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第八話

 女の子の方をみると、ちょうど顔を上げたところだった。


「結界を張ったから、安心してね。アイテムの確認は、終わった?」

「あっ、今終わったところです。全部ありました。」

「樽の中身は確認した?」

「はい、水でした。」

「もう飲んだ?」

「まだです。」

「じゃあ、旅セットに器になるようなものなかった?」

「ありました。」

「それに、水汲んで飲みながら話そう。私ももらっていいかな?」

「はい!」




 女の子に近い場所に、椅子を一つ移動させる。

 荷物をもう一つの椅子の後ろに移動させて、旅セットを開けて器を探す。中には外套や着替え、野宿に必要なものが入っているようだ。

 木のコップと木のスープボールのようなものがあった。

 コップを取り出し、硬貨の入った巾着を旅セットの中にしまう。お金の確認は後だ。短剣は携帯するベルトが無いので、荷物の上に置いておく。



 準備を終えて、立ち上がる。

 女の子の様子を確認すると、自分のコップと旅セットのタオル?手ぬぐいにみえるな。タオル地の生地はないのか・・・

 それと小ぶりのなべを持ってテーブルの傍にいた。

「お水は鍋に汲みました。こちらからどうぞ。」

「ありがとう。頂くよ。座って。」

 なべを受け取り、コップに水を注ぐ。そのまま、少し口をつける。うん、水だ。日本のミネラルウオーターに近い味がする。軟水か?

 鍋をテーブルの真ん中に置き、椅子に座る。木がなくなったことで、明るくなった。テーブルには日の光が当たっているが、暑いとは感じない。



 女の子を見ると、視線をあちこちに向けていた。やっと落ち着いて周りが認識できたんだろう。

 先に確認しておこうか。

「自己紹介の前に、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「はい」

「事故のこと覚えてる?死んだことは理解してる?」


 問いかけに、俯く。思い出そうとしているのか・・・頭が何度か揺れて、やがて顔を上げた。

「あ・・あの、ちょっと覚えています。悲鳴が聞こえて、前の席にぶつかって・・・その後は、気付いたらあそこにいて・・・死んだって言われて・・・対価だって・・・家に帰りたかったけど・・・男の人が消えて、怖くて・・・、あのっ・あの本当に死んだんでしょうか?」

「死んだと思うよ。私は記憶にある自分の最後の状況を客観的に見て、死んだことを受け入れている。痛みも感じていたからね。あれで助かるとは思えない。隣に座っていた君も同じだと思う。」



 中学生の女の子に、きついと思ったが、自分のことさえどうなるかわからないのに、覚悟の無い子供を抱え込む余裕は無い。

 視線をあわせながら、ズバッと問いかけた。

「君は、転生したことを受け入れて、この異世界で生きていける?」



 女の子の目が大きく開かれて、口を開けては閉じるを繰り返す。・・・俯いてしまった。

 直球すぎたか?ここは日本じゃない。生きようとしない子供を抱える余裕はない。

 捨てていくのも目覚めが悪いから、出来れば生きることを選んで欲しい。

 アイテムの選択は食べることを選んでいるから、自覚できるかだと思う。旅セットを1カ月分で取ってるし、調理セットも取ったんだろう。

 荷物の量がすごい。自分で持ち運ぶことまでは、思いつかなかったようだが。ふたりでも無理だ。

 特に水樽。容量60Lはあるんじゃないか?一日2L×30日。こちらの暦の1ヶ月は30日はあるか?暦も複数ある可能性があるな。

 こちらでは、水は腐らないのか?樽に何か仕掛けがあるのか?魔法か?

 こちらの知識がないのが厳しい。すぐに町に入るのではなく、旅人とか行商人とか少数の人数で接触してからが、望ましいな。

 取りとめも無く考えていると、女の子が顔を上げた。



「ぁの・・・あの実感なくて。死んだこともあやふやで、覚えてなくて・・・夢なんじゃないかって・・・思うんです。」

「死んだ時の記憶が無ければ、そうなると思うよ。男性が一人、その後三人消えたよね?彼らもそうだから、抗議したんだと思う。結果は消滅のようだけど。」

「やっぱり、あの人たちは消滅したんですか?・・・なんでわかるんですか?」

「うーーん。感覚的なものだから説明が難しいな。・・・事故のことから話そうか。体が前の座席に叩きつけられた後に、激しい耳鳴りを感じたよ。さらに、体の奥のナニカが力ずくで、捻じ曲げられるような痛みを感じていると、今度は後ろから衝撃を受けたんだ。自分の骨が折れる音と、血の味を感じながら、視界が暗くなった。それが、最後の記憶だ。」


 一息つくために、コップを手に取り、水を飲んで、のどを潤す。テーブルにコップを戻しながら

「覚えてるかな?『君たちの場合、運悪く死亡しただけではなく、事故現場に場の乱れがあり魂にまで影響が出ていた。そのままでは、輪廻転生の輪に帰れないどころか、魂が維持できず消滅するはずだった。そこで、輪廻転生できる状態にまで、魂を修復することを対価に、地球から君達を転生させる許可が出た。』って言っていたのを。

 場の乱れっていうのが、あの体の奥のナニカが力ずくで、捻じ曲げられるような痛みの原因だと思ったんだ。私の記憶と説明が合致したから、受け入れた。勘だけれど、確かに格上の存在なんだと思う。本能が警鐘ならしていたからね。逆らってはダメだって必死に自分に言い聞かせたよ。消滅させることは容易くできる存在だと思う。だから、分かるというより納得したのほうが合ってるかな?」


「お姉さんは、この世界で生きていくんですか?・・・帰りたいって思わないんですか!?お母さんに会いたいって・・・」

「思う思わないでいうなら、思うよ。家族に会いたい。でも、死んだことはどうにもならない。泣いても喚いても誰にもどうにもできない。生きている以上、誰もがいつかは死ぬんだよ。父との死別もそうだったし・・・

 

 ただ、私たちは生前の記憶と人格を保ちながら、二度目の生を得ている。与えられた情報を信じるなら、地球の輪廻転生の輪に帰る方法はある。『世界の成長を促してくれたものには、対価として魂を地球の輪廻転生の輪に送ることを約束しよう。』って言ってたからね。

 だから、この世界で職人として生きようと思っている。生活水準を向上させることが出来れば、帰れる可能性はあると思うんだ。」


「君はどうする?・・・正直、生きる覚悟の無い子を抱える余裕はないんだ。自分のことさえ、どうなるかわからないし・・・ここは安全だから、しっかり考えて、答えをきかせてくれるかな?」

「・・・はぃ・・・ゎかり・・・ました・・・」

「こっちで作業してるから、決まったら呼んでね。」



 席を立って、荷物の前に移動する。

 ふぅー。空気が重い。しかし、避けては通れないことだし、しかたない。



 魔力を確認する。

 魔力 :15/25 1魔力増えている。

 時間経過で回復することが、確認できた。回復を待つ間に、アイテムを確認しよう。




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