第一話
「あれ?・・・ここは?・・・いや・・・むしろ生きてる!?!?」
目を醒ましたものの、直前までの記憶と今が繋がらない。
出張で、高速バスで移動することになった。バスの到着を待つ間に、他の乗客を確認する。
運悪く、中学生と思われる騒がしいグループと一緒だった。引率者を入れて13人=奇数。他の乗客はそれぞれ偶数。高速バスの席を確保できたと思ったら、あのグループの誰かと一緒か・・・せめておとなしい子が隣だといいなぁ。
指定されたバスの座席に座ると隣に立ったのは、おとなしそうな女の子だった。
「あの・・・隣、失礼します。」
小さな声で、そう言って彼女は隣の座席に座った。
会釈を返しながら、ほっとしていた。良かった、おとなしそうな子で。
バスが発車して、しばらくすると悲鳴と叫び声が前方から聞こえた。急ブレーキに体が前の座席に叩きつけられた。頭を打ち眩暈がするが、手をついて体を起こそうとしたときに、激しい耳鳴りを感じた。
さらに、体の奥のナニカが力ずくで、捻じ曲げられるような痛みを感じていると、今度は後ろから衝撃を受けた。自分の骨が折れる音と、血の味を感じながら、視界が暗くなった。それが、最後の記憶だ。
あの状況で助かったとは思えない。特に、体の奥のナニカが力ずくで、捻じ曲げられるような痛みは、あの状況でもおかしい。
本能がヤバイと感じていた。体の損傷による痛みではない。何が起きたのか?
ここが何処かわからないが、灯りもなく真っ暗なままで、それでも次第に暗闇に目が慣れてきたので、周囲の様子を探る事にする。
ふかふかの椅子・・・もしくはソファー?に座っている?普通は寝かされているんじゃ?人の気配もないし、耳を澄ましても何の音も聞こえない。
どうしたものか・・・
ジリリリーーーン
突然ベルが鳴り響いた。それと同時に、灯りがついたのか一気に明るくなる。
咄嗟に目をつぶったが、目がチカチカする。何度も瞬きして、顔をあげた。目に映った光景に思考が止まる。
少年?それとも少女か?がぷかぷかと胡坐を組み浮いていた。
「浮いてる・・・浮いてる!?!?」
驚いて思わず立ち上がろうとしたが、椅子に縫い付けられたかのように立てなかった。
「何なんだ・・ここは!」「ここどこぉ?」「うわあああ」「おい!何が起こった!!」
声が重なり、誰が何を言ってるのかは、わからなかった。
ただ理解できることは、先程まで人の気配がなかったのに灯りが点いたら、あのバスの乗客がいる。
ご丁寧にバスの座席どおりに。座席はグレードアップしてそれぞれ距離があるけど。
「うわっ浮いてる!!!」「ええ〜!!」「前みてみろよ!あれ何だよ!!」
この状況を理解してる人は誰もいないな。目の前の人物を除いて。人物っていっていいのかな?若く性別不詳に見えるけど本能が警鐘を鳴らしてる。
ヤバイな。なんかとんでもないことになってるや・・・どうしたものか・・・
「説明をするから黙りなさい」
目の前の人物がこれまた性別不詳の声を発すると、それまでの悲鳴や怒声、いずれの声も消失した。
試しに、声を出そうとするが、出ない。支配されている?が、悪意は感じない?存在が格上に対する竦みか?理解すると同時に落ち着きを取り戻す。
逆らってはダメだ。落ち着け。説明するって言ってるし。聞き逃すな。自分に言い聞かせる。
「よし、静かになったね。では説明の前に、君達はどこまで覚えてるかな?」
声に導かれるように先程の記憶を確認する。
乗っていたバスが事故にあった。助からないはずなのになぜここにいる?怪我もないのはなぜだ?
「君達はバスに乗り、そして、不幸な事故にあった。君達は死んだ。まずはこのことを理解しなさい。」
やっぱり死んだんだな。あぁ、作りかけの作品が・・・次の休みには完成するはずが・・・つらつらと考えていると、不意に前方で中年の男性が立ち上がった。
叫んでいるようだが、声は聞こえない。黙りなさいってのが効いているようだ。たぶん死んだことが受け入れられないんだろうな。
「理解できないなら、いらないよ。」
その声と同時に、男性が消えた。再び、本能が警鐘を鳴らしてる。逆らってはダメだ。周囲の様子を探ると、混乱している。まずいな・・・
あっ。三人も立ち上がった。って思ったら、すぐに消えた。いや消されたんだな。これで四人か・・・皆、動かなくなったな。
「では、次になぜ死んだ君達がここにいるのかだ。順を追って説明しよう。」
「世界は無数にある。階級制であり、私と私の世界は若い。成長し、上位の階級に上がるためには、刺激が必要だ。刺激は、大きすぎてはいけない。本来のバランスを崩さないように、また成長するようにという匙加減が難しい。」
「今回は、上位階級の世界から転生させることにした。上位階級の世界へ依頼をしたとき、たまたま君達が事故にあった。君たちの場合、運悪く死亡しただけではなく、事故現場に場の乱れがあり魂にまで影響が出ていた。そのままでは、輪廻転生の輪に帰れないどころか、魂が維持できず消滅するはずだった。そこで、輪廻転生できる状態にまで、魂を修復することを対価に、地球から君達を転生させる許可が出た。お互いタイミングが良かったようだね。」
「よって君達には、魂の修復の対価として私の世界に刺激を与えてもらう!否なら消滅だ。これは君達の救済措置でもある。」
先に、対価を受け取っているという状態になるのか?
消滅したくなければ、行くしかなさそうだな・・・。いや待てよ。地球を上位階級ということは、下位階級になるのか?どんな世界なんだ。それによっては、向こうに行ってすぐに死ぬんじゃないか?