プロローグ
目覚めたら、自分が誰なのか、一体どこにいるかわからなかった。
辺りを見渡すとそこはうっそうと茂る森だった。木々の合間からかろうじて青空が見える。
私は森の中を当てもなくさ迷った。
最初に出会った相手が悪かった。取り囲まれて押さえつけられて、抵抗したら殴られた。
人相の悪いその男たちは、どうやら追剥のようだった。通りかかる人を襲って生計をたてているのだろう。
殴られた痛みよりも私を恐怖へ追い込んだのは、相手が何を話しているか自分には解らないことだった。自分は一体どこに迷いこんだんだろう。そしてどこへ帰ればよいのだろう。
私が女だとわかると、男達は別の意味で襲い掛かってきた。
本能的な恐怖を感じ、私は暴れた。そしたらまた殴られた。
一瞬抗う気力が失せたが、その後で無性に腹が立った。
殴られても殴られても抵抗していたら、がむしゃらに伸ばした手の先に何かが触れた。硬い金属の感触だった。
私の上にのし掛かっていた男は、気も早く腰のベルトをすっかり外していたから、そのベルトに付随した彼の武器が私の手の届く範囲に転がっていたのだ。思わずその塊を握り締める。 そして夢中で振り上げた。私は完全に怒っていた。
そしたら、その武器が火を吹いた。
比ゆ表現ではなく、本当に火を吹いたのだ。
握り締めた鉄塊は、火の形をとった剣になり、私の意志通りに伸びたり縮んだりして男達を攻め立てた。
後で聞いたら、その武器は「魔法具」というものの類らしい。
「魔法」を使える素質のある「魔法士」や「魔法剣士」しか使えない武器で、各々に見合った「魔力」を武器に込めて具現化するらしい。私には魔法具を使える素質があったようだ。ただ、自分が誰なのかという記憶すら覚束ない私なりに「こんなものは初めて見る」と思った。もしかしたらそれまで魔法具を見たことが無かったのかもしれなかった。
手にした熱量を伴う凶器で、無礼な男達を懲らしめた。
気が立っていたのでひどいやり方だったかもしれないが、後悔なんてしていない。
私はただ自分を守っただけ。女を殴るような輩が多少火傷をしたからって問題はあるまい。
本当はもっと痛めつけてやりたかったが、弱った体ではそこまで至らなかった。
逃げた男達が残していったベルトやズボンから、使えそうなものは粗方頂戴した。もちろん魔法具もだ。
手に入れた通貨は私が見たことも無い形をしていたが、一番必要なものだと思った。
その後も痛む体を引きずって、森を当て所なく歩いた。
体が痛かった。
水が欲しかった。
誰かに助けて欲しかった。
何よりも、一人世界から取り残されたような恐怖から私を救って欲しかった。
心細い夜を一人で過ごし、朝が来たのでまた歩き出した。
しばらく必死に歩いていたら、小さな村にたどり着いた。
私は助かった。
親切な村の長が振舞ってくれた食事は、これまで食べた何よりも美味しかったに違いない。
記憶が無いから比較はできないけれど。
言葉もわからない年端もいかない傷ついた娘だと思われて、村長夫婦に保護してもらった日々は安らかで好ましかった。
引退前は子供たちに読み書きを教えていたという村長夫人は、私に根気よく言葉を教えてくれた。
三ヶ月もたつと、話すのはともかく、聞くことは大分ましになっていた。生活しなければならなかったので必死だった。
そうして、村での生活にも慣れてきた頃、男は王都からやって来た。
つたない小説ですが、楽しんで頂けるようがんばります。
誤字脱字などございましたら、教えて頂けると有難いです。