わたしは、この国の巫女である。
まことに神がいるなら、どうか教えてくれ。
人はなぜ生きるのか。
わたしがこんなことを口にしたら、皆が耳を疑うだろう。
わたしの口をなんとしてでもふさごうとするだろう。
わたしは、この国の巫女である。
神の声を聞き、戦を勝利に導く者である。
なれば、こんな世迷い言はいっさい胸の内に封じ込め、ちらとも思い出してはならない。
昼を夜が追いかけてゆく。
星ぼしが、空にひそやかに輝きはじめる。
穏やかな夜だ。こういうのがいい。
こういう日暮れをずっと過ごせたら、ほかに望むことはない。
物見の櫓に立って、一人眺めみる。
家々からは煮炊きする煙がたちのぼり、薄暗くなった道を人々が早足で行き過ぎるのもよい。彼らには、帰る家と待つ人がある。
うらやましい、いつもそう思っていた。
父に頭をなでられた記憶はないし、母の腕にだかれた思い出もない。
わたしはからっぽの、がらんどうな人形だ。
皆は疑いもせずにわたしをただ「巫女様」とあがめ伏し、わたしを孤独の高みにまつりあげる。
剣をもって、兵を鼓舞し、前線へと駆り立てる。
死の間際、彼らが叫ぶのは家族の名でもなく、恋人の名でもなく、わたしの名だという。
うれしい? 誇らしい?
胸の内を明かそうか。どうせここには誰もおらぬ。
申し訳が立たぬ。悼む涙を流すのも許されまい。
彼らを死に追いやったのは、ほかでもない、わたしだ。
消えてしまいたい。跡形もなく。
わたしが明日出陣すれば、また多くの血が流れるだろう。
神の託宣などではない。
わたしが「進め、死をおそれるな」と鼓舞するのは、ほんの一握りの支配者のため。
それでも行かねばならぬのか。
何を守るために、この口で偽りを吐き続けるのだ?
わたしは、もう。
疲れたんだ。