帰りも歩きます
「俺が魔王に選ばれた理由……?」
「ええ、魔王様……いえ朔様が魔界に呼ばれたのにはちゃんと理由があったんですよ」
知らなかった。ある程度は審査されたんだろうなとは思っていたが、明確な理由が、確固たる意志が、そこにあったなんて。
「もちろん暇で長期間居なくなっても人間界に影響が出ない人だからですが」
おいまてよ、驚きを返せ。
「でもほかに一番の理由は私が朔様を推薦した時にほかの上位悪魔達も皆、この人なら何かを変えてくれると思ったからです。ほかの3人も全員同じ意見でした。魔王様には何かがあると。素晴らしい何かが。」
「そうね」
ウィッチさんが相槌を打つ。ウィッチさんもそのメンバーの一人だったのか。
その時を思い出すように一旦言葉を切ると、再びミラは話始める。
「だからさっきの言葉は本当になります。魔王様なら出来る。根拠なんていりません。魔王様だから出来るんです。私はあなたにどこまでもついて行きます!!」
「ミ、ミラ」
「はい!」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどちょっと落ち着こう……な?」
「え……?あ、す、すみません!魔王様の言葉聞いたら熱くなっちゃって……」
「い、いやいいけど……」
なんかすごい照れくさい。自分への尊敬をこんなにぶつけられた事なんてなかったからなぁ。。
俺が止めたにも関わらず何も言えない。さっきとは違う沈黙になってしまった。
「はいはい、二人ともそろそろ帰りましょう。これ以上いると体調に影響を及ぼし始めるわよ」
このタイミングでウィッチさんが帰ることを提案してくれる。
こういう事をしてくれるとすごく助かる。
ガイコツ兵は……だめだ、頭蓋骨の位置気にしてる。こいつもうクビにしようかな。
ともあれ状況もわかったし、これ以上いる意味もないのでさっさと帰ろう。
「そ、そうですね。早く歩き始めた方がいいですね」
ミラも同意して……え?
「ちょ、ちょっと。なんでここから移動魔法使わないの」
「ジャッジメントゲートのある空間は不安定なの。移動魔法を使うと永遠に暗闇に飛ばされる……何てこともあるかもしれないわ」
やめてくださいよウィッチさん。なんすかそのホラー。
「来るときは健康のためって聞いてたけど……」
「それも理由の一つですよ」
ミラがさっきの沈黙から復帰して何事もないように言う。冷静を装っているのなら、まだ顔が一目でわかるほど紅いから意味ないんだけど。
それにしてもまた歩くのか。
もう行きだけで疲れたのに、なんかフラフラするし。
「なんか嫌そうっすね魔王様。割と貧弱なタイプッスカ?」
「お前城帰ったらちょっと部屋こいよ」
「や、やだ何する気ッスカ」
「お前を壊してやる」
物理的にです。
「茶番はいいですから、行きますよ」
「ああ」
来た道と同じ道を歩き出す。
疲れたのか、帰り道の方が行く時より遠く感じる。なんかみんな歩くの早いし……。
インドアな魔王様と違って体力があるのだろうか。体力つけた方がいいなぁこれ、帰ったら誰かに相談しよう。
今は仕方ないから少し後ろを歩いて行くことにする。
そうだ。ちょうどいい、頭の中を整理しよう。さっきのミラの言葉でまだ俺も浮かれてる気がするし……。
まず、今回の視察で一番大きかったのは、天界との戦争を終わらせなければならないことを認識したことだ。
最初の目的であった天界侵攻に対応する策のための視察、という点とは異なるが、より重要なことに気がつけたと言えるだろう。
次に考えるべきことは、それができるかどうかだ。ミラや上位悪魔達は嬉しいことを言ってくれたが、楽観視していいわけではない。具体的にどうするか……ここはずっと考えていかなければならないだろう。
「はぁ〜〜」
自然とため息も出てしまう。後悔してるわけではないが、先行きの見えない不安はどうしたってあるものだ。
「魔王様どうしました?どこか体調でも悪いですか?」
「え!?わ、おい!」
「え?きゃっっ!」
ぼーっと歩いていたところにミラが急に出てきて正面からぶつかってしまう。
思いがけない衝突に二人とも倒れてしまう。考える間もなく、反射的にミラを抱き寄せ、自分の上に倒れさせる。柔らかい重みがかかり、ちゃんと自分の上に引き寄せられたことを確信する。
一瞬ミラは驚いたて硬直したが、すぐにバッと飛び退いた。
常識的に考えたら王が臣下のために倒れるなんてあってはならないが、この時俺は、ミラを守れて安堵する気持ちしかなかった。
「っってーー、大丈夫かミラ。急に出てくるなよ危ないから」
「す、すす、すみません。だい、だい、大丈夫です」
「なんか口回ってないけど本当に大丈夫か?」
「平気です!!むしろ魔王様大丈夫ですか!?お怪我は!?」
「平気だよこれくらい。人間界じゃ鈍臭くてしょっちゅう転んでたし」
「そうですか……。よかったです、あの……守ってくださってありがとうございました」
「ああ、いいよいいよ。さあ行こうぜ、遅いから呼びに来てくれたんだろ?」
「……っはい!行きましょう!」
明るくミラはそういうと、俺の手をとって引っ張っていく。
「バカ、走るな走るな。また転ぶだろ」
「こんなこというのも変ですが、また転びたいです!」
謎の発言をするミラのテンションはおかしく、変な感覚だったが、つないだ手は柔らかくて離す気には、ならなかった。