幽霊娘と白い糸
赤い糸なら、聞いたことある。
運命で結びつけられた結婚相手と、自分をつなぐしるしだって。
でもさあ、白い糸なんて、なんかヘンな感じがする。
今生と、来世をつなぐって、なんかよくわかんないし。
とれない。ひっぱると、ゴムみたいにドコまでもドコまでも、
のび~る。
切れそうで、切れない。
白い糸が細く細くなって、クモの糸みたいになると、私はちょっとあせった。顔にぺったりはりつきやがるんである。
それをとろうともがいているうちに、どんどん糸がからみついてくる。キモチワルイ。
お姉さんは腕組みをして、咳払いをした。
「奇妙だが、よく見れば。なかなかに、かわいらしいオナゴだ」
はあ?
見えるんですか?
てか、なんで。さっきのお水を目に塗ったことで、超・目が良くなっちゃったってこと。
「幽霊の娘。わたしの声が聞こえるか? サト様のもとに霊験があらわれたのと、そなたは関係があるのか」
なんのことやらさっぱり。
私は、マンガを追いかけて、気づいたらここにいたんです。
とかなんとか、今までのいきさつを話してみたけど、聞こえてないっぽい。脱力。メードインジャパン、血まみれ御免の制服姿で身振り手振り加えて状況説明する女子、っていうのも微妙に気色悪い。
はずなのに、お姉さんは顔色ひとつかえず、ただ眉間にひとつ深いしわをきざみ、私をじいっとみつめていた。
「おいで」
お姉さんは、分厚い石の戸をトントン、と二度たたいた。
するとどういう仕掛けか、滑るように戸が開き、前方がひらけた。
続くのは、石の廊下だ。
「いずこへ行かれるのですか、隊長。明日までお籠もりになられるものとばかり」
わ、びっくりした。
柱のかげから、きゅうに男の人があらわれた。痩せてて、背が高い。
目つきがすごく、おっかない。血走ってる、お疲れモード?
口のまわりにぐるりと生えた、ヒゲ。
いくつくらいなのか、よくわかんない。
隊長って、この人のほうがそれっぽいけど。
お姉さんは、むっつりと言った。
「サト様のもとへゆく。しばらく戻らぬやもしれぬ」
お姉さんが、きいんと冷たい声で言った。
「副隊長、あとは頼む」
岩戸の中では穏やかだった雰囲気が、一変してる。
お、このヒゲ男さんは、副隊長ですか。
お姉さんの白い服とはぜんぜん違う、黒一色の長衣。腰には剣。本物、なんだろうなあ。
「あなたはいつも、そうです」
「なんだ。はっきり言え」
副隊長さんは、日に焼けた手を持ち上げ、頬をかいた。はあ、とひとつ大きなため息をおとして、それからお姉さんをにらみつけた。
「・・・・・・勝手になさるといい」
えっ。
副隊長さん、いま、舌打ちしましたよね?
「すまぬ」
お姉さん、そんな小さな声じゃ聞こえないんじゃありません?