隊長で巫女って、どういうポジション?
深呼吸しよう深呼吸。
はーい、落ち着きましたか、私。
はいムリです。ムリムリ。
名前忘れるなんて、ありえないから。
なんだよ、もう。コンチクショウ。
お父さんがタダオで、お母さんがチエミで、弟がショウタロウだってことは思い出せるのに、自分の名前だけが消しゴムで消し去ったみたいにわかんない。
うっすら、わかりそう。けど、思い出せない。
あの世にきたから、今まで生きてきた世界のことを忘れちゃうのかな。
だとしたら、ちょっとさびしい。いや、すっごくさびしい。
長い長い廊下のつきあたり。
お姉さんが階段をのぼっていく。おもそうな扉を押し開けた。
あれ、おっかしい。
さっき、白い洞窟には光が射し込んでた。
なのに、外は夜だ。
風にさやさや葉がゆれる音がする。
竹林の中の細い道を抜けていくと、きゅうに開けた場所に出た。土壁の塀にまわりをぐるっと囲まれた建物。
中華っぽい? まあ、とにかく、西洋風じゃないのは確か。
門前、見張りに立った人が、敬礼をして道をあけた。
お姉さんはどんどん歩いていく。
ここにいる人たちは、着物によく似た服を着てるんだよね。
ちょっとほっとした。お姉さんの服って、なんか目のやりばに困るし。
みんなそうだったらどうしよーなんて。
よこしまな目で見ちゃいけないんですよね、きっと。
はい。
お姉さんは、隊長なんて呼ばれてるけど、巫女さんでもあるらしい。
隊長で巫女って、どういうポジション?
えーと、巫女。巫女って言ったら・・・・・・。
卑弥呼が、剣術もイケルとか、そういうこと?
小隊くらいを任されてるのかな。
垂れ布をかき分けると、ふわっとお香のにおいがした。
ランプが置いてある。あったかい明かりだ。
屋根つきのベッドにおばあさんが寝てる。
お姉さんは一瞬、ためらったように足を止めた。
「セナかい?」
やさしい声がした。
「はい」
くぐもった声でお姉さんは言った。
「お休みでしたか」
「眠れずにいたんだよ」
「サト様」
半身を起こすのに手を貸したお姉さんは、言いにくそうに切り出した。
「お知恵をお借りしたいのです」
「セナや。ここまで何をつれてきたんだ?」
お姉さんは唇をかんだ。
「おばあさま。許してください」
ゆっくりとおばあさんの手がのびて、お姉さんの手をにぎりしめた。
「謝ってばかりだね、セナや」
「されど。わたしは、勤めを放り出して、ここにおりますので」
「あたしのかわいいかわいい孫ちゃんや」
孫ちゃん。お姉さん、照れくさそう。
「このばあさまにも、まだすることが残っていたようだね」
お姉さんは小さな声で言った。
「天門にひときわ強い光がさし、娘があらわれました。おばあさまの仰せとはちがい、幽霊のように魂のみで漂っています。この娘と、わたしは白い糸で結ばれているんです、おばあさま」
お姉さんは私をおばあさんの枕元に呼んだ。
「天門をくぐってきたか。娘さんや」
私、ですか?
門っていうより、ひたすらフォーーーーールしてる感じでしたけど。