第七話 魔術師の過去 世界滅亡の誓い
ねえ、カマル
君は私を止められるかな?
本部に着くと、いよいよその胡散臭さは度を過ぎて感じられた。
ビルなみの、天にそびえ立つ建造物。
それが、『カルデア』の本部だった。
上階はのべ数十階を超えており、階下には研究室と呼ばれる巨大な空間が構えている。
入信の受付は、正面玄関すぐにあると言う。
私は、近代的な扉をくぐって、エントランスに出る。
すると、目の前に「受付」があった。
金属質なカウンターの向こうに、ガラス張りの板にうつる、二人のローブに身を包んだ女性たち。
おそらく、彼女らが『カルデア』の入信者であり、受付係なのだろう。
「すいません、入信希望なのですが」
「おお、新たに!?」
「うおおっ!?」
受付係のリアクションが大きくて、私は驚き、たじたじになる。
が、その反応自体に、怪しさはなかった。
では、私の抱いていた猜疑心は杞憂だったのだろう。
先入観のうちに不安があり、それが私の判断を鈍らせていたのだ。
そう思い、誓約書にサインする。
『リゲイル』、と。
これは真の名前ではないが、別にもう構わなかった。
自分には、過去の名を捨てるに値する理由がある。二つだ。
一つ目、『敵』から身を守るため。
二つ目、魔王の城を一人で攻略できるだけの力を身につけるため。
入信する以上、この二つを基盤にした。
そして、教えに従い、労働する生活が始まった。それからと言うもの、カルデアには、役職があると同僚から聞いた。
下から、連者、指導者、幹部、加えて、最上級にしてカルデアの祖、『教主』。
私の階級は『連者』。
地位が一番低く、与えられる権限は生活に困らない書類整理や受付と言った働き口と食事だけ。
指導者ともなれば、『連者』に何か労働させる指示を飛ばすことができ、『幹部』に上がれば、教主の側近、もしくは支部の運営を任されると言う。
研究室に興味があった私。
同僚と一緒に、勤務先を抜け出し、地下へと行く。
と、未完成だが、巨大な「動力炉」があった。
疑問に思い、触れようとした時、声がかけられる。
振り返ると、嬉しそうに笑う男がいた。
その人が、「教主」であった。
捕縛されるものと思ったが、教主は、語る。死の星の力とその発動条件を。
その上で、
「私の側近として、働いてみないか?」
と、教主は促す。
私は、首肯するのをためらい、考えさせてくれと答え、その場をしのいだ。
それから、1週間経っても答えが出ず、その間に、私は少しでも気を紛らわそうと小説を書いていた。
自分らの伝記である。
書いている間に、彼らを救えていない自分に辟易する。
だが、彼らとの旅路が自分にとって、どんなに大事だったのか再確認することができた。
それから2ヶ月が過ぎた。
結論から言おう、私は正式に「幹部」として働くことにした。
然して、僥倖であった。
最初のうちはーーーーー。
死の星の力とその発動条件に近しいものはないか、魔術の研究をし、その過程で数多の魔法を開発することに成功。
そして、グループ分けをして整理し、魔法の根幹にある魔力、その計算方法から組み合わせを考える。
ーーーーー長い時間をかけ、「世界創生魔法」を編み出した。
だが、それには致命的な欠点があった。
欠点というのは、第一に、三極星と呼ばれる伝説級の魔力体、その他、魔界の生物において、無尽蔵の魔力を持っていたとしても、体を魔法に変異させるために使用者に限りはなく、全員が死に至ると言うもの。
第二に、超常的ではあるものの時間を巻き戻すことや人の蘇生は不可能。そもそも、そんな魔術の計算式は見当たらなかった。
苦悩し、苦難した。
これでは、仮に発動したにしても私は死んでしまう。
それに蘇生や時間を巻き戻すことができないのなら、なんのための魔法だ。
勇者達に会えないではないか。
鬱憤を晴らすように、その魔術を書いた紙を汗ばみ手でグシャリと握る。
そして、泣き叫びながら引き裂いた。
塵となり舞う、希望だったその魔術は、もう私にとって、失望の権化に成り下がっていた。
その苦しみに、さらなる苦痛が襲う。
魔界に、遠征する要請がかかったのだ。
仕事柄行かねばならない。ーーーーーーー、即ち、ある集落を潰すこと。
それを難なく遂行し、私は魔王の城に向かった。
拷問部屋の隅に、あるものを見た。
それは、
勇者と戦士……彼らが、生首だけを残しーーーーー死んでいる、姿だった。
彼らは、怒りの形相を貼り付けたまま、ロウで固められたかのように、表情が動かない。
視界が朱に染まる。
ーーーーーもう、ダメだ
世界が朱に染まる。
ーーーーーもう、耐えきれない
空を見上げれば、満天の星が瞬いていた。
その憎らしい輝きに、目を細め。
ーーーーー私は世界を、壊します
私は、彼らを救います。
私は、敵を全て殺します。
私はーーーーー世界を、血で満たします。
主よ、そんな私でも愛してくださいますか?
それからと言うもの、私はカルデアを脱退した。
稼いだ金を用いてローブと杖を新調し、数年分の食料を確保する。
そして、別空間を作り上げーーーーー二つの世界に魔法をかけた。
それは、「来たるべき救済」=死の星の兆候が現れる時、殺しあわせると言うもの。
だが、魔法をかけたはいいが維持が厳しく、何回も意識が飛びかけ、昏倒しそうになる。
しかし、私は耐えた。
死の星の条件を満たし、救いをもたらすために。
そんな重労働の支えになったのが、継続していた小説を書く作業。
これをすることによって、彼らと旅をしている気になり、気を抜かずに魔法を継続することができる。
側から見ればそれは、一種の洗脳状態に近いのかもしれない。
だが、それをし続けていなければ、私に生き抜く気力がなかったために、危うい状況だったのである。
そして、『銀色の雷』シリーズとして、拙作が有名になった頃、突然、カマルと言う少女の生活が視界に投影された。
何故かは分からない。
運命の巡り合わせにしても、おかしい。
この少女は、ただの私の小説のファンであって……、魔力は人よりも微かにしかないじゃないか。
だから、こんな子供など取るに足らない存在だと思っていた。
なのに、気になった。
彼女がどのように育ち、生き抜いて行くかが。
私は、日々の業務の傍ら、少女の行いを食い入るように見ていた。
そして、彼女の両親が死んだ時。
悲しみを、一緒になって感じることができた。
長い間の苦しみから、一瞬だけの解放。
涙が流れるたびに、心が洗われる気がした。
だが、その時は訪れる。
ガウス=クロウが襲来した際、彼女に「三極星の刻印」が現れたのである。
私の彼女に抱いていた高揚が、一気に冷め、ただ敵として見るようになったのを感じた。
その上で、私は告げる。
「ーーーーー君は、私が殺す」
淡々と、冷酷に。
だが裏腹に、親しさを感じ得ながらーーーーー。
ねえ、カマル
君は私を止められるかな?
私は君を昔から知っている。それに殺すやり方も魔法も知っている。君は私に勝てるまでに成長しなければいけない




