神降ろしの儀式、大吉
高天原に座す我らが八百万の神々。
我が身を差し出す事を誓う。我が命を差し出す事を誓う。
父たる伊邪那岐神、母たる伊邪那美神。
八百万の神々に、我は請い願う。
我が全てを御子として捧げる事を誓う。
かしこみ、かしこみ、奉る。
我が身の前に、御神姿を現し給え。
半信半疑だったことは忘れもしない。科学文明があちこちに浸透しすぎた現代において、神降ろしなんて世迷言を信じるほうが無理だ。
だが、俺の実家。朝比奈神社では代々受け継がれてきた事らしく、辞退するなんて許される空気ではなかった。
それが、大学受験の模擬試験日程真っ最中のことであっても。俺に拒否権はなかった。
独り神社の本殿の暗がりの中で、渡された祝詞を読み上げて。
指先を軽く小刀で突き、血の一滴を御神体の御鏡に垂らす。
正直、今でも半信半疑だ。こんな訳のわからない儀式が通用するなんてバカバカしいにも程がある。
だが、結果的には儀式は通用して目の前には光り輝く後光の中に、誰かが立っている。
俺は尻餅をついて、その光景に呆気に取られていた。御神体の御鏡から溢れ出す眩い光があるにも関わらず、その姿はしっかりと目に映っている。
「問おう、貴方が私の御子か?」
光の中から少女のような高い声が響く。
その姿は、清廉な純白の襦袢と袴を鮮やかな緋色の帯で締めた、小さな少女だった。
「あはっ、これ言ってみたかったんですよね!召喚儀式繋がりだし、言わざるを得ないっていうか。これはもう気合入りまくりでしょう!」
なんだこいつ?
「いやー、どうもどうも朝比奈詩織さん。呼んでくれてありがとうございますぅ!正直高天原は退屈で退屈で仕方なくて。やっとシャバで大暴れできると思うと最高ですわ!」
茶髪のサイドテールを靡かせて、少女はくるりと舞うように一回転。
「あれ、どうしました?もしかしてアタシの姿に見とれてます?えぇ、そりゃそうでしょうとも!この八百万の神々が見下ろす葦原中津国に、アタシが降り立ったのですから!神の中の神、バチクソ映え映えする最高の太陽の女神。
天照大御神なのですから!」
開いた口がふさがらないというのはこういう事を示すのだろう。
頭が痛い、というか目が痛い。早くその光を消してくれ。
「………お前は、本当に神様なのか?」
俺は恐る恐る、天照大御神と名乗る少女に問いかける。
天照大御神、それは日本神話における最高神。太陽の女神である。日本の神様を代表する神様だ。
そんな神様が、こんなちんちくりんな少女だと?
「ふふん、信じられないのは分かりますよ!こんなちんちくりんな見た目で神様を語るのは中々に難儀なことなんですが、アタシはゆうTubeで勉強してきましたからね!今はこういう、ちょっとアレな感じの衣装でも、コスプレとして目立たないと!ぶっちゃけVTuberとか跋扈するこの現代に置いて、どんな格好でも問題ないのです!どう見ても小娘にしか見えない姿でも、実年齢は別物!中の人の年齢等気にするな!」
「………」
なんだろう、この天照大御神。随分と俗世に詳しいな。
「という訳で、今日からお世話になります。俗世での名は、天照大御神改め【朝比奈ミコト】です。この朝比奈神社と詩織さんに宿る超イケてる女神様としてビシバシ行きますよ!
8000年なんてなんのその!八百万の千代に八千代を超えて、Ex-Nihonshoki始まります!!」
それが、この天照大御神と名乗る、ミコトとの最初の出会いだった。




