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第五話 怪我

目が覚めると、そこには見知らぬ天井があった。

背中には気持ちのいいふわふわとした質感があり、ベッドの上だということが分かった。

ただ、右手首に違和感があり、見る。

「点滴の…針?」

「ああ、起きたのかい。御連れの方が心配なさってたよ」

声が聞こえ、振り向く。と、優し気な白いひげを生やしたおじいさんが近くの椅子に座って

いた。

「…貴方は?」

上半身だけでも起こそうとする。

だが、全身が鉛のように重く、気だるい。自分のものではない様で、体を起こすことはでき

なかった。

しかし、枕の方に手をやれば、大切な小説が置いてあり、一息つく。

「ああ、無理してはいけないよ…私は医者さ」

彼は、椅子から立つとカマルの額にひんやりとした、水にぬれたタオルを置いた。

「私はどこか…悪いんですか?」

「うん、両肩の傷だよ。包帯の代わりに袖が巻かれていたが、あれでは化膿してしまう。深

い傷跡だったからね。ただ、菌が侵入するその寸前に高熱の風邪をひいて、倒れたようだ」

おぼろげだが、邪神龍に裂かれた時のことを思い出す。

眉間にしわが寄るが、今ここで嫌悪感を出しても仕方がない。

彼に聞いた。

「そう、ですか。…私は何日くらいこうしてました?」

「そうさね」

医者の老人は、わざとらしく顎に手を添えて考える素振りをし、言った。

「二日、だね」

言われてみればそうだ、おなかの方に妙な圧迫感がある。

これは空腹感だ。長い間、何も食べてないのだから、腹痛の時期を通り過ぎている。

「まあ、今は熱が引いているみたいだし、良かったと思うよ。ただ、体力はまだ万全ではな

いようだね」

「そう、ですか…それで、あの、みんなは?」

「ああ、 旅商人の方々ね。あと、御連れの二人。彼らは全員出払ってるよ。買い出しにでも

行ってるんじゃないかな?」

そうか。だから、全員いないのか。

寂寥感があるものの、人の前だ。顔には出さないと決めた。

ところで、と医師が口を切り、

「彼らにも聞いたが、帝国に出向くのかい?」

「はい、そうですけど」

「なら、気をつけなさい。帝国主催のコロシアムがもうじき開催されるから、荒くれどもが

殺気立ってる」

「何故、コロシアムが開催されるだけで殺気立つんですか?」

コロシアムの意義については、小説「銀色の雷」に記載されている。

もともとコロシアムは、最強の剣士を選定するために開かれ、世界の救世主となるものこそ

が「最強」を冠し、勇者となるのだ。

優勝した時、授与される賞金も武器も魔物を打ち倒すためのものである。

「おや、知らないのかい?昔は勇者だったがね、彼がいなくなった今だと、最強を冠する者

…即ち優勝者が一人しかいないからさ。だから、自分たちが勝ち上がれないことにストレス

を感じる者、そいつを打ち倒すための試しに人を殺す者が現れ続けているのさ」

虫唾が走る思いだ。

神聖なコロシアムが殺されていく感覚を覚える。

しかし、ここで一つ気になったことがある。

「一人だけ」と言うワードだ。

勇者が誕生してからも、賞金や最強を目指すものがいるというのなら、コロシアムは毎年開

催されているのだ。優勝者は複数存在していなければ割に合わない。

だが、それが真実だというのならば、その優勝者は勇者が消えたのち、次のコロシアムから

今もなお勝ち続けている計算となる。

これは正直、ありえない話だ。

「皮肉な話だよ。帝王歴の初頭、初めて開催されたコロシアムは世界平和のためのものだっ

た。だが、今では賞金、名ばかりの最強を目指すものばかりが集まるだけ」

医師は遥か先を見るように遠い目をして、

「全て、国政の悪化のせいかねえ…」

と静かにぼやいた。

「あの、話の腰を折るようですが、…その今の最強というのは?」

「それは―――――――」

「カマル――――――――!良かった、起きたんだな!!」

医師の回答はバンと開け放たれた扉の音と中に入ってきた二人組によって、先送りになっ

た。

「レイド、それにケルト!お帰り!…あと、旅商人の皆は?」

カマルが笑顔で出迎える。そのカマルにレイドは言った。

「あいつらは、酒場に用があるんだってさ」

「酒場?」

「ああ、いい年こいて酒ばっかってやつだな、けっ…」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

酒場にて――――――。

サクヤとコガネは飯にありつくと言ったきり、帰ってこないので仕方なく近場のカウンタ

ーに頬杖ついていると、

「あんさん、知ってるかい?コロシアムにおいて唯一無二、最強の王の噂!」

話しかけてくる物好きな酒臭い男がいた。

彼は煩わしいと思い、適当にあしらおうと決めた。

だが、一応興味を持ったふりをして、聞く。

「最強?どんな奴だ?」

「そいつはな、勇者が消えた次のコロシアムに参加していてよぉ、今もなお勝ち続けてんだ

ってよ!」

「嘘つくなって、おっさん。さすがに連続じゃ優勝しきれないよ。だって計算してみなよ。

二回目からだと九回連続優勝だぜ?ありえないね」

「それがな~、ありえるんだなこりゃ!…次々と現れる挑戦者を一撃で消し飛ばす、最強の

剣技の持ち主。その由来で、巷じゃなんて言われてるか知ってっか?」

「なんて言うんだ?」

男は含み笑いし、静かにとでもいうように人差し指を立て、言った。

「闘王――――、闘いの王さ」

「まんま…と思ったが、物騒だな」

「確かにな。奴の放つ剣技は何でも―――――っぶねえな、てめえ!」

「ああん?てめえが足出してんのがわりぃんだろうが!」

酒気を帯びた男の話は、躓きかけた男に逆切れされたことで中断される。

互いに切れた男たちの視線に、火花が散った。

一触即発の事態となりつつあった。

――――うわ、面倒になった

ルークはため息をつくなり、カウンター席から離れる。

と、

「ルーク、帰ろ!」

サクヤ達が、上機嫌で戻ってきた。

「その様子じゃ、たらふく食えたようだな」

『うん』

彼らが帰宅して、カマルたちと合流してはや三日がたった。

カマルの容体は回復し、歩けるくらいまでになった。

ルークはこの家を発つことに決め、身支度が済んだ時、医師に呼び止められた。

「ルークさん、ちょっといいですか」

「はい。…ごめん、皆。先行っててくれ」

カマルが怪訝そうな顔をするが、微笑を浮かべ、手を振って促す。

扉が閉められ、足音が遠ざかったところで。

「何でしょうか」

「カマルさんのことなんですがね」

うすうす予感はしていた。だが、まさか。

「透視魔法も併用して彼女を診察してみたのですが、傷口がもう一度開けば脊髄神経に障

り、最悪の場合、――――――死にますよ」

そんなに、事が重大だとは思っていなかった。

どんなに悪くても生死にかかわるなんて。

ルークの眉間にしわが寄り、強く握る拳には手汗が滲んでいた。

「それに、もし仮に最悪の場合に至らなかったとしても、反動で今後、半身不随になる可能

性も捨てきれない。ですから…」

医師の症状は暗い。

彼女の身の安全を第一に考えてほしいのだろう。

ルークが、旅のリーダーであるからには。

「ええ。必要以上に戦わせはしませんよ」

「それなら、いいのですが」

だが、ルークも医師も双方ともに彼女には、戦う運命が付きまとうことを予期していた。


そして医師のもとを離れ、彼らは帝国へと向かう旅路に出た。

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