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恋の魔法は世界を照らす  作者: 火龍出水
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 なんとなく周りの子を同い年と思えなかった。

 子供の中に混じる自分は同じ子供である筈。しかし、心の奥底では彼らを馬鹿にしていたと思う。失敗したり、怒られたりする他の子供達は愚かに見えた。ただ、躾し教育する両親と心から笑い合えている彼らには羨望していた。

 可愛げのない子供を両親はよく可愛がってくれたものだ。もし己にこんな子供いたら気味が悪いと突き放してしまいそうである。こんな私を受け入れ、愛してくれるなんてーー感謝してもしきれない。

 そんな非常に可愛くない子供だった私だが、ある運命の出会いが私を変えた。否、覚醒させた。

 目の前にいるのは乙女ゲーム「マジック☆プリンスー恋の魔法は世界を照らすー」の攻略キャラ、クリストフ・ノーマンのようである。ゲーム時は歳上の腹黒繊細インテリ属性のイメージがあるのでイコールで結びにくいが、この目の前にいるショタ天使の容姿はクリストフの特徴と一致していた。うほ!萌える、萌えるぞ!まあ、目の前にいる天使が最萌えのクロード・ウィリアムズであったならもっと嬉しかったが。贅沢をいっちゃいかん。ああ、年下素直クールのクロードかわゆす。年下キャラの為かスチルにキスイベントが無かったのは許せなくて、抗議メールを送ったなあ。懐かしいなあ。

 ーーそこまで考え、自分について振り返る。何だこの思考は。私は、なんなのだ?ふっと蘇ってくるかつての自分。乙女の道を緩み切った顔で歩いたり、中の人イベントに始発で参加したが徹夜組に整理券を奪われ憤怒したり、両親に友人から借りたBL本(肌色多め)を発見されて慌てて一人暮らしを始めた思い出が走馬灯のように浮かんで来る。不安定な自我が記憶を受け入れ安定したようで、「私」は冷静に現状を思いだす。

 名前はジゼル・スヴェイン、五歳。薬屋を営む両親の一人娘で、ーーあれ。「私」は幼い頃の初恋の君であるクリストフを追って、国立魔法学院に入ってーーヒロインに意地悪したり発破かけたりして?そういえばマジプリ(マジック☆プリンスの略)のサブキャラにジゼルって居たような。私は主人公ではなく、ライバルに転生したってことか。これは主人公のイベントを乗っ取り、モテモテ人生を送れという天からのプレゼントに違いない。あはははは!逆ハーレムカモンベイビー!

 ーー無いな。イケメンは見るだけがいい。ラーメンは食べたい、おっと脱線した。恋愛模様は傍観したいが、下手に近付いたら傍観巻き込まれヒロイン乗っ取りスキルが発動しそうだ。うむ、どうしたものか。目の前にいるショタをチラリ、と見る。た、短パン!!


「やばい、膝小僧かわゆい。頬っぺたとか柔らかそうぐへへ」


 場の空気が凍り、相手の顔も表情が無くなった。萌えに浸っていた私は最初の一手を間違えた事に気付かず、ニヤケ顔を間抜けに晒していた。鼻の下が伸びた緩んだ顔はとてもじゃないが他人に見せるには恥ずかしいものである。だが、転生に気付いて浮かれていた脳は冷静さを欠いていた。


「うりうりしたいなあ。温室育ちっぽいのが更に良い。活発系は苦手だし。うんうん」

「あのー」


 にっこり。笑ったショタ天使は耳元に唇を寄せてくる。ああ、声変わり前はこんなに可愛い声をしていたのね!息が荒くなっちゃう!はあはあしちゃうね!


「いい加減にしろよ変態」

「可愛い外見から荒っぽい言葉が出てくるとはギャップ萌えかこんちくしょー!悪いが私は逆の方が好みだってばよ!厳つい外見からは想像つかない繊細な心、ああ萌えええええ!」

「駄目だコイツ、狂ってる」


 クリストフはドン引きしたようで、私が叫んだ瞬間一歩離れていた。ああ、視線が冷たい。冷静に考えてみろ私、これは黒歴史を今作ってしまったのではないか?

