高きを望む
なにわともあれ、ルーベンス様は勿論のこと、ルイス先輩にも感謝です。
ルイス先輩がルーベンス様に会わせてくれなければ、宿はともかくとして、職探しをしなければならなかったのですからね。
でも、私なんかで警備隊員が勤まるのでしょうか?
私は、荒事には向いてませんし魔物退治も経験ありませんから、もしかしたら内容的に厳しいかも知れませんね。
ルーベンス様が、雇用するとは言ってくれましたが、“学園にいた魔法使いだから”雇用をしてくれたのかもしれません。
魔法は不得意分野ですから、歩いてる間に内容だけでもルーベンス様に教えて頂く必要があります。
「ルーベンス様、警備隊と言うのはどんな仕事をするんですか?」
「外側にいる魔物なんかはギルドに任せてしまっているから、主な仕事は“街の中の施設の管理”が多いかな。私やルイスみたいに“戦える者”は少ないけど、酔っ払い同士のケンカの仲裁くらいしかやることはないからね」
「ケンカの仲裁は大変そうですね」
大人同士の取っ組み合いを止めなきゃならないんでしょうけど、私じゃどう考えても難しく思えてしまいます。
「はは、ケンカの場合はその場に居合わせた冒険者が止めてくれてる事が多いから大変って事はないかな?」
なるほど、酒場には荒くれ者ではなく、冒険者がいるんですね。
魔物を退治して稼ぐ人達じゃ、下手な犯罪者を相手にするよりおっかないですね。ルーベンス様達はケンカが終わった頃に駆けつけるので、ケンカしていた人達を仲直りさせるのが主な役割だとか。
小さな町だから、ギスギスしたままでは後々大変なんだそうです。
「その冒険者のほとんどが、この街出身だから平和なもんだよ」
人口三千人程度、外側に点在する集落から出て来た人が市場で店を開いているから街として機能しているんだそうで、都市で起こる“犯罪”の大半はまず起こる事がないそうですね。
冒険者にでもならなければ、魔法使いとしての能力を問われる事はないようなので少し安心しました。
外壁はレンガで作られているのですが、領主さまに雇われた土木系の職人さんが、毎日レンガを追加しているので、高さと厚みは、年々増しているのだとルーベンス様が説明してくれました。
壁の中にある基礎となった初期の壁は、魔法を使って作られているのだそうです。
魔法で作られたとはいえ土ですから、雨風で削られてしまう前にレンガで補強してしまおうといるうちに、今みたいな厚みのある頑丈な壁を作る事になったらしいです。
何代も前の領主さまから続けられ、今日も少しずつ拡張していくんですね。
さて、入り口から大通りを直進して来てますけど、通りの突き当たりはまた外壁になってます。
ただ、その壁の向こう側に、いくつかの尖塔らしき物が見えているのが気になります。
壁の一部が鉄製の扉になっているみたいですし、外側に砦でもあるのでしょうか?
「このフェンスの向こうが私の自宅になっているんだ。」
「…フェンス?」
フェンスと言えば、わかりやすいのは鉄製の柵ですが、ルーベンス様が指差しているのは外壁と同じ物です。
両端も真っ直ぐ外壁に行き当たっているように見受けられます。
「私の祖父が辺境泊をしていた頃は、まだ外壁が今ほど厚くなくて、屋敷に周囲の村や街の人間すべてを受け入れて防衛戦が出来る砦のように設計されていてね。
外から尖塔が見えていただろう?あれは壁が高くなる前は物見塔として外側を見張る為に使われていたんだ」
ルーベンス様が「今では人数も増えてしまったし、街の中しか見えないから、飾りでしかないけどね」と話しながら開けてくれた扉の内側には、城としか言いようがない建物が建っていました。
「お城が…」
「城だなんて大げさな。
物見塔と避難施設を兼ねてるからそんな形に見えるだけで、実際に国への登録は塔という扱いになってるんだよ。」
建物は人が居ないとすぐ劣化してしまうとは聞いた事がありますけど、人が行かなくなったらしい物見塔は内部が劣化してたりするんでしょうか。
学園の最大の投資家であるラインハルト侯爵家が塔に住んでいるとの噂が出回っていた時期もありましたが、辺境の伯爵様が塔に住んでいるのには驚きです。
でも、どこをどうみても立派なお城にしか見えないので、お貴族様の建物の基準は私にはとても難しいようです。
何度もしつこいようですが、私にはお城にしか見えませぬ。