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僕と狼の日常  作者: ゆり
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エピローグ

 エピローグ




「エリック!マット! あーそーぼー」

 来た!

 この一ヶ月、この時間になると毎日やって来る二人組。

 今は、午前七時半。ちょうど、その日最後の食事を終えたところだ。

 この声が聞こえると、僕の両親はクスクスと笑始める。「あーそーぼー」という呼びかけが、彼らのツボに嵌ってしまったらしい。

 あちらの世界の小学生でも、こんな呼びかけ方はしなくなっている。だって、それぞれの家の玄関にはチャイムがあるからだ。

 我が家にもちゃんと付いているし、門番もいる。

 チャイムを鳴らして門番に声を掛ければ、取り付いでもらえる。しかし、彼らはなぜかそれをしない。門番も、その呼びかけが聞きたいらしく、二人が門前に現れても、屋敷へ連絡してこない。

 きっと、両親だけではなく、屋敷中の者がクスクスと笑っているのかもしれない。

 僕は、大きな溜息をついた。

「さあ、速く行ってあげなさい。二人を待たせたら悪いわよ」

「そうだぞ。大事なお客様なのだから」

 母さんも父さんも、笑を噛み殺しながら僕の退席を促してくる。

「分かったよ。いってきます」

 僕は、仕方なく席を立った。

 決して、門前にいる二人に会いたくない訳ではない。ただ、あの呼びかけだけがどうしても嫌なのだ。

 その事を二人には話したのだが、全く聞き入れてくれない。

 二人曰く、呼びかけた方が早し、友たちっぽくていいというのだ。

 それはそうなのだが……、もう十三なのだから幼さとはさよならしたい僕としては、この呼びかけはどう考えても子供がする事としか思えない。

 廊下に出ると、 マットが待っていた。

 マットも少々困った顔をしていた。

 マットの腕を掴み 門前へ瞬間移動する。

 門前には、ニコニコと満面の笑みを浮かべた二人が待っていた。

 この二人は、チェンバレンの王子キーシンとその狼カーシーだ。

 彼らはリオン王国へ自由に入る事を許可されている。その為、毎日この時間になると遊びに来るのだ。

 遊びと言っても、彼らの目的は僕たちとの親睦を深めながらリオン王国の見学だ。



 僕たちがチェンバレンに入国したあの日からすでに三ヶ月が過ぎている。

 現在、チェンバレン王国は他国の援助を受けながら、キアラン王を中心に立て直しがなされている。

 あの日、マットを抑え込んだ後の事は全く覚えていない。気が付いたら、僕もマットも自室のベッドにいた。

 父さんの話によるとこうだ。

 グスターのポケットの中にいた僕のコウモリが急に暴れ出し、「迎えに来て」と呟いた。そこで、グスターと父さんはチェンバレンに連絡を入れようとしたその時、川向こうから狼の遠吠えが聞こえて来た。それは、コナリーがグスターを呼んでいるものだった。

 父さんとグスターが川岸まで来ると、コナリーがあの拉致事件の時の様に手招きしていた。

 二人が川向こうへ瞬間移動すると、コナリーかザッと経緯を教えてもらった。

 その中で、父さんとグスターは、マットがゴーズを瀕死の状態にしてしまった事、ザイアスに攻撃をした事、たくさんの狼に怪我を負わせてしまった事を知る。

 グスターは、その場にくずおれてしまったらしい。理由はさておき、隣国に多大な被害を負わせてしまった事には変わりない。

 キアラン王の一言でマットの命はなくなる。そして、エリックの力を制御出来るものがいなくなる事で、エリックもエドガーの手によって命を無くす事になるだろう。

 グスターが一番心配し恐れていた事が今、目の前で起ころうとしていた。

 その後、父さんはキアラン王と話し合いその日は子供たちを連れて帰宅した。

 僕たちは、一週間眠り続けたらしい。

 その期間に、キアラン王から僕たちの刑罰が伝えられた。

 僕たちの刑は、チェンバレンのキーシンとカーシーの勉強の手伝いをする事だった。なぜ、そんなに軽い刑だったのか。

 僕たちはザイアスの好きな部屋の隣室に、何人もの人間が監禁されていた事をキアラン王に伝えていた。その人間は、税の形として強制的に連れて来られた者たちだった。 

 ザイアスは、その人間たちから少しずつ血を奪っていたらしい。

 監禁されていた人間たちは、少し衰弱はしているようだったが、命には別状ないと診断され、僕たちが持って行った薬が投与された。

 そして、この事に怒ったキアラン王は、ザイアスを処刑した。ということで、ゴーズを瀕死の状態にしてしまったマットにはお咎めがなかった。

 そして、僕たちが持参したたくさんの薬のおかげで、たくさんの命が救われた。そして何より、チェンバレン家とボナ家が家族一緒に暮らせる様になった。その功績が認められたかららしい。



 その後、僕たちは両親たちからキツイお仕置きをされた。いくらキアラン王が、寛大な処置をしてくれたからと言っても、両親たちにも心配や迷惑を掛けたのは間違いない。

 そのお仕置きから開放されると、次は奉仕活動を毎日午前八時から十二時までする事になった。

 奉仕活動と言っても、大袈裟なものではない。B階級の人たちの仕事を手伝う事だ。

 母さんが言うには、僕たちは体力もあるのでとても重宝されているらしい。

 色々な作業を手伝う事は、とても楽しい。その地区の人たちと親しくなり、色々な話を聞ける。そして、誰もが僕たちを自信の子供や孫の様に扱ってくれる。この世界に身分制度がある事は、やはり僕には馴染めない。だからこそ、自分からその身分の垣根を崩していく努力は必要だと思う。父さんも、子供の頃はこんな感じだったのかもしれない。それでなければ、今のこの国の雰囲気は作れなかったと思う。

 こう考えると、僕はあちらの世界で過ごした十年間は無駄ではなかったのかもしれない。もしも、あちらの世界へ行っていなければ、身分制度があるのが当たり前。だから自分は王子として敬われるのが当然と思っていただろう。それは、とても恐ろしい事の様に思える。

 と言う事で、今日も手伝いに出かける。

その手伝いを遊ぶ感覚で参加しているのが、僕たちの目の前に立つ二人だ。

彼らは、ずっと屋敷に閉じ込められていたため、見るもの聞くもの触るもの全てをが珍しくてたまらないのだ。

 幸い、この二人はとても素直なので、すぐに打ち解けてしまう。だから、この時間をとても楽しみにしているらしい。

 でも「あーそーぼー」は、やめて欲しい。

 そんなこちらの気持ちなど全く気にしないキーシンは、満面の笑みを浮かべ、僕に話し掛けて来る。

「今日は、何をするの?」

 僕は、小さく溜息をつきながらもこの二人が好きなので笑顔で答える。

「今日は、四州で茶摘みの手伝いをするよ」

 そして、僕たちはそれぞれの狼を連れて四州へと瞬間移動した。

  


 これが、今の僕の日常。

 あちらの世界に居た時とはだいぶ違うし、溜息をつく事は非常にふえたが、結構気に入っている。




「旦那様、ザイアスは役に立ちませんでしたね」

「そのようだな」

 薄暗い部屋で、薄暗い笑みを浮かべた男が二人、静にグラスを傾けた。


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