魔界暮らしを紹介します
「王よ、おはようございます」
「おはようございます」
「おはようですわ」
ここは魔界の首都とでも言うべきシエラネバダという都市の中央に建つ魔王城 謁見の間。
でかい玉座ときらびやかな装飾で、魔王城の中でも最も目立つ部屋だ。
ここで魔王をもっと身近に感じてもらうために、訪れてくれた魔物達に謁見の場を設けているのである。
今はその真っ最中。
そこまで格式ばったものではなく、様々な魔物達があいさつや世間話をしてくれる。
見た目には非常に気持ちの悪いブヨブヨした奴が家の雨漏りの話をしてきたり、オークが畑で採れたといって野菜を持ってきてくれたりすることもある。(実はオークは草食らしい)
魔物の個性にもいろいろあるものだ。
いつもこうした会話を楽しみながら過ごしていると、2時間ほどで、俺を魔界に連れてきた侍女悪魔が終了の言葉をアナウンスして解散となる。
次は……サキュバスの女の子か。
俺は別にロリコンではないが、小さい女の子はやはりかわいいものだ。
「おはようございます!魔王さま!」
「ああ、おはよう」
「今日は魔王さまに貢ぎ物がありまして……」
まだ小さいのによくできた子だ。挨拶もハキハキしてるし、貢ぎ物はお母さんにでも持たされたのかな?
親の教育も大変よろしいようでなによりだ。
「ありがとう、なんだい?」
「私のパンツです!お母さんが上げたら喜ぶって!」
「は?パンツ?」
そういうと、履いている真っ赤なスカートの中に手を突っ込み、グイッとパンツだけ下ろして、パンツを脱いで突き出してきた。
白でいかにも幼児用だが、パンツはパンツ。
唐突のことでうろたえてしまったが、差し出した本人である女の子はニコニコしてる。
やだ、かわいい。
いやしかし道徳的にどうなのだろう。流石にこの年齢の女の子のパンツは同意があるとはいえ、問題がある気がする。人間界なら一発で警察沙汰だ。
だがここは魔界、そして俺は王。つまり俺が法律と言っても過言ではない。
そして、俺は決断する。
…………くれるならもらおう。相手から出してるしこれは合法。
なんなら法律を変えても……ね?
いやほら、泣かせでもしたら王の信用がさ。
「ありがとう、履かせても」
「本日の謁見はここまでとします。皆さん、今日も良い1日を、あなたはパンツを履いて帰りなさい」
「おい!?」
「はーい」「ちぇー」「まぁ、また明日だな」
ゾロゾロと帰っていく魔物や小悪魔達の背中を後ろから見送る。サキュバスの女の子もいそいそとパンツを履いて帰って行った。
俺のパンツが……
「お前なんてタイミングで終わらせてんだよ!?あれじゃあ女の子がかわいそうだ!そして俺が一番かわいそうだ!!!」
「魔王が幼女に興奮してどうするんですか」
「俺をそこら辺の変態と同列に扱うな!ちゃんとジップロ○クに入れてタンスに丁寧に保管する気だったのに!」
「なんか妙にリアルな気持ち悪さがありますね……それにさっき履かせてもらうっていってませんでした?」
「うっかり間違えたんだよ」
「その間違え方は絶対にダメなやつですよ!?」
幼女は見守る物。それは絶対である。従って幼女パンツも見守る物なのだ。履きたいなんて少ししか思ってない。むしろ履かずに嗅ぎたい。
「お母さんの教育が間違ってる気がします……」
娘が男心を掴めるようにパンツを掴ませるとは……やはり魔界は違う。
やっぱり大変よろしい教育だ。
「にしてもやっぱり魔界の人はいい奴が多いな。さっき来てたミミックさんなんて、友達に手伝ってもらってまで来てくれてたもんな」
「ミミックさんの本体はその友達みたいにみえた後ろの獣人ですよ」
「え!?そうなの!?」
「あの宝箱はいわば飾りで、喋ったりするように見えるのは腹話術らしいです。敵の攻撃がそっちに行けば儲け物だということらしいですよ」
「はぁ、なるほど」
結構いろいろ考えてるんだな。
朝の挨拶などめんどくさいと思っていたが、やってみるといろいろなことが知れて、結構面白かったりする。
「天界の奴らにはどっちも殺されるそうですけどね」
「むごい……」
そう、 天界人……これこそが俺がこの世界に呼び出された理由だ。
まず、世界には魔界・人間界・天界の三つがあるらしく、その中でも魔界と天界は近く、人間界は遠いらしい。
だから人間界では魔界や天界のことなどは認知されてないのだそうだ。
魔界としては争う気は全くないので凄く都合がいいのだが、問題はもう一つの天界だ。
いやに好戦的で、魔界を侵略しようとして二つの世界をつなぐ巨大な扉から何度も侵攻してくる。
撃退はするものの、全く諦める様子がなく、しかも戦力はそこまで差はないらしい。そこで、魔界の政府は問題の抜本的解決として、第三の世界、人間界に助けを求めたのだ。遠い世界に無理やり穴を開け、魔王として着任してさせた。
人間が魔界の王になったというのは、狙い通り天界に影響を及ぼし、着任から侵攻は行われていない。天界も慎重になっているということだ。
平和な毎日が魔界には訪れ、そのきっかけである俺は魔界の人たちに好かれるような魔王へと就職?ができたわけだ。
「まぁなんにせよお疲れ様でした。朝ごはんでいいですか?」
「あ、うん、よろしく」
俺の魔界での生活は大体魔王城の中で行われる。
専用の部屋があてがわれていて、人間界のゲームやなんかもある。
衣食住すべての世話をしてくれるここは、現実世界のアパートの自室よりもよほど住み心地がいい。
出てくる料理はわけがわからない物もあるが、美味しいので文句もない。
さっきから世話を焼いたり、話し相手になったり、突っ込んできたりしている侍女悪魔は、俺が最初に会った悪魔で名前は<ミラ・エウロパ>。魔王人間作戦の立案者で、代々魔王に使えているらしい。
金色の美しいロングヘアーに、燃えるように赤い目。それに揃う深紅のワンピース。そこから伸びる肢体は白く、艶めかしい。
魔界ではもちろん、人間界でもこれほどの美人はそういない。ハリウッドスターでもなれるんじゃないかというほど美しい。
「じゃあ魔王室で待っててください。持って行かせますから」
「出来ればパンがいいな」
「わかりました」
一礼して出て行くミラ。
ここにいても確かに仕方ないので、魔王室に帰る。
「あ、しまったな……ジャム頼むの忘れてた。まぁいいや人間界いって取ってこよ」
魔王室は人間界の押入れとつながっているスペースがある場所を部屋にしたらしいので、こうしてものを取りに行ったりも出来る。 超便利!
「部屋に戻るのもひと月ぶりだな、魔界暮らしやすすぎるだろ」
慣れてしまった日常に感謝して、俺はひさしぶりに、魔界の王からただの一般人、月之夜 朔に戻るのだった。