第二十六話
「アルさん、この水筒、軽くていいですね。」
「ありがとう。500mlぐらいは、入るはずだから。水漏れがなければ、マイも1本持ってね。荷車で移動するのに、樽から水分補給のたびに、水を汲むわけにはいかないからね。1本は明日の調査に、持って行くから。残り2本は、サンプルにしようと思う。」
「サンプルですか?」
「職人として生きていくなら、自分の作品は提示できるようにしておきたい。それが私の証明になるかもしれないし。戸籍とかなければ、職人は自分の技で職人であることを、証明するはず。運べるようなら、椅子も持って行きたいと思っているよ。マイの荷物を優先するから、荷車作って動かせるか試してから、判断するよ。」
「すいません。・・・えっと・・・」
「気にしないでいいよ。私は材料があれば、作れるから。マイのは、ポイントを使って得たものだし、町に行ったら必要だよ。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、テーブルの上に置いてね。いろんな向きで。」
「はい。わかりました。」
マイが水筒を並べ終え、テーブルに着いた。
「マイ、お風呂なんだけどね、町に着くのを優先したいんだ。二日に一回で我慢して欲しい。一日は足湯と体を拭くぐらいにしておきたいんだけど、いいかな?」
「・・・無理ですか?お湯は魔法で用意できます。・・・他に問題があるんですか?」
「マイ、一日にどれぐらい歩いてた?」
「えっと、通学で往復2kmと、他の移動で・・・たぶん3kmぐらいにはなると思います。」
「併せても、5kmだよね。なれない靴で、舗装されてない道を、荷車押しながら、どれくらい歩けると思う?」
「それは・・・」
「それに食事の用意や洗濯もあるよ。一日はできるだけ移動にあてて、翌日は生活に時間を当てたい。どうかな?」
「・・・わかりました。町でも毎日は無理だと思いますか?」
「わからない。お風呂に入るという習慣があるのかどうかも、宿で確かめるしかない。習慣が無い時のために、一つは、大きな桶を作ろうと思う。とりあえず、野宿で必要なのは、お湯に浸かる、体を洗う、お湯を溜めておくの三つだと思う。ここまではいい?」
「はい。」
「お湯に浸かるのは、水だけを通さない結界を張ればいい。結界の中にお湯を作れば、湯船はいらない。体を洗うのは、穴を作って上にすのこを敷いて、その上でお湯を流せば、お湯は下に落ちるし、すのこなら、桶より軽くなる。お湯を溜めるところは大きな桶を作る。
野宿で、風呂に入ると丸見えになるから、大きな布で柱を立てて囲えばいいと思う。この柱は洗濯物を干すときにも使えるし、大きな布は、荷車の荷物の上に被せたらいいと思う。・・・マイはどう思う?」
「はい!それで、お願いします。あと、あの、リンスってあると思いますか?」
「たぶん、無いんじゃないかな。・・・代わりに使える自然素材は、確かお酢を薄めて使ったいたはず。あとは・・・テレビで離島の住民がワカメ?のようなものを煮て、その汁で髪を洗うと艶々になっていたような・・・うろ覚えなんだけど。無ければ、代用品を探そう。」
「そうですね。無ければ代用できるものを探せばいいんですよね。」
「じゃ、お風呂は、明日私が調査に出てる間に、試してもらえるかな?それまでに、作るから。私は調査から帰ったら、入浴するよ。」
「はい。わかりました。お願いします。」
風呂はこれで、目処がたった。これからの予定を打ち合わせながら、必要な物をリストアップしていくか。
その前に、魔力の確認をしよう。
魔力 : 7/25 錬金なら3回か。
やはり魔力の枷がネックになるな。マイに頼めそうなものは、頼もう。
「マイ、明日の予定は、私が準備ができたら調査に出て、その間にマイがお風呂に入って、洗濯する。基本はこれでいいね?」
「はい。」
「調査に出るために、作らないといけないものが、袋と容器と、ショルダーバック。ショルダーバックはマイのも一緒に作ってしまおう。」
「はい。お願いします。」
「袋は三日分のマカロニを入れたり、他にも必要になると思うから、多めに作るよ。容器も大きさを変えて複数作るから、必要なら使って。」
「はい。」
「後は、お金の保管。分散して持たないといけない。肌着の上に、ベルトみたいな布を作って縫い付けて、それを巻いてみようか?とりあえず、生地と針と糸を作るから、マイもどこに分散するか考えてみて。」
「はい。どのくらい分散したら、いいんでしょうか?」
「服の下と、ショルダーバック、三日分の荷物、荷車に載せる荷物の中で、まず考えてみてはどう?ただ荷車は、危険なときは捨てて逃げないといけないよ。それを踏まえて、考えてみて。」
「はい。」
「後は、三日分の荷物を作って、マイの荷物の梱包・・・箱がわりに大きな桶を使おうか。なら、クッション材だけでいいね。それに拠点を移動するときに使う、背負子の作成かな。他に何かある?」
