おれの言うことを聞いてくださるんですか?
馬上にいたのは、厦国からの使いだった。
りっぱな栗色の馬。
目が、くりっとしててかわいい。
でも。
お姉さん、馬じゃなくて、使者さんに注目するところだと思いますよ。
馬から視線をそらして、上方に。そうですよ。
男の人はつばをあげた。
つば広の麦わら帽子みたいなのをかぶってる。それで、着物は白。
全身、白だ。
これは、あれかな?
戦場で白旗を振ったりするじゃない。
降伏しました、っていう印。
使者さんは、剣とかは持ってない。
「我らは、儷国王の伝令である」
お姉さんが言うと、使者はにらみつけてきた。
「降伏せよとでも、申し伝えに参られたか」
なーんか、目つき悪くありません。
「我らはかつての友。先の厦王の死を悼む言葉とともに、霊前に祈りを捧げるために参った」
すると、使者さん、無言でついてこい、みたいな仕草。
道案内してくれるのかな。
背負いかごに、ネギを数本さしてる。
ネギ、だよねえ?
なんでネギ。
国境をすぎて、山を一つ越えたところ。
ちいさな村があった。山のふところのうちに隠されてたみたい。
とってもきれいな村だ。
澄んだ小川にかかった橋を渡りながら、思う。
桃源郷ってこういうところをいうんじゃないかな。
咲いてるのは、桃、じゃなくて、鮮やかなツツジ。
斜面にいっぱいに咲いている。
庭におり、花の植わった小道をぬけて、ゆるやかな坂道を下っていった。はずれのあたりには、川水を引き入れて作った池がある。
舟が浮かんでる。けど、子どもたちの姿はない。
「国境付近に、このようにのどかな村があるとは」
ハナ副隊長がうさんくさそうに言った。
そうそう、あやしいです。
なごむより、疑っちゃいます。
大丈夫なの。ここ?
じつはあっちで畑を耕してる人たち、山賊です、とか。
じつは殺しや集団のネグラです、とか。
まんまと誘い込まれちゃったよ、的な展開になるんじゃないの?
「隊長、お気をつけください」
「わかってる」
お姉さん、やっぱりそうなんですね。
この村の人たち、厦の兵隊なんでしょう。
民家に案内されました。
こざっぱりとしてる。
ほどよく生活感ありますね。昔話にでてくるような、藁をふいたお家なんだよね。広い土間があって、それで一段高いところにまた土間。そこには敷物がしいてある。
周辺の見回りに数人。
お姉さんの身辺警護に数人。二班にわかれた。
副隊長さん、戸口を開け放したまま、外をにらんでる。
怪しい動きがないかどうか、目を光らせてるんだと思う。
っていうか、怒ってるよ、絶対。
さっきからぜんぜん口をきかない。
目も合わせようとしない。
お姉さんもちょっと気になってるみたい。
「悪かった」
はや! すぐ謝っちゃったし。
副隊長さん、鼻を鳴らして、無視。
「なあ、ハナ」
二人きりの時は、お姉さんはこういう甘えた声も出すんだね。
恋人同士ではないんだけど、親戚のアニキっぽいポジションなのかなあ。
まだこの方がたの関係がナゾっちゃあ、ナゾ。
副隊長ハナさん、ため息で答える。
「はい」
「言いたいことがあるなら言えよ」
お姉さん、ほうっておいたほうがいいんじゃないでしょうか。
副隊長がにらんできました。
あ、こっちに来ました!
おっきな手が伸びてきます!
「おれの言うことを聞いてくださるんですか?」