璃子がそう言うから
「ねえ 雪が見たい」
璃子の我儘は今日に始まったわけじゃない
会社も休んでこんな北の果てまできたんだ
璃子はちゃんと知ってる
ぼくが璃子のすべてに溶けてしまってること
雪の中で真っ赤なコートを翻して走るきみ
追いかけても追いかけても追いつかない気がするんだ
岬の先端の手すりまで走って振り向くきみ
ぼくが追いつくと
「遅いよ!」
と笑う
「だって急に走る・・・」
話してる途中にキスするきみ
雪がどんどん積もってくる
ぼくにもきみにも
「あはは!あんまり長いキスだとあたしたち雪像みたくなっちゃうね」
大笑いしながらぼくの頬を両手で挟む
「それでも・・・いいけど」
ポツリ真顔でそんなこと言うなよ
「うそ~~~!!」
また走り出すきみ
それを見つめるぼくはたったひとりの雪像になっちゃうよ
自由奔放な璃子
あそこのホテルがいいと指さすきれいなホテル
空室あるのかよ・・・フロントできくと空室ありとのこと
璃子がいうからこのホテルだけど こんな高いホテル絶対予約なんかしないよ
ぼくはしぶしぶカード払い
真っ赤なコートの璃子はロビーにいる男性客の視線独り占めだ
心配 心配 早く部屋に連れて行かないと
そんなぼくの心後目に璃子スマイルを大盤振る舞いしている
駄目だよ璃子 部屋に行くよ ぼくはどうだ?いいだろ?俺の女だ的な顔で璃子の手を引く
部屋までのエレベーターの中 璃子はぼくの首筋に背伸びしてキスをする
途中誰か乗ったらどうすんだよ ぼくの心配おかまいなしにキスしてくる
部屋の階数に着いて部屋へと続く廊下をスキップする璃子
部屋のドアの前で早くと手招きをする
カードキーを差し込むと広がる雪景色が飾る大きな窓が迎える
「まさき 凄い奮発した?大丈夫?」
いたずらっぽく瞳きらきらさせる璃子
いいよ こんな旅行めったにできないから
眼下に広がる雪一面の景色に
グレーがかった白に染まる空に
窓にぶつかってくる雪の結晶に
璃子は大喜びしながら またポツリと言った
「まさき これで終わりにしようね」
華奢な背中が震えている
「璃子 璃子 終わりなんかじゃないよ」
背中をそっと後ろから抱きしめると璃子は言う
「まさき おうちに帰って?奥さんのところに帰って」
大粒の涙が流れているのをきれいなガラスが映してる
「璃子は悪い子だよ まさきに大切な家族いるのに でも でも璃子はどうしてもまさきが大好き」
それだけ言うと思い切りぼくに抱き付いて泣き出した
ぼくは言葉にできない
璃子 ごめん 悪いのはぼく 妻がいるのにきみの魅力に勝てなかった
大好きだよ 璃子
僕らはそのまま愛し合った
朝になって大きな窓ガラスから太陽の光が差し込んでくる
「璃子 いい天気だよ」
ぼくはベッドから起き上がり隣を見ると そこに璃子はいなかった
24時間あいているホテルの玄関
璃子は夜のうちに外にでたようだ
慌ててぼくは外に飛び出した
きっと 帰ったんだよ 璃子は自由な子だから
でも どうしても気になって昨日行った岬まで行ってみることにした
岬の先端に人だかりがしている
いやな予感のまま人だかりに近寄るとそこに璃子はいた
真っ赤なコートに真っ白な雪を沢山集めて
「雪像になっちゃうよ」
璃子がそう言ったから雪像になっちゃったじゃないか・・・・
やがて警察が来て僕に事情をきくだろう
会社休んで 家族に出張って嘘言って こんな北の果てまで来たんだ
「雪が見たい」
そう 璃子が言ったから
可愛い璃子がぼくにそう言ったから