 ーー失敗した。なんとか取り繕えないものか。


「うふふ、おほほほほ」


 笑ながら去ろうとするも、ショタ天使は襟首を掴み「おいコラ」と言ってくる。逃がしてはくれぬようだ。魔法学院の課題で必要物品が足りないからわざわざ買いに来た少年、クリストフは確か七つ上の筈だ。どうにか都合良く忘れてはくれないものか。

 拘束を逃れるために意地悪く笑うクリストフの腹を殴るも、五歳の力では効果が無い。よって、私はズルい手段に出させて頂いた。


「いやー、幼女好き男に襲われるぅー」

「お前が言うな!あと、棒読み過ぎるぞ」

「娘に何をしているんだガキ」

「ーーえ」


 地を這うような恐ろしい声が響いた。ずん、ずんと歩いてくる音に安堵の息を吐く。声の主はクリストフから私を引き剥がし、抱き抱える。


「娘を嫁にやってたまるものか。ガキ、死の覚悟は出来ているんだろうな」


 ぎゅーっと抱き締め、私の父は血走った目でクリストフを睨んだ。必殺技他力本願ならぬ、サモン・パパ。父は元魔法戦士らしく目力が凄まじい。十代の子供相手にも大人気なく本気である。クリストフもまさかの事態に冷や汗を流していた。ごめんねクリストフ、あなたのスチルは絵師さんの最萌えだけあって、どれも力が入っていて素敵でしたよ!


「いえ、こんな娘さんいらないです」

「ああ!?ガキが、こんなに可愛いジゼルの魅力も解んねえのかおい!」

「意味が解らん。どうしろって言うんだよ」


 無茶苦茶な話をする父を全力で応援する。結果、クリストフは疲れたように溜息を吐き、店を去った。最後に私を見て、自らの膝小僧を叩いて不敵に笑いかけてくる姿はーーさっさと忘れさせて貰おう。


 いや、本当に忘れていたのだ。

 この事件のすぐ後、両親と小さな村へ引っ越した為に。


 ▼


 きっかけは父の妹さんーー私からみたら叔母さまが病に倒れた事だった。元々体が弱いのに、妻を愛する旦那様が三人も子供を産ませた。年子を三人とは叔父さまよ、恐れ入った。旦那を愛する叔母さまも限界突破状態で頑張ったが、無理が祟りばたんきゅうしたらしい。

 父は呆れてはいたが、薬師としての使命感と肉親の情から田舎に引っ込み、叔母さまの看病をする事を決意した。先日のクリストフの件で王都暮らしは私に悪い虫が寄ってくると思ったのも一因らしい。植物大好きな母も反対せず、小さな村の広い庭で植物園を作る夢を実現途中だ。

 そして、口にしていないけど。可愛げのない子供がクリストフを前にして萌え覚醒以降、よく笑うようになってーー子供と向き合う時間、落ち着いた環境を与えたいと考えてくれたようだった。

 両親には本当に感謝している。

 以前の私の両親も元気であろうか。生まれ変わった娘は元気ですよー。

 緑豊かな庭で、大きく伸びをする。新鮮な空気が肺を満たし、再び大気へ帰っていく。温かな陽光と向き合えば、ぽかぽかと心が嬉しくなる。ゲームもない、パソコンや携帯電話も無い世界も慣れてしまえば何てことはない。確かに便利だったが、自分で手間をかけて調べる達成感は中々得難いものだ。使う物に操られ、段々手放さなくなって縛られて行くのも怖い。使っている時は気づかなかったけどね。

 悶々と考えてもしょうがない。気持ちを切り替えるように地面に木の枝で「うほっ、いいおおとこ」と日本語で書く。他に書く言葉がないのかジゼル、我ながら情けない。いや、いいじゃないかジゼル。どうせこの世界じゃ日本語通じないんだぜ?やっちゃえYO!

