夢とは言えおそれおおいよ!
なんだろ。
どっかで、目覚ましがなってるみたい。
デジタルじゃなくて、がんがん頭に響くような、ベルの音。
これは、夢?
事故にあったのも、マンガを追いかけて白い洞窟(天門っていうの?)に落ちたことも、お姉さんに会ったことも。
ぜんぶ夢みたいだけど、これはまたその中で見てる夢。
フチがぼやあっとしたトイカメラで、一シーンずつコマ送りで見せられてるみたい。
歩いてる。身につけてるのはヨロイ。真っ黒な。
意識するとすごく重たく感じるから、別のことを考えることにする。
私は、勤・政・殿 って書かれた建物に入ってく。
もうだいたいの人が集まってるな。
そう思ったのは、私じゃない、べつの誰かだ。
「クム・セナ、参りました」
口が動いて、勝手にそう言った。
クム・セナ。お姉さんじゃん。
まわりをフワフワつきまとうだけじゃなくて、私どういうわけかお姉さんと一体化しちゃったのっ?
夢とは言えおそれおおいよ!
「天門派の巫女など、信用できぬ」
「クム隊長でなくとも、適任はおろう」
「大妃様はなんというお心の広いお方であろうか。派閥はちがえど、かつての愛弟子に武功を立てさせようとうという親心」
「天門などという邪教を奉じる者たちを、おだやかに取り込もうとなさる手だてでしょう」
ひそひそ話、聞こえてますけど!
もっとこっそりお願いしますよ、お父さんたち。
ヒゲがあったりなかったりのおじさんたちの前を通り過ぎ、一番奥にたどりつく。
周りより数段高くなった御座には、王様がおかけになっている。
じっと王様はこちらを見下ろしている。
「臣クム・セナに、お命じください」
万軍を率いて、敵を打ち倒しに行くんでしょ?
もう勝利確実の戦いなんですよね?
でも、なんでこんなに不安になるんだろう。
胸騒ぎ。心臓がドキドキしてる。
これは、お姉さんのドキドキなのかな。
私の心臓は、もうとまっちゃっただろうし。
あー、気がめいるわぁ。やめやめ。
王様は金きらの椅子から立ち上がり、わざわざ段を降りてこられた。
ざわめくおじさんたち。
王様は私の、ええと、ちがう。
お姉さんのすぐ目の前に立って、じいっとみつめてくる。
王様がきれいなお顔をしてるのがよく見える。
昨日はいっぱいいっぱいで、じっくり拝見してる余裕がなかったけど。
儀式用ってやつ? 黒い布地に金銀の糸で刺繍をした着物がすごくお似合いだ。髪は結い上げ、頭のてっぺんで一つにまとめてある。
昨日はねまき姿だった。頼りない感じがしたけど、今は、腹をくくったいい顔をなさっている。
上から目線?
これ、私が考えてることなのか、お姉さんの思考なのか。
よくわかんない。
王様は、ほほえんだ。
黒い瞳が、濡れている。
涙をこらえるみたいに、目を細めた。
「クム・セナ。そなたに命じよう」
頭を下げる。これ以上、王様のお顔をみつめていたら、苦しくて死にそうになる。ちょっと、なんでこんなにドキドキするのか意味不明。
王様は、巻物をくれた。
「この文書をもて。厦は今、国を挙げての悲しみの中にある。かつて、我らとかの国は友族であった。なれば、王の死を悼み、新しき王に表敬するはなんらおかしなことではない」
え。戦うんじゃないんですか。
追いつめて、あとちょっとのところなんですよね。
「は、御意に」
御意。って。いいんですか?
大妃さん黙っちゃいませんよ。
ええええ、いいの?