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エネミス  作者: さねちか
1/7

ゴブリンの少女

不定期更新。

見切り発車な上、落ち未定。


楽しく執筆できればいいやと考えてます。

(旅に出よう)


 ルルドは伸ばした腿の上に旅行記を広げたまま、紺碧の空を見上げた。黒い眼は確かに空を写しているけれども、彼女の心は此処になかった。


(初めては何処がいいだろう。北の巨人から昔語りを聞くのが楽しそうだ。ああ、でも、南に住まう竜と語らうのも面白そうだ)


 ルルドの頬が梅鼠色に上気する。一度目を閉じて高鳴る鼓動をゆっくりと鎮め、視線を再び旅行記へ戻す。

 吹雪く雪原に佇む小山のような巨人の挿絵。


(彼らに会いたい)


 彼らこと聖霊に会いたい。そう血が騒ぐのはきっと自身にもまた聖霊の血がみなぎっているからなのだろう。

 そう思い、ルルドは面を上げた。 村外れの丘に生える一本木の根元はルルドのお気に入りだ。そこから東を向けば森が間近に迫った我が家が、西を向けば村が臨める。

 成人の儀が執り行われる華月を二ヶ月後に控えて村は俄に活気づいている。特に教会前の広場は行商から宴の飾りを買い求める人で溢れている。そこに親ばかりではなく若者や若い娘が居るのは偏に情報や出逢いを求めてのことだろう。

 皆、きらびやかだ。

 環状に広がるアイオーン皇国。十年前、西の隣国を統べる純受肉種(にんげん)との間に戦禍が吹き荒れたとき、妖精や小人、精霊の血を持つ民は東へ避難してきた。隣国の王が倒れて終戦し七年が経つけれども、誰も西の地に帰らない。

 故にルルドが住む村も領主様や仕える兵を別にすれば、住民は皆、浮世離れして軽やかな人ばかりだった。


「いいなあ」


 歌いたい。踊りたい。

 しかし、ルルドは自分と言う存在の価値や周りにもたらす感情を熟知していた。

 立ち上がり、我が家へと歩を進める。途中、小川に架かった橋の燦に両手を載せて川面を覗いてみた。

 麻の長袖シャツにズボン。男の子のように牧歌的な格好をした少女がいた。

 鬼を宿す行商の護衛に綺麗だと絶賛された薄灰色の肌と黄ばんだ鋭歯。

 軽やかに踊る妖精属の少女に可愛いと褒められた二重の大きな目。

 小人属のお爺さんは低くて丸い団子鼻に愛嬌があると言った。 けれども、皆最後に必ず一言、惜しいねと、付け加える。血に宿る聖霊の属が違えば感覚も異なる。

 ちぐはぐな身体的特徴を寄せ集めた変わり者。それがゴブリンの聖霊を宿すルルドだった。

 とぼとぼと、家路に着く。俯く視界に映る黒檀色の髪が唯一、胸を張って好きだと言える代物だった。

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