及ばざるを知る
ルーベンス=ラインハルト辺境泊
それが、ルーベンス様のフルネームだそうです。
貴族様とは思っていたのは確かでしたが、私は伯爵一家の邸宅にお世話になりに来てしまったみたいです。
「痛いっ!痛いよカティア」
「痛いじゃありません、浮気で作ったでもない人様の子をかってに“我が子”にしたいなど許されると思ってるのですか!」
「いや、だからそれは言葉のアヤで…」
いたたまれない。隣の部屋から聞こえてくる、ルーベンス様の悲鳴に私は、伯爵夫婦の修羅場に巻き込まれています。
「なにより、先に役所で必要な手続きを進めて置くからこその貴族でしょう!」
学園に入る市井の立場から、ヘタしたら今の私には国籍もナイ可能性がある旨を伝えたので、カティア様が言う手続きは、街の住民票登録の手続きの事だと思います。
ルーベンス様が「私の最愛で自慢な美人の奥さんのカティア様だよ」と紹介し私自己紹介をすませた辺りまでは和やかな雰囲気だったのですが、ここに至るまでの事情を説明した後はこんな感じのまま今に至ります。
あ、カティア様も私の素顔を見た後しばらくの間黙ってしまわれました。
それに、メガネが無くても見えるようにする方法もないわけじゃないんです。
視力は低下ではなく、魔力の流れや大気中に漂う魔素の反転を見る為のレンズを使用している時に、マグネシウムを使った実験方向を見てしまい、強い光でのせいで、瞳孔か網膜に魔法陣が焼き付いてしまったからなんです。
結果として、目だけで視ると他の人より魔素が細部までハッキリみえるようになりました。
近眼にしておいた方が説明が楽だったし、メガネに魔素を見えなくする魔法陣が入っているので当分はこのままでも不都合はありません。
研究から離れれば魔素を見る必要はありませんし、腕のいい治癒術師に会えれば治療を頼んで見るのもいいかもしれませんね。
―資金があればですが。
でも、こうまで同じ反応をされてしまうと、私としても思うところはありますし、今後は人に見せないようにしましょう。
なんか、隣の部屋から静かになった所で、執事らしきお爺さんが、他の部屋に案内してくれました。
◇
ば ん じ き ゅ う す
「では、“家族”が全員そろった所で、改めて自己紹介をしようか」
広間のテーブルに“ラインハルト侯爵家”が揃った。
ええ、ラインハルト伯爵家ではなく、ラインハルト侯爵家だそうです。
この町近隣はルーベンス=ラインハルト伯爵の管轄ですが、この地方は、ルーベンス様のお父上であるグルーデック=ラインハルト様の領地。
つまりラインハルト侯爵の領地だそうです。
ルーベンス様は、侯爵様から一部の管理を任されているだけだと申しておりました。
ルーベンス様の祖父の代では辺境泊だったらしいので大事に継承して行くらしいのですが、お父上の代は戦争があり、その多大な功績を認められ国境まで延びる大きな領地を陛下から賜り侯爵になったのだそうです。
ラインハルト伯爵家以外は敵国に寝返っていてその土地をぶんどってやったなんて表現がありました。
ルーベンス様より立派なカイゼル髭と白髪の混りの黒髪をオールバックにされているお陰でしょうか多分初老と称される年齢のはずなのですが、威圧感が尋常ではありませんでした。
そして、頭主様である侯爵様は、ルーベンス様上座ではなく、席を私の隣に移動なさり「飴食べるかい」と飴をコッソリ渡してくれました。
あの、私そんなに子供に見えるんでしょうか?( ※元々欠食児童の為15才にしては背も小さく痩せてます)
侯爵夫人様は、教会の神官様をしておられるそうです。
ニ三日前から、近隣の村を渡る遠征をしてるそうなのですが、遠征の内容ははなして下さいませんでした。
ルーベンス様は次期侯爵様で、侯爵を継承するまでは伯爵位を名乗るのだそうです。
奥様のカティア様は、三つ年が上だそうですが、魔法学園時代に知り合って、男爵家から嫁がれたそうです。
柔らかなウェーブがかかった金髪の美人さんで、四十はとうに過ぎてるのだそうなのですが、どうみても、三十前半の若奥様にしかみえません。
しかも、自分から年を教えて下さいましたし、魔法学園にいた方々のように、年を気にしておられないのは、カティア様が本当に綺麗な方だからでしょうか?
いつか、カティア様のように堂々とした女性になれるようあやかりたい物です。
息子さんは、13歳の長男ロベルト様と9歳ロナウド様です。
ロベルト様は…黒髪でルーベンス様のように男らしく整った顔立ちで、13歳なのに153センチの私より背が高いような気がしますから、将来はルーベンス様や侯爵さまと同じ180を越える身長になるんでしょうね。
侯爵さまから剣も習っていて、来年から王都に移り住み騎士学校に行く事になるので、習い事がたくさんあるのだそうです。
ロナウド様は奥様ににているのでしょう。肩に掛かる金髪とルーベンス様と同じ焦げ茶の瞳をしています。
年相応の少年といった感じなのですが、魔法の素質が高いので魔法学園にいくのだそうですが、学園ではきっとたくさんの女性からおモテてになりそうです。
魔法学園と騎士学園、格式が高いのは騎士学園です。城に関わる“貴族専用”の学校ですが、第三王子のような方でも魔法の素質が高い者は、魔法学園に来ることがあるのだそうです。
今季は殿下貴族様の名誉の為に作られた、騎士学園の中の魔法学園の特別クラスと、市井の為の教室二つで所在地が完全に別になっていたので彼らを見た事もなかったのですがね。
因みに、騎士学園と魔法学園両方を卒業したことになるんだそうですが学ぶ事が多くて大変そうですよね。
私はダメだったんですが、魔法学園だけなら研究と論文で済むんですから、本当に大変だと思います。