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短編【文学】【童話】【ファンタジー】集(2)

リタとの恋

作者: 蠍座の黒猫

生きる光となって導け。全てを捧げると誓う日々。真実の心を持つ人。


 我妻はすでに死に逝きし。両親もすでに亡く子も無く唯我一人雨に濡れる。屋根は朽ち窓は割れ壁落ちて野犬が這い寄る。

 夢に見た羽のある犬はかつての学び舎の屋上より飛び立てり。その顔は学友の少年に似る。少年は云う。「ご先祖もまた飛ぶを苦手とす。或る本に書かれたり。」と。

 或る朝の目覚めは輝きと共にあった。

我が膝にボーダーコリーの白と黒の美しい面あり。その名をリタ・スティックマイヤーと語る。美しい人。髪は黒く艶やかに面は白く頤は優美。瞳は黒く濡れ吐息は甘く囁き柔らかき腕は撓やかに我を誘う。彼女は云う。「どうして穏やかな日に泣いているの。」

 リタとの暮らし。リタの住処は坂の上にあり。バイクをひたすらに押せり。雨が降り途中の道では楽な道へと誘わるる。リタは悲しい目で我を見る。やがてかの家に着けり。越す心決めたときに祖母は杖突きて歩み来る。亡き父が笑顔で付き添うて来た。祖母は先に亡くなれり。

かの家は傾斜ばかり。家具はなくただ荒れて人の暮らしは立ち行かざる。簡単な犬たちの心に慰められり。土と雨と忘却の住処。全て捨てて生きなんと欲す。人を捨て唯日差しに笑い風に怯え闇に鳴く。時々思い出す温かな畳の間。リタらが云う。「難しいことは分からないけれど悲しいのね。」

 やがて然るべくしてリタの寿命が尽きぬ。我は唯茫然として成す事を知らず。毛皮禿げ肉は朽ちぬ。我は心餓え命の終わりを待つ。残され生きることは耐えられず。家を出て彷徨い何時か街へ出る。人皆驚きやがて忌む。

 我には見える。あさましき心。唯難しくすることのみに囚われし言葉。懐かしきリタの言葉を思わざる。

「ほら走ろうよ。楽しいよ。」

「もっとこっちへ来て。」

失われし暮らしよ。失われし心よ。失われし言葉よ。

私は犬と暮らしたことはありません。唯母と死んだ犬を埋めに行ったことを思い出すのみです。

14.10.21 推敲

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