スッポンポンde腕組み
「お召し替えください」
かわいいのに、すっごく不機嫌な顔をした女の子が現れた。
「頼む、ヨンセ」
お姉さんはすでにスッポンポンだ。
一糸くらいまとっていいんじゃありませんか?
それで、腕組みしてる。
あまりの堂々とした様子に、私なんかはちょっとビビっちゃってるんだけど、この女の子はフンッと鼻を鳴らした。
「急ぎますからね」
着物を何枚も重ねてゆく。
手際がいい。迷いなしだ。
ヨンセさん、すごい。
私と同じくらいの年かな?
ちっちゃくて色白で目なんかぱっちりしてる。
にっこりしてればまちがいなく癒し系タイプなのに、すっごくこわい顔をしてる。
「あきれました」
腰帯をぎゅうっとしめる。
「ヨンセ、もうすこしゆるゆるとできぬのか」
お姉さんは唇をゆがめた。苦しそう。
「なにを悠長なことを仰います。朝までお籠もりになるってきいておりましたのに。どうして出てこられたんです」
あ、副隊長さんと同じこと言ってる。
「もう、まったく」
濃い灰色の上着を着せかけられながら、お姉さんは苦笑いをした。
「ハナにも叱られた。許せよ」
「副隊長はずいぶん我慢なさっておられるんですからね。そりゃもう、色々。セナ様は、あの方をねぎらわなくちゃ。冷たい態度をおとりになっておられるんでしょ」
副隊長のお名前、ハナさんですか。
ヒゲ男に似合わないですね。
「なんでも筒抜けか。神殿の女官はおそろしいな」
「目と耳の良い者を取りそろえておりますの。セナ様のように剣をもてぬ我らにとっては、この耳で知り得たことが業物にひとしいのですから」
「どんな小さな隠し事も、あばき立てる。そなたらの業物のほうがずいぶんこわい」
お姉さんは肩をすくめた。
ヨンセさんは唇に手を当て、ちいさく笑った。
「さようですわ。ですから、よくお使いになって。剣を振り回す事態になるまえに、できる限りのことをいたしますから」
ヨンセさんはにっこりと笑った。お姉さんもほほえんだ。
「王様はどうしておられる」
「まもなくおやすみになられる時刻です」
はあああ。
お姉さん、超かっこいい。
ハナ副隊長さんと同じ、足首まで隠れる長衣。似合う!
袖口はばたつかないよう、革の腕ぬきをはめるんだ。
三つ編みは丸めてお団子にして、銀のかんざしをさしてある。剣を手に取ると、確かめるように、剣を黒塗りの鞘からすこしだけ引き出した。曇りのない刀身をじいっとみつめるお姉さんの目が、険しくなる。
「けしからん典医と、大妃の息のかかった者らを追い出したのだったな?」
「ええ」
ヨンセさんは声を潜めた。
「大妃様は、セナ様に釘をさしたのでしょう。手を出すなと」
「そのつもりでいた。王様をお見捨て申し上げるしかないと、思うていたのだ」
お姉さんは、とつぜん私のほうを見た。
それから、かすかに笑った。
「近衛の役目を果たしに参る」
「どうか御身をお大事に。セナ様のお命は、おひとりのものではないのですからね」
「頼りにしているよ、ヨンセ。わたしに何かあったら」
「いけません。そんな話は」
そうですよ、お姉さん。
よくわかりませんが、だめです、だめだめ。
さあ、行くところがあるんでしょ。
おともしますよ、こうなったらさ。
なんにもできないと思うけど・・・・・・。