まだ城にいます
「魔王様のせいで出発が遅れましたが、これからジャッジメントゲートの視察に向かいます。何事もないとは思いますが、気を引き締めていきましょう」
「「はい」」
「ええ」
ミラの呼びかけにウィッチさんや、ガイコツ兵が答える。
みんながいい返事を返すあたりから、慕われているのがわかる。
美人で落ち着いていて、しかも能力が高いとなれば全く不思議なところはない。
「なんで魔王様からは返事がないんですか」
「いや歩くのが鬱なんだよ」
ちょっと意外な姿にいいなと思ってました。
なんて言えるわけもなく、それはそれで要因でもあった言葉をかえす。
「そういえばウィッチさんはミラに敬語じゃないんだな」
「まぁトップクラスの魔法使いですからね、攻撃魔法なら私のほうが上ですが、補助系統の魔法ならウィッチのほうが上です」
ウィッチさんに頼んでちょっと短くしてもらおうか、見た感じ大人なお姉さんって感じで頼みとか聞いてくれそうだし。
と思いつき頼もうとしたところに
「え、魔王様運動不足なんですか」
「いやー俺らもなんですよ。最近骨密度高くなっちゃって」
「まぁいい機会っすよねーこういうの」
フランクだな!ガイコツ兵!いや別にいいんだけど。さっきのミラの「気を引き締めていきましょう」はどこへ行ってしまったのか。
しかもちょっと提案しずらくなってしまった。諦めるか……。
「お話はそろそろ終わりでいいかしら?テレポートも結構疲れるからさっさと終わらせたいのよ」
ウィッチさんの周りにぞろぞろと集まる俺たち。いや、ガイコツ兵がもたついている。あんまり強く押されたりすると壊れるのか、慎重に位置を決めている。
「もっと近くにきて。範囲が狭いほうが楽なんだから」
ウィッチさんの声でもはや密着するくらいまで近づく。
隣のミラは肌が冷たくて気持ちがいい。恥ずかしいのか顔が少しだけ赤い。男と密着するような、こういう経験はしたことがないのかもしれない。
前のウィッチさんは胸元が開いたゆるい服なので、その、おっぱいがマーベラス。
逆のガイコツは言うまでもなく骨だった。
「じゃあいくわよ、絶望よ、我を思い出の地へ召喚したまえ」
おお!それっぽい!!
「転移魔法!!ルー◯!!」
聞いたことありすぎ!!
がんっ!!
「「「「「痛い!!!!」」」」」
勢いよく上空へ飛んで行った俺たちは城の天井に激突した。
天井あったらル◯ラ使えないよね!先に気がつこう!
ガイコツ兵は衝突の力によって見るも無惨に体がバラバラになっている。
「痛って〜……ガイコツ兵おまえらそれ大丈夫なのかよ……」
「頭蓋骨が壊れなかったので、ボンドでくっつけられれば戻ります」
工作かよ。
「と、とりあえず外に出てもう一度いきましょう。ガイコツ兵さん達は休んでてください」
「ミラさん、すいません。そうさせてもらいます」
「いえいえ……
魔王様たち、ちょっと待って下さい。代わりに行ってくれるガイコツ兵さんを呼んできます」
最初から前途多難だな。大丈夫かこれ。
ミラが走って呼びに行ってしまったので、ウィッチさんと二人きりだ。
それにしても、この失敗でウィッチさんの出来る人イメージが完全に壊れてしまった。ほんとにこの人凄いのか?
「次は成功させるわ」
今も飛んだは飛んでましたよ。
「は、はぁ」
「ごめんなさいね魔王様、うっかりしてたわ」
結構抜けた人なのかもしれないが、それはつまりガードが緩いということである。
そして、今なら邪魔者は誰もいない。
ならばとる選択肢は一つ。
魔王の力を最大限利用してやる。
「駄目だな、俺の願いを一つ聞いたら許すが」
一瞬驚いた顔をするウィッチさん。なにを言われるのか察したのだろうか、少し顔を赤らめるている。
歳上のお姉さんってやっぱりいいですね。
こう言ったシチュエーションに顔を赤らめるということはMの気質があるのか?
それともノッてくれているだけだろうか。どちらにせよ好都合!!
「な、なに?魔王様のためならなんでもするわ」
「いい心がけだ。どんな命令でも聞けよ?」
「え、ええ」
「お前の……」
「私の……?」
「魔法で到着地点を3km前くらいにしてくれ」
「え?それだけ?い、いいですけど」
よっしゃぁぁ!!!!
諦めかけてた希望が復活した時の喜びってすごいよね。ウィッチさん拍子抜けしたような顔してるな。
まぁそれもそうか、魔王がこんな軟弱だなんて思わないだろうし。
「ただいま戻りました!一人連れてこれましたよ。……ってなんですかこの雰囲気」
ふっ、ミラ一足遅かったな!もう秘密の約束は終わったぜ!
「なんでもないよ、新しいガイコツ兵君、よろしくな!さぁ行こうぜ」
「ウ、ウス」
ちょっと短くなっただけでもとても幸せだ。あいつら早く外に出てこいよ。
「魔王様なんであんなにテンション高いんですか?」
「……さあね!」
「なんでウィッチまで変なテンションなんですか!?なんだか期待を裏切られたような」
「聞こえないわ!早くいきましょう!」
「なんなんですか、もう!」
「おいらが一番状況わかんないっす……」
ワイワイ言いながら、今度こそ外に出て、例によって集まり、例の呪文で俺たちは3km手前地点へと飛んだ。
気を引き締めた緊張感はどこにもなかった。