04回想『台風の日』
夏休みのあの台風の日、俺は津波に飲まれ沖に流された。なんとか岸に近づこうともがくが、その甲斐なく体力だけが奪われていった。いよいよ力尽き意識が遠のいた。すべてを諦め走馬灯がめぐる瞬間、眩しい光が目の前に現れた。
光のなかに一人の少女がは立っていた。笑みを浮かべながら俺に話かけてくる。
『死にたくない?』
当たり前だ。
『助けて欲しい?』
助けてくれ!
『条件があるわ』
条件?
『私は今日から一年間あなたの妹になるわ』
なぜ?
『観察させてもらうの。人間を』
観察?お前は何者だ。何が目的なんだ?
『そんな事を気にしていると死んじゃうよ。どうする?』
助けてくれ!
『契約成立ね。一年間あなたの命は延長されるわ』
一年後、俺はどうなる?
『運命どおり死ぬよ』
救いがないな。
『欲深いね。そんなに生に未練があるの?』
人並みだとおもうぞ。
『じゃあ、今死ぬ?』
分かった。とにかく助けてくれ。真面目に死にそうだ。
『クスッもう死んでるわよ』
その後の意識はない。気がつけば海岸に打ち上げられていた。
記憶は曖昧だがそんなやり取りをした記憶がある。その後、綾が妹になっていた。色々と条件を話してきたが、全部忘れた。と言うか気にしないことにした。その都度、綾に合わせることにした。俺は一年で死ぬのか?それとも夢なのか?綾が本当の妹で、台風の日の出来事が夢だったら気も楽になるのだが……
結局、いつも思考がグルグル回るだけだ。死の恐怖で頭がおかしくなりそうになる。だが、それも現実味が無い。本当なのか、夢なのか。”命と引き換えに妹ができた”のは夢なんじゃないかって信じたくなる。