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恋の魔法は世界を照らす  作者: 火龍出水
2/3

1-1

 シアス、それはこの村の名前である。三つの剣と名高いウィリアムズ家が居を構える小さな村で、ーー真相ルートで秘密が明かされる特別な土地でもあった。

 失われた古代文明の遺産、技術を使い発展してきた新世代の人間ーー我々は常に魔王率いる魔物に脅え、生きてきた。かつては大地を豊かにするドワーフや木々を癒すエルフ、大空を優雅に飛ぶ龍が世界を統べていた。そして彼等と手を取り、古代人は平和な世界を築いていた。全ては過去の話である。古代文明から存在を読み取れる今の世界にはいない彼等はどうなったのか。

 それらは「マジック☆プリンスー恋の魔法は世界を照らすー」の真相ルートで明かされる。お姉様方が攻略出来ないかとエルフに構いまくり、選択肢のパターンを全て試した末に漸く発掘されたものだ。ネットに情報を流したとある彼女は真相ルートよりも恋愛ルートが欲しかったそうで、大層嘆いていた。シナリオ達成度が真相ルート解放で百パーセントになってしまい、絶望したそうだ。

 ーークロードきゅんのキススチルが先だ!と熱弁した私は彼女に睨まれた。そう言えば近所のお姉様だった彼女とは萌えジャンル、属性がことごとく合わなかった。人の萌えを貶める事はするべからず。被らないからこそ一緒に楽しめるものもあったが。

 現実に戻ろう。

 ふう、と溜息をつく。目の前でプルプル震えている最萌えクロードを見ていると心が安らぐ。嗚呼、なんて可愛らしいんだろうか。従兄弟に生まれてジゼル、幸せ!


「ジゼルちゃん、どこかいたいの?」


 首を傾げて聞いてくるクロードは殺人級に可愛らしい。鼻血が出そう、ああ幸せ。上目遣いを自然にするなんて小悪魔かい!はわーん!

 大丈夫よ、クロードは優しい子だねと返してギュッと彼を抱き締める。


「えへへ。ジゼルちゃんがだいじょぶならよかったあ〜」


 うりうりと頬っぺたを摺り寄せるこの可愛さ、破壊兵器である!悶絶し息が荒くなったが問題ない。心優しいクロードにはまた心配かけてしまったが。

 コホン!ちょ、ちょーっと落ち着こうじゃないか、ジゼル!

 現在の状況は?クロードと二人きり、珍しく邪魔者(セルジュ)は別行動。

 もっと詳しい状況は?ウィリアムズ家の裏の森に従兄弟達と探検に出た。現在、二人組に別れて中心地にある御神木(ゲームでは神樹と表記されていた)にどちらが先に辿り着くか勝負の最中である。組分けはリュシー・ウィリアムズとセルジュ・ウィリアムズの姉弟ペア、クロード・ウィリアムズと私の従兄弟ペアに別れている。

 どうして勝負をしているのか?セルジュと口喧嘩した結果です。

 リュシーってだあれ?ウィリアムズ三兄弟の長女、私より一個上の従兄弟です。仲良しです。

 さて、そんな訳で木々が生い茂る森の中、クロードと二人きりで探検中なのです!ウィリアムズ三兄弟は何度も森に訪れているので方向感覚はバッチリらしい。私もクロードと手をにぎにぎ(げへへ!)して、一緒に森を進んでいる。


「セルジュにいさまやリュシーねえさまよりはやくつこうね!」


 そう天使の笑顔を向けられたら「はい喜んで」としか返せませんよクロード!物凄く頑張ってクロードの足に合わせる。速い、走るの辛いです。

 ウィリアムズ家はこの世界の中で特殊な役割を持っている。代々「智」「魔」「武」を極めた三人の者が国の守護者を務めるのだ。「智」はセルジュ、「魔」はリュシー、「武」はクロードに役割が振られていた。まあそれは表面的なもので、真の役目は違う。真相ルートで明かされる真の役目は国の守護者なんかでは無かった。むしろーー。


「ジゼルちゃん、しぃっ」

「うわっ」


 急に立ち止まり、小さな人差し指を口の前にあてたクロードは私を引っ張り、木の陰に隠れる。クロードの様子を窺うと、その様子に驚く。天使のように微笑んでいたクロードが、ーー戦士のような鋭い目付きで木々の先を睨んでいた。


