冷たい彼女の温かさ2
短編第二弾です
なんとなく、思い付きで書いてみました!
誰しも月曜日の朝と言うのは憂鬱なものだろう。
一週間のうち二日の短い休みが終わり訪れる新しい一週間。
甲斐としてもそれは同じことだ。
しかし学校を休むわけにはいかない。
甲斐は勉強は嫌いではない。
むしろどちらかと言うと好きなほうだ。
普段周りに興味をひかれる性格ではない甲斐にとっては唯一と言ってもいいほどに興味をそそられるもの。
教科書から得られる知識はとても興味深く、それによって自分が一つ成長した気分になれるのもすばらしい。
だから、本当なら新しい一週間の始まりである月曜日は楽しみなものになるはず。
だがそれでも学校に行きたくない理由はある。
それは人間関係。
学校に行くならば避けては通れない問題である。
甲斐は友達作りには失敗しているため、誇張ではなく本当に友達が一人もない。
もう夏になり、そろそろ体育祭も近いという時期で今の状況はとても致命的、と言う考えもなくなりつつある。
「まあ、なんとかなる」
漠然とそう思っている。
教室に入る。
今朝の教室の雰囲気もいつもと変わらず明るい。
それが少し苦手な甲斐だが、気にしないようにしながら自分の席に座る。
ホームルームが始まるまでは少し時間がある。
適当に勉強でもして時間を潰そうと、引き出しから勉強道具を取り出そうとしたところで。
「おはよう」
声をかけられた。
目の前には女子用制服に身を包む生徒が一人。
近頃何かと縁のあるその姿をほかの姿と見間違えるはずはなかった。
「小宮さん……。おはよう?」
珍しい相手にあいさつをされたことで返しに疑問符がついてしまう。
小宮夏美。
相変わらず氷にように冷たい雰囲気で身を包んでいるが、今日はどこか柔らかく感じる。
「………これ」
何も言えずに沈黙していると、彼女は手に持っていた一冊の本を差し出してきた。
「………?」
意図が分からず首をかしげてしまう甲斐だが、昨日の出来事をすぐに思い出しすべてを理解した。
「ああ、映画の……」
「貸すって言ったでしょ」
本を受け取り夏美と本を交互に見る。
二人は昨日、偶然映画館で出会った。
その帰りに映画の感想会をしたことをきっかけに、映画の原作である本を貸してもらうという約束をしたのだ。
甲斐にとっては話の流れに任せた成り行きの発言だった。
反して夏美は本気だったらしく、朝から甲斐に声をかけて本を貸しに来てくれた。
「返すのは、なるべく早くお願いね」
「そうするよ。あまり長く借りるのも申し訳ないしね」
「………………」
「……………?」
突然黙って固まった夏美に違和感を覚える。
彼女はその場から一切動かず無表情で甲斐を見続けている。
「………………」
甲斐も無表情で彼女と目を合わせる。
そして、微かな異変に気づいた。
彼女の表情はたしかに無表情だが、その眼が何かを語っている。
眼の奥で揺れ動くなにか。
なにか言いたげだが、躊躇っているのかもしれない。
「どうかした?」
問いかけてみる。
自分から言いづらいとしても、相手から問いかけられたことに対する返答と言う形なら言いやすくなることがある。
そうして返答を待つ甲斐に、夏美がとうとう口を開いた。
「別に急かすつもりはない。ゆっくり読んでもらって構わない…………」
「………う、うん」
戸惑いながらも言葉の続きを待つ甲斐はなぜだか緊張してしまう。
あまりまっすぐ女子から視線を向けられる経験というのはなかったから仕方のないことかもしれない。
「ただ、はやく感想、聞きたいから」
「……………」
すこし、本当にすこしだけ。
頬を赤らめた夏美は奥から言葉を絞り出した。
「………わかった」
甲斐が短く答えると夏美はうなずいて自分の席へと戻っていった。
その背中を見届けて時計を見る。
まだ時間はある。
ならば、と甲斐は気持ちを切り替え本を開いた。