「うーんと・・・あっ、ペンのキャップが欲しいです。紙もバラバラなので、ノートみたいにしてほしいです。インクの容器も壺じゃなくて、蓋付の容器にしてほしいです。」
「確かに、携帯するならキャップは必要だね。明日の調査にも持って行っておくか。了解。」
「このペンもサンプルにしますか?」
「ペンと紙は、ちょっと様子をみるよ。ヨーロッパの文化なら紙じゃなくて、流通しているのは羊皮紙だったはず。自分たちで使うのはいいけど、すぐに、流通させるつもりはない。むしろ、流通させたいのは、トイレットペーパーだね。ここの人たちがどう処理しているのか・・・
まぁ、これも町に着いてから調べよう。町に着いてお手洗い行くときは、必ず紙を持って行ってね。どうなってるかわからないから。」
「わかりました。そうですよね。生活習慣がちがうから・・・お風呂もそんなに入らないから、香水の文化が発達したって習いました。トイレも日本と違う可能性のほうが高いですよね。あのっ、町に着くまでのトイレはどうしますか?」
「・・・塩の道に沿って、ポヤの木が群生しているはずだから、見えないとこまでいって、そこでするしかないよ。野営する場所では、ここみたいに作るけど、移動中は無理。そこは、我慢して。」
「・・・わかりました。それで、スコップがいるんですね。」
「それ以外にも、薬草とかあれば、採取したい。怪我の手当てができて、薬が作れれば、無碍にされることは無いと思う。最初は情報収集に徹して、どういう職種がどう扱われているか調べよう。マイ、仕事はゆっくり決めればいい。ただ、自分の選択肢は一つでも多く持っていれば、可能性が広がると思うよ。」
「わかりました。」
「これぐらいかな?」
「他は・・・思いつきません。・・・アルさんは、すごいです。・・・私、アルさんみたいになれるでしょうか・・・」
「すごくないよ。失敗もするし、間違えることもある。苦手なことだってあるよ。今だって、自分に冷静になれって言い聞かせてるよ。自分が転生して、違う世界で生きることになるなんて、思いもしなかった。・・・マイだって、料理が上手じゃないか。人それぞれだよ。同じになろうとしなくていいんじゃないかな?むしろ、協力してやっていくなら、互いにフォローできる状態がいいと思う。
マイが家事をしてくれるなら、すごく助かるよ。ここには、洗濯機もないしね。手作業になるから、家事に時間を取られる。こういうことも含めて、これからの時間配分を考えなくてはね。灯りもないし、日が暮れるのは早いよ。あっという間に暗くなる。昨日経験したでしょ?こちらに慣れていかないと。・・・話す相手がいるというのは、それだけでも落ち着かせてくれるよ。」
「アルさん・・・わたし、頼りないですけど、アルさんも一人じゃないですから。誰かに聞いて欲しくなったら、わたしが、聞きます。だから、いつでも言ってください。」
「ありがとう。お願いするね。ホント、仕事以上に考えないといけないよ。」
「お仕事はアパレル会社ですよね。」
「そう。中小企業でね。営業のアシスタント兼企画のデザイナーの補助をしてたんだ。生産管理のほうも手伝っていたよ。」
「すごい。いっぱいお仕事されてたんですね。」
「人手が足りなかったからね〜。でもいい経験できたよ。・・・マイ、私はマイへの情報を制限している。これは、マイを信用していないのではなく、マイの経験不足から扱いきれないと判断したものを、教えないようにしているんだ。マイに嘘をつくことはしないけど、教えてないことがある。それを知っていて欲しい。」
「えっと、それは私が扱えるとか、必要になったら教えてもらえるんですか?」
「そのつもりだよ。」
「わかりました。その時に教えてください。」
「いいの?」
「はい。だって今教えられても、わたしも余裕ないですから。アルさんがわたしでは扱えないって判断したのなら、従います。」
「ありがとう。・・・必要なものは、リストアップできたから、工程を考えるよ。今、錬金は3回しか使えない。どういう順番で、使うか検討するね。その間に、マイは打ち合わせしたことを、纏めておいてほしい。いいかな?」
「はい。わかりました。」
「あっ、水もらえるかな?」
「はい。コップください。」
「お願いします。」
マイがコップを受け取り、鍋から水を注ぐ。小さいけど、水の入った鉄製の鍋を片手で楽に扱えてる。・・・自分の体がパワーアップしているのに、気付いてないな。素材が鉄だと思ってないのか?風呂に入ったときに、体をよく確認するように言っておこう。
「アルさん、どうぞ。」
「ありがとう。じゃ、各自仕事しようか。」
「はい。しっかり纏めます。」
「よろしくね。」
マイが頷く。やる気に満ちて、いい表情だ。
リストアップした物の工程を、考えよう。まずは、優先順位からだ。