「(ジゼルちゃん、しゃべらないで。あのひとたち、ーーおかしい)」

「(う、うん)」

「(ここにどうしてしんにゅうしゃがーー)」


 ああ、クロードの意外な一面が見られて幸せ。浮かれた思考は一瞬で地に落ち着く。握り合った手から伝わる微かな震えはーー緊張であろう。彼が本気で警戒し、真摯に守ろうとしてくれている様子に私も気を引き締める。

 ーーいざとなったら、年下のこの子を守らねば。

 異世界チート特典は持っていないが、ちょっとなら魔法を使える。少しだけなら時間を稼げるはず。

 クロード曰く侵入者を見る。数は二。背格好はーー小さい。魔物であろうか、否、この森の性質上魔物は現れるはずが無い。ならば、人か。

 それともーー。


 刹那、視界が曇る。靄のような何かに捕らわれ、引き込まれた。咄嗟に抜刀したクロードが最後に見えーー意識を失った。



 ▼



 夢を見た。ゲームヒロインが逆ハーレムを作り上げきゃっきゃうふふしている、夢。途中で甘い台詞を囁くセルジュが出て来たがあれは世界に三人存在するというソックリさんに違いない。あまりの不愉快さに吐き気がする。

 不快感と共に目を覚ました。ああ、やっぱり夢だった。セルジュのソックリさんはともかくクロードの甘い台詞には身悶えてしまう。ごろごろ地面を転がりやっほーいと万歳をした。

 そして、そんな奇怪な動きをする私を見つめる姿があった。


「嬢ちゃん気は確かかー」


 手を伸ばした先に見えた姿は、ちみっこの癖に色気が氾濫したませガキくんに見える。愉快そうに覗き混んでくるませガキくんは手を掴んだかと思ったら、一瞬で私を立ち上がらせた。

 ーーただの子供ではない。

 子供の体格で私を立ち上がらせるならもっと力強く引っ張らないといけないのに、ーー殆ど力を感じなかったのだ。自らの身体を相手の好きなように誘導されたように思える。精神か肉体か、どちらかに魔法をかけられた事を理解し距離をとる。傀儡術、精神操作なんて使えるのは魔物や古代魔法に関連する者しかいない。じゃあ、彼等は一体。

 状況を整理し、周囲の様子を探る。クロードの姿はない。気配すら感じない。連れ去られたか、分断されたか。心配だ。


「ーー私と一緒にいた(可愛らしくて優しくて頬っぺたぷにぷにで笑顔が天使な)少年は何処?」


 ませガキくんはほお、と感心した様子を見せた。だが、直ぐに歪んだ笑みを浮かべ直しーー詰め寄ってくる。


「嬢ちゃん、君に他人の心配をしている暇はないと思うよ」

「そう?それより嬢ちゃんはやめませんか。自分と同じ位のチビませガキに言われたくない」

「チビませガキって、酷くない?本当の俺、超!格好いいよ、嬢ちゃんもきっと惚れちゃうよ?」

「へえ、そんな姿でいたいけな幼女の心を誘惑し、育ったら元の姿に戻って惚れさすと。変態で酷い詐欺師ですねえ」

「棒読みだね信じていないね、ああ切なくて胸が痛い」


 大げさなポーズで胸を押さえるませガキに、一瞬だけ笑いが込み上げる。その前にーー彼の目を見て、慌てて感情を抑制する。

 この子は私の心の隙を狙っている。道化のように巧みに滑稽な姿を装い、相手の心を解してーー其処を叩く。見かけに騙されてはいけない。

 気を引き締め直した事に気付いたようで、ませガキくんは目を細めた。

 きっと、クロードは無事だと思う。此処はおそらく魔法空間だ。作り上げるには莫大な魔力が必要で、術者は離れた場所にいる美少女であろう。ませガキが近付けさせない辺り、大物に違いない。

 時間を稼げば当てにしたくないけど、頼りになる(セルジュ)が必ず異変に気付く筈だ。リュシーもこれだけ高度な魔法空間を展開されたら、感じ取っているであろう。今は、待つべきだ。だのに、私の脳内に住む萌えキャラクロードが囁く。人気投票一位の彼に借りを作らないで、と。葛藤なんて、しなかった。