そうして、自分が知らない未知の世界へと、文字によって引き込まれていく。
1
「…………………」
目の前に差し出される一冊の本を見て、夏美は少し驚いていた。
本を貸したのは昨日の朝。
まだ一日しか経ていないにもかかわらず、読み終えている。
「随分はやかったね」
「おもしろくてね。ついついずっと読んじゃったよ」
笑顔で言う甲斐を見て夏美は自分の心が躍ったのを感じた。
おもしろかった。
それを聞けただけで、自分の隙を共有できたような気がしたのだ。
「よかった。がっかりさせるようなことにならなくて」
「とんでもない。映像で見るよりもずっといい。登場人物たちの心情がよく伝わってきて、映画では気づけない新しい発見があったよ」
無表情の中に少しだけ浮かんでいる笑顔。
それが彼の言葉は嘘ではないことを物語っていることに気付いて夏美は嬉しくなった。
「………よかった。本当に」
2
その日の放課後、夏美は図書室を訪れていた。
夏美にとっては日課だ。
夏美は暇があるときはいつも本を読んでいる。
人間関係の構築にまったく興味がなく、入学初日から読書をしていた。
感情が顔に出ないタイプではあるが、そもそも感情の起伏が激しいタイプでもない。
そんな彼女の性格と氷のように冷たく鋭い目が周りの人間との間に壁を作ってしまった。
だから夏美が周りの人間のことを気にすることはほとんどない。
そのほとんどが自分とはかかわりのないことだからだ。
それでも、彼女にとって今の出来事は意外だった。
「藤森くん………?」
いつも訪れる図書室で見るには珍しい顔だった。
藤森甲斐は手に持っている本の表紙から視線を外し、声をかけた夏美に向けた。
「小宮さん………」
甲斐も驚いたような声で夏美の名を呼んだ。
「どうしてここに?いつもいないよね」
「ちょっと気が向いてね。なにか本を借りてみようかと思って」
「………………」
夏美は少し遠慮がちに近づいて甲斐が持っている本をのぞき込む。
「ああ、それ面白いよ。新入社員と、その人の教育係の先輩との恋愛話」
「読んだことあるんだ」
「ここの文学小説なら一通り………」
と、咄嗟に夏美は嘘をついた。
読書は好きだが、夏美が読む本にはかなり偏りがある。
ジャンルが恋愛でほぼ固定されているのである。
恋愛以外のジャンルも読まないわけではないが、そんな言い訳が通用しないくらい恋愛ものばかり読んでいる。
だから当然、甲斐が偶然手に取っている本の中身も知っている。
しかし恋愛ものばかり読んでいるという事実を恥ずかしく思っている夏美は素直に本当のことを言えなかった。
「へえ。図書室にはよく来るの?」
「放課後はいつも来てる。本を読む以外とくにやることもないし」
「じゃあここの本のことは小宮さんに相談したらいいかもね」
言って、本を持ったまま甲斐はカウンターへ向かって歩き出した。
その背中を見届け、自分も何か本を読もうと探したところで。
「小宮さん」
振り返った甲斐に声をかけられた。
「なに?」
本人は普通に答えたつもり、それでも他人からすれば突き放すような、どこか棘のある声質。
それでも甲斐は一切動じないどころか、薄く笑みを浮かべながら。
「明日も来ていいかな?」
そう口にした。
「別に、ここは学校の図書室だし、私に許可を求める必要なんてない。来たいなら勝手に来たらいい」
やはり冷たく答えるが、甲斐もやはり動じることはない。
「そうだね、なんだかおかしい」
そう言い残して甲斐は去って行った。
なんだか変だと思いながら夏美は本選びを再開する。
そしてふと、甲斐の顔を思い返してしまう。
『明日も来てもいいかな?』
その言葉と彼の表情を思い返して、明日もここで会うのかとふと思う。
それを、どこか楽しみに感じていることに、彼女自身は気づかなかった。
今後も短編に関しては少しずつ更新していくつもりです!
よろしくお願いします