 不意に地面の色が変わる。後ろから現れた人の影は、私の文字を覗いているようだ。


「また面白い文字を書いてる」

「ーーどうして文字だと思うの」

「法則性があるから」


 クスリ。同じ位の背丈、同じ年齢の子供であるはずなのに何処か大人びた少年が笑う。木の枝を拾い、地に描いた文字は今迄私が書いてきたものであった。一度しか書いていないそれらを記憶し、再現出来るに加え、法則性を少ない情報から拾い上げ「文字」と判断する頭脳はーー目の前にいる五歳の少年が持つ武器だ。


「文字とバレたら仕方ない。これらはいつ訪れるか解らぬ危機に向け、暗号としてセルジュにも憶えて貰おうかな」

「えー面倒だなあ。ま、面白そうだし君が教えてくれるならいいよ。自分の発言には責任を持ってよね?」

「う、う、ん」


 世の中の五歳児より大分可愛く無い少年は、可愛らしい容姿に似合わない悪人笑いをした。この五歳児に並ぶ存在は某嵐を呼ぶ五歳児しか思い付かない。ネタが通じない世界なので決して言わないけどね!

 秘密結社ごっこを暗に持ち掛けたのに、サラリと流された。本当に嫌な五歳児である。現実逃避しようと俯くと、文字列が視界に入ってくる。

 地面に描かれた「だむ」「あいのへり」「きゅんきゅん」「どんとこい!」「まじぷり」は全て己が書いたものだ。

 ーーセルジュに意味が知られたら、揺すりネタにされるに違いない。

 ここで自分が墓穴を掘った事に気付いたが、後の祭りである。

 セルジュは嫌な奴だ。

 セルジュ・ウィリアムズ。ヒロインと同い年の攻略対象。この名を聞いてしまえば萌えもしない。さよならショタセルジュ。君の膝小僧には興味ないんだ。ついでに関係は叔母さまの息子、つまりは従兄弟らしい。

 ゲームの彼は攻略対象と思えない程非人道男だった。キススチルは有るけど両想いじゃなくて、主人公が惚れさせる為襲い掛かったって設定で最後まで両想いにならなかったのだ。主人公、悪い事は言わん。アイツだけはやめておけと私は思ったのに、世の中のお姉様は彼を萌え対象として受け入れる大器をお持ちだった。一定の層に需要があるタイプと無理矢理納得していたが、人気投票一位に迄なったらもう言葉もなかった。ただ、クロードきゅんがセルジュより下の順位なのは納得出来なかった。攻略不可の麗しのエルフに負け、下にはメインヒーロー詐欺の王子しかいない不遇なクロード、きゅん!

 ーーこの少年の弟とは思えない程、優しいのに。


「ねえ、クロードの事考えてるでしょ」


 どうして解るの、と問い掛けそうになって気付く。セルジュは笑顔で鏡を向けていた。そこに映る私の顔はーー。


「鼻の穴全開、クロード が見たら泣くよ」

「ご忠告どうも!」


 急いで腕で隠したが、セルジュは笑ったままである。ばっちり見られていたようだ。乙女に酷い暴言である。許せぬ。

 この世界がゲームのままとは思っていない。この地は確かに目の前に存在し、人は地の上を生きている。この性格の悪い少年の言葉の暴力のお陰で理解させられた。それだけは感謝している。

 悔し紛れに土に「はげろ」と書いた。意味を聞かれたが教える訳ないだろう未来のハゲ!

 後に学習した彼に頭を握られる未来が待っているとも知らず、私は高笑いした。


 ▼


 時は物語と同じようで、違う進み方をしていく。一つの出会いが大きな変化に繋がる。霞んでいた真実が鮮明となり、違う生き方を見つける者も居た。

 全ては偶然であり、必然。

 世界に生きる者に告ぐ、自らの道標は己で見つけ出せ。


 始まりの地シアス、ここからーー運命の子供は動き出す。



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