 ませガキに近付き、相手の求められるままに握手する。そして、おっと足が滑った。


「きゃんっ!!」


 ハイパーラブキックがうまく弁慶の泣き所にクリティカルヒットした。ませガキくんは蹲り、声にならない叫びをあげている。

 彼を避け、奥に佇む美少女に近付く。術者であろう彼女がこの空間から出る為の唯一の鍵なのだ。後ろでませガキくんが何かを喚いているが、知ったこっちゃ無い。

 一歩近付く度に、人間離れをした美少女の容姿がハッキリと見えてくる。

 木々の中に溶け込むような淡い緑髪は彼女の腰まで伸びている。伏せられた眼にかかる睫毛は長く間から見え隠れする紅の瞳。白く美しい肌は同性から見ても美しかった。でもーー表情がなくて、彼女は人形の様であった。


「あのー」


 声をかけても、反応なし。スルー切ないです。

 警戒心はあったが、あんまりにも無反応なので色々やらせてもらった。

 餅の様な頬っぺたを指でつついたり、長髪の一部分を三つ編みにしたり、彼女の周りで一人オクラホ○ミキサーを踊ったり色々してみた。無反応が続いて調子に乗った私はぎゅっと抱きつき、頬っぺたをスリスリする。ついでにいい匂いがしたのでスーハーしといた。頭もうりうり撫でた。

 私の変態行為に美少女は驚いた様子を見せた。おお、弱冠罪悪感はあるけど美少女の表情筋がやっと仕事をしてくれたから、気にしない。


「何故ーー」


 鈴が鳴る様な声が、響く。美少女は声も綺麗とはなんと羨ましい。離れた私を、頭を押さえながら彼女は見ていた。衝動的にやりましたすみませんなんて言えず、最もらしい理由を考えて口にする。


「可愛かったからつい、魔が差しました」


 しまった。建前じゃなくて本音を言ってしまった。

 クスッと小さな笑い声が聞こえた。


「正直者だな、人間。名はなんと?」

「ジゼル・スヴェインです。あの、あなたは」

「ふふ、ジゼル。また頭を撫でてくれるか?」

「はい喜んで!」


 ああ、役得。相手の許しがあれば何も恐るることは無い。普段抑制している理性を解放する!

 緩み切った顔で撫でている私を、痛みから復活したませガキが「信じられない」と言いたげに見ていたらしいが、美少女に視線で黙らされていたとはまさか思わなかった。

 そして撫でてから暫くして、自らの状況を思い出す。満足するまで萌えを満たしてくれた美少女に本題を投げ掛けた。


「あのー、そろそろ帰りたいのですが」

「帰ってしまうのか」

「はい。両親や従兄弟に心配をかけてしまいますし」


 寂しげに目を伏せた美少女に心が痛む。ただ、この美少女はませガキくんと一緒で只者ではない。私達とは違う次元の存在にも見える。

 かつての記憶を探る。

 この森に入れるのは例外を除いてウィリアムズの人間のみ。そして、森にいるのは世界にただ一人残っているエルフーー攻略不可の「ノエル・レナ・ハイデルベルチェ」が。

 美少女をよーく見る。な、なーんかこの美少女ノエルに似ているよう、な。


「ジゼル、また来てくれ。此処を動けぬ私に、外の話を聞かせてほしい」


 にっこり微笑む美少女は、セレスタンルートで手助けしてくれた「レナ」ちゃんに酷似していた。レナちゃんの正体はノエルで、セレスタンの育ての親でもあってーー。

 どうしようか言葉が出ない私は、横目でませガキくんを見る。南海の海のように澄んだ水色の髪、金色に煌めく垂れ目ーー容姿の特徴はセレスタンと一致する。

 セレスタンは「やめとけ」と目で伝えてくる。正体が見えてきた今、私は頷けなかった。


「持ち帰り、検討させて頂きます」


 頭を下げて、一歩後ろに下がる。必殺、答えを先延ばし!

 美少女はとっても綺麗な笑みを浮かべた。私の返答はお気に召さなかったようだ。手をしっかり握ってきて、目を細める。


「一週間後、また来て。セレスタン、ジゼルにつきなさい。無事に帰れるよう彼女の案内をなさい。送り届け、次に来るまで見守るように」

「はあ!?俺が?この嬢ちゃんを何で見守んなくちゃならんのさ、ジジイがなんとかしろって」

「ーーおやセレスタン、お前は命懸けで彼女を守りたいのかそうか。これからずうっとそばに居て、盾になるとは大したものだ。さあ、己の言葉に責任を持ちなさい」

「ちょっと待てって!明らかにおかしいだろジジイ!うわ、やめろ!」


 美少女が手を軽く動かすと、複雑な魔法陣が展開する。光が走って、先ずませガキくん(セレスタン)に巻きついたかと思ったら、彼を包み込むんだ光は卵の形になった。そして、私の心臓に光の卵が入ってきた。光速なんてよけられ無かったので、直撃である。衝撃は不思議となかったが、変な感じだ。


