存在そのものが劇的
私の言葉は伝わってないみたい。
近づいて、麗しいお顔の前で手を振ってみても、気づかない。
白目プラス唇をめくるという、とっておきの変顔を見せても動じない。
気配はね、感じてるらしい。
「楽しい気だ」
かすかに笑うと、クールなビューティー→かわいい人になる。
きつい感じの印象が、ふわっと柔らかくなるんだよねえ。
私、ほんとに幽霊みたいなものになっちゃったのかな。
ここは、あの世の入り口なのかな。
あのー。さんずリバーは。お花畑はどこですか。
走馬燈のように人生のあれこれがよぎるもんじゃないの?
よぎるだけの劇的な出来事とかも、ないけど。
ところで。
目の前にいる人は、存在そのものが劇的、って感じがする。
一度見たら、忘れられない。
私、けっこうでかいほう。背の順に並んだら、小中高といつも一番後ろだったから。そんな私より、ほんのちょっぴり目線が高い。
濃い茶色の瞳は澄んでる。高くはないけど、まっすぐ通った鼻すじ。
薄桃色の唇。お化粧している風じゃない。
けど、女優さんみたい。
三つ編みにした黒髪は、腰のあたりまで届いている。
細身なのに、か弱げじゃない。それは袖無しの服からのぞく腕や足にしっかり筋肉がついているからだ。
一枚布に穴をあけ、首をだしただけのような服は、テロテロの素材。体の線がはっきり見て取れる、きわどい衣装を身につけているのに、ぜんっぜんいやらしい感じがしない。
着る人を激しく選ぶよねぇ・・・・・・。
ためしに私が着てみたら、もう目も当てられない感じになるだろうな。
胸はないし、ウエストはあれだし。足も太い。
ちょう落ち込むわ。はあ。
切れ長の瞳をほそめて、お姉さんは言った。
「ふしぎと、懐かしい匂いがする」
お姉さんはちいさな祭壇におかれた銀色の杯を手に取った。そうして、指先をひたして、右のまぶたを湿らせた。
それから、目を開けた。
「おや、なんとまあ」
お姉さんは驚いたように目をみはった。
顔の前に左の小指をかざして、じいっと見入っている。
「赤い糸は、今生の縁を結ぶ糸。白い糸は、今生と来世を結ぶ糸だ」
いままで気がつかなかった。そんな糸、あるんですか?
「白いな」
考え込むように唇をすぼめた。
お姉さんの指に結ばれた糸をたどっていくと。
おわっ!
私の左の小指! めっちゃぐるぐるに巻きついてるじゃん!
何これっ?