1ー1…一等地ですね」
「うん、悪くないと思うよ?」
私は「どこでしょうか?」という言葉を口にはしないで、書面に集中する。クルカロは町の名前だそうですが、1の1となると都市であると町の中心地になりますね。
家族構成は当然1人なのですが、同居人の数20人…同居人が多すぎる。
学園では腕輪が住民票を兼ねていたので書面を見たことはなかったのですが、学園敷地の寮に住んでいたみんなも同居人扱いだったとしたら100人を超える大家族で表記されるのでしょうか?
でも、カティア様とルーベンス様の視線がさっきより重たいような気がしますが気のせいですよね?
「本当は、下宿先に紹介する予定の住所で取得して置いても良かったとは私も思ったんだ。」
「はい」
「下宿先がまだ決まりそうにないし、警備隊に雇うのにも住人として所在がハッキリしている方が都合が良いし、一時的な処置でも家で同居しているとした方が役所にも伝わりやすかったから此処に住んでいる事にしてきたんだよ」
「ではアナタ、アティアさんはこの家に住んでいる事になるわね?」
ウフフとカティア様が笑っておられます。
まさに開いた口が塞がらないとはこの事でしょうか?私の口はなんでどうしての“な”の形でパカーンと開いたままです。
所在を見た時に予想は出来てましたが、文字通りの“侯爵領の中心”が私の所在地になったようです。
「ところで父上。」
微笑み合うお二人に長男のロベルト様が話しかけます。
「どうしたんだいロベルト」
「アティアさんが此処に住まわれるにしても、いくつか問題があると思うのですが?」
「問題かい?」
「はい」
ルーベンス様に話かけながらロベルト様は私をチラチラ見ておられます。
見ず知らずの他人がいきなり同居してきたんでは、気になりますね。
ロベルト様の言う問題点なら、私でもいくつか心あたりがありますし、当然の反応だと思うのですよ。
ルーベンス様が、いずれ下宿先に移り住む私の所在をココにしたのは、なにより先に住民票の取得を急いでくれたからだと思うのです。
でも、市井の 私が侯爵様方と同居というのは問題があると思うのですよ。
「家で働いてくれている皆も同居人と扱われているからいいと思いますし、父上らしく迅速な判断だと思います」
ルーベンス様が「うん」と頷いきながらカティア様をチラ見しておりますね。
そう言いえば、先ほどの夫婦喧嘩でカティア様に“先に書類”と言われていたような気がしますが、住民票の取得なんて普通は何日もかかったりするんですから、半日足らずで住民票取得してしまったあたり、迅速を超えてしまっているような?
「…皆様と違い下働きではないですし、アティアさんをどうお呼びしたらいいのでしょう?」
「「「「!!」」」」
ロベルト様が気になさっておられたのは、まさかの呼び方でした。
ルーベンス様とカティア様が何やら衝撃を受けております。
隣の侯爵様が「娘は経験ないから困った事になった」なんて言ってますが、気にする事ですか?!
「アティアさん、村や学校ではどう呼ばれてたんですか?」
ロベルト様が私に話しかけてくださいましたが…。
「村では、北の家の娘で、学校では…メガネとかたまに名前でした」
皆様が黙ってしまわれました。
メガネは特徴ではありますが、流石に呼びづらいですよね。
周り中男の子だらけでしたからね。
私から異性に話しかけるのは憚られましたし、友達どころか話しかけられる事も少なかったんですよ。
そう言えば、論文を出した後には必ず訪ねて来る“心は女性”の方がいましたね。
その方は、決して自分の名前を教えてはくれませんでしたがその方は…。
「アティと、オカさん…オカマさんに呼ばれていました」
仕方なくオカさんと略称したら、苦笑されていましたが、オカマでなければ警戒していたのでしょう。
論文の内容を詳しく聞きたがり、
「…その“オカマさん”の特徴を教えてもらえるかな?」
「オカさんは、私よりうんと背が高くて、サラサラの金髪を腰まで伸ばして、細身で目の色は緑色で、学園指定のローブのしたにドレスを着てました」
「アティアさん。私は、どこかの王子様の噂で“そんな姿をすている”と、話を聞いた事があるような気がするわ」
カティア様が困ったようなお顔をされておりますね。
侯爵様も「…シャルルの若造め」とか申してますが、私の学園生活に第三王子様は全然関わってないですよ?
「因みにそのオカマさんとは、どんな関係だったんだい?」
ルーベンス様はオカさんと私の関係がどんな物だったか気になるみたいですね。
「そうですね、深夜に来て朝方まで話をしていたくらいでしょうか」
オカマさんですから、貞操の危機にはなりませんでしたし、気安い関係だったような気がします。
何度か学園内で会えないかと探した事もありましたが、明るいうちに会えた事はありませんでした。
オカさんにも、お別れを言えませんでしたが、もう二度と会えないのですよね。
彼女との意見交換はとても有意義だったので、ちょっと後悔しています。
そう言えば、私の興味で魔素の人工定着による魔石の作成をしていたんですが器具も放置しっぱなしで来てしまいたしたね。
魔石は、魔石の体内で魔素が集中している部位に精製されるんですが、もしビーカーに魔力を集めていたら中で人工定着できるんじゃないかと思ったんですが、あの時点ではビーカー内部にうっすらと霜が降りた位でしたから、なんの為の器具かわからずに、そのまま洗い流されるか処分されちゃうんじゃないですかね。
人工定着できたら画期的だと思ったたんですが、オカさんにも無理だろうと言われてましたし、ダメでなんしょうね。
「私の部屋に入った事があるのは彼女だけですし、私としてはかなり親しくさせて貰ったつもりなんですが…」
「友人か」
「あり得なくはないけど…」
「ふむ、少し用があるので席を外させてもらうがいいかね?」
「父上、もしかして転送陣を?」
「うむ、早急に彼女との関係を問いたださねばならぬだろう」
「ですが、今は不味いのでは?」
「だがな、ワシの下にいるとわかればアティアくんの立場が悪くなる事もあるまい」
グルーデック様とルーベンス様が私を見ながら話されておりますがそんなに気を使ってもらうのであれば、貴族様らしく「もうよい、下がれ」とか言って、私を“下げ”てくだされば助かります。
でも、転送陣があるんですか。
離れた場所まで一瞬で送れる魔法でしたよね。
魔法も高度な術式が使われていて一度の転送で魔石を大量に消費されると聞いてます。
「ワシの手持ちは、行きの分しか集まっとらんから帰りの分は任せてもいいか?」
「わかりました、警備隊で集めて置きましょう」
―魔石は買い集めるのではなく自給自足っぽいです。