「ソレはそなたに任せよう。ではな、ジゼル」


 胸を押さえ、呆然と尻餅をついた私は何も言えないまま靄の様なものに包まれた。空間が切り離され、景色は次第に見知った木々の中に戻った。

 周囲を見渡すがノエルの姿は既に消えていた。代わりに目の前に真っ直ぐ天まで伸びる巨大な木がある。これが御神木のようだ。

 ーーノエルをこの地に縛り、生かす為の媒介。

 見上げても天辺は見えなくて。首がいたくなり、そのまま地面に倒れる。

 緑の合間から零れる光が眩しくて、天に向かって手を伸ばす。


 手を、誰かが握った。同じ位の大きさで、柔らかく、私より体温の高い手。


「セルジューー?」


 どうしてセルジュだと思ったのかは解らない。けれど、何故か彼なら一番に見つけてくれる気がしたのだ。普通に考えたら魔法に長けたリュシーが一番に気づくと思うのに。

 くしゃりと顔を歪め、困ったように笑ったセルジュは、ただ一言だけ発した。


「ーーばか」


 普段なら罵りの言葉にしか思えない短い単語だった。でも、こんなにも優しい声音で言われたのは初めてでーー戸惑う。心配してくれたようだった。無事を喜び、安心した様子だったセルジュは私の視線に気付き、表情を隠した。


「さ、姉様もクロードも心配しているし、戻ろう」

「うん、そうだね」


 ゆっくり立ち上がり、彼の手に引かれるまま木々の中を歩く。

 私と共に居たクロードも無事だったようで一安心である。遠回しにしか優しさを見せない不器用なセルジュに苦笑する。

 さわさわと木々を揺らすやわらかな風が心地よく、まるで先程の出来事が夢であったように思える。


(夢じゃねーぞ、嬢ちゃん)


 脳に直接響いてくるませガキくんの声に、息を一瞬忘れた。脳内萌えボイス再生なんてクロードきゅんしか出来なかったのに、眼中にないセレスタンのボイス再生機能まで搭載してしまったのかジゼルよ!ああ、記憶に新しいからかなあはははは!


(おーい現実から逃げんな。俺だってこのどうしようも無い事態から目を逸らしたいけど、女の子と常に一緒だと前向きに考えてる。諦めて俺を受け入れて。ね〜?)


 何故だろうか、脳内でセレスタンがウィンクした気がした。

 すごーく面倒な予感がした。


(ノエルもひっどいよなー、よりによって淫魔の俺を嬢ちゃんの魂の契約者にするなんて。あ、魂の契約者ってのは嬢ちゃんが俺の心身を好き勝手していい、おっそろしい契約だよ。逆だったら俺好みに育てたのになー。俺の脛を蹴る様な子にはお仕置きしたいなあ、出来ないけど)


 何故だろうか、耳元にキスされた気がする。すごく、嫌な感触が伝わってきた。


(これからよろしく、嬢ちゃん)


 にっこり微笑んでいるわりには腸が煮え繰り返っているのが解ってしまい、本当に魂の契約が為されてしまったようだ。なんてことをしてくれるんだ、ノエルさんよ!自分の精神に寄り添う存在があるような、不思議な感覚が恐ろしい。

 ゲームのジゼルにはこんな設定なかった筈だけど、どうなってるのやら。


「ーージゼル」


 急に立ち止まり、振り向いたセルジュは私の目を凝視してきた。今日はセルジュのいろいろな表情が見られる日なのであろうか。彼は、驚きと不審が混じったような微妙な雰囲気で見てくる。


「聞こえないなんて、どうしてーー」


 か細く呟いたソレを聞き取れたのはセレスタンのみであった。

 契約者に聞こえない次元で彼は笑った。


(ノエルが言ってた智のウィリアムズ、全ての心を読む力を持ち、全ての智識と記憶を継ぐ者か。悪いね、これからは俺がいるから読めないよ。女心は解らないくらいの方が、攻略の達成感あるしぃー)



 始まりの地シアスにて、少女は歴史の紡ぎ人と出会う。それは偶然であり、必然ではなきもの。

 運命はーー分かたれた。





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