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第四話 旅商人との出会い

光の柱が顕現するその数十分前…。

舗装されていない道をひたすら進む荷馬車が一つあった。

その荷馬車に乗る彼らは、人から旅商人と言われている。

二人と一匹。

二十代の男女と服を着た犬であった。

「ねえ、まだ着かないの?」

『仕方ないじゃないか、魔導力バイク(FLA)なんて代物じゃなく、馬に引かせてんだからさ』

「でも、遅いのには変わりないじゃん…」

と荷馬車の中で言い合う女と「犬」。

馬の手綱を握っているのも、どうやらこの犬らしい。

何故この犬が喋れているのか、手綱を握れているのか、実のところまだ解明されていない。

『だから~、目的地に着くまで 40km かかるんだって帝国を出る前に言ったじゃないか!』

「そう言われてもさ、もう着いたっていい頃でしょう?」

「さっきからうっさい!馬鹿者ども!!」

痺れを切らしたのか、奥にいた青年が叫んだ。

「一体なんなんだよ、腕時計で測ってみれば一時間以上も言い合ってるんだよ?いい加減

疲れるし、こっちの身にもなってよ!」

「うるさいのはそっちでしょ、馬鹿ルーク!こっちは真面目に長い移動で疲れてるの!」

馬鹿と言われたルークは立ち上がり、

「馬鹿は僕の嫌いな言葉だ!っていうか面倒くさい、黙ってくれ、こっちは静かに目的地に

行きたいんだ!」

『そうそう、いい加減黙りなよサクヤ』

犬があくびをしながら言う。

「あんたが言うな、コガネ…それに、馬鹿嫌いって言ってる割に使ってんじゃん、ルーク君」

と、小馬鹿にしたような含み笑いを込めてサクヤが言った。

「そんなことより、どうせうるさいなら確認しようか」

ルークは「あ、ちょっと」と焦るサクヤを無視し、紺色のコートの胸ポケットから地図を取

り出して、広げた。

「ここを見て」

ルークは、ルミナス帝国から一直線に伸びる道の先を指差した。

コガネとサクヤは、その一点を凝視する。

「それ…」

「そう、僕たちが向かう村だ」

「それがどうしたの?」

サクヤの問いにルークは

「ここはさ、…海に面してるだけあって貿易が盛んなことで有名なんだ」

と指摘した。

『うん』

「けれど、どうしても貿易で栄えて、大国となったフェイル海王国には見劣りするんだ。 だ

が、共通点がある。それは、 国自体の面積と王国と呼ばれるに至っていることから容易に想

像できる。他の国に物資を運び、それで収入を得てるのだから軍資金には困らない。だから、

その王国と比べるまでもない」

「つまり、何?」

「つまり、貿易が盛んな村は王国と同じように武力があり、大きな戦力となりえる、っと『向

こう』は考えるはずだ」

サクヤはルークの語りにハッとした顔をし、

「ねえ、その『向こう』って…」

ルークが頷いて一呼吸ついた時、大きな風が吹きすさんだ。

そして、

「そう、『魔物』だよ」と言う。サクヤとコガネの背筋がゾワッとした。心なしか寒い気もした。

コガネはそれを追い出すように頭を横に振ると言った。

『魔物?え、でも、数年前に出現数が減少して、もう退いてるはずじゃ』

「いいや、おそらく奴らはその村が力を蓄えきる前に必ず、来るはずだ」

――――時の歯車が、今、噛み合う。

突如、頭が割れる程の爆音が発生した。鼓膜が破れるほどに痛み、その激痛に耳をふさぐ。

進行方向に巨大な光の柱が見えた。

「な、んだ…あれ!?」

『急ぐよ!掴まって!!』

コガネが手綱を大きく振り下げる。バシンと小気味よい音が響き、馬は一度嘶くと速度を上

げ、走り出した。

近づくごとに光の柱の様相は、凄みを増していく。

壮大、そんな言葉が合いそうな力の源泉。

突風が吹き付け、馬車の荷台の外装が軋轢音を立てる。

このままでは、荷台がいつ吹き飛ばされてもおかしくない。

馬が時折、物怖じして頸を振り、脚を止めようとする。

しかし、諦めるわけにはいかないと馬に鞭を入れる。

ライバル達に幾たびも抜かれ続け、仕事はもう、無いものとしか考えられなかった。

収入源が少ないのだから、食料も残り少ない。

従って、行く先の村に仕事を依頼された時は、相当大きなビジネスチャンスになるものと踏

んだのだ。

自分たちの希望。

みすみす、そのビジネスチャンスを失ってなるものか。

彼らは急ぐ。

前進する最中、光が徐々に収束して行くのが見える。

「見て、光が消えていく!」

「ほんとだ…って」

ルークが前方を指差し、

「龍?」

十分に光の柱が収束した時、黒色の軍勢が飛び去っていくのが見えた。

「あの光は、あれを追い返してたのか?」

『だろうね』

そして、辿り着いた時に観たものは、 ―――――壊滅した村とへたり込む三人の少年少女の姿だった。

「大丈夫?」

サクヤが少女の血ぬれた肩に手を乗せる。

すると、ビクッと反応し、転がるように対面した。

目は怯えきっており、体を震わせ、歯がカチカチと音を立てている。だが、少女は胸に抱い

た小説をおろすことはなかった。

サクヤがもう一度声をかけようとした時、ルークが制止し、首を横に振った。

おそらく少女の反応からして、緊張しているのだろう。襲撃された後だ。不安と不信で凝り

固まっているのかもしれない。

なら、落ち着くまで声掛けは慎重にならなければならない。

「……分かった」

サクヤは眉をひそめたものの、大人しく従い、引く。

しかし、

「でも、どうするの?こんなことになってる村に、この子たちを置いてけないでしょ?」

ルークは、サクヤの言わんとしていることが分かっている。

帝国に戻り、この子たちを戦争孤児として、孤児院に送ろうというのだ。

そうすれば、同じ境遇の孤児たちとも打ち解け、精神的にも楽になれるかもしれない。

それに、孤児院に送りさえすれば、義親が見つかるまで寝食ともに困ることがないだろう。

自分たちの経済状況からして、彼らを養うことは厳しいからと言うのもある。

そのため、サクヤの言い分に従うべきだ。

だが、ルークは。

「こいつらを僕らが匿おう」

と言った。

「はあ!?」

サクヤは素っ頓狂な声を上げ、コガネは馬をあやす手を止めた。

『ルーク、当然分かって言ってるんだよね?僕たちの置かれてる状況を』

「ああ、分かってる」

ルークは頷いた。

「収入なし、食料もないに等しいくらい、あと少ししかない」

そうだ。蹲っている三人と彼ら旅商人以外に人の気配など一つもない。村は完全に破壊され、

ビジネスチャンスは失敗に終わったのだ。

自然災害的な出来事ではあるものの、このことが商会ギルドに知られれば、仕事が次にはい

ることはもうないだろう。

「なら、なんで!」

問い詰めようとするサクヤにコガネは首を横に振る。

『知ってるだろ?ルークは馬鹿なんだ、こうなったらもう止まらない』

「いや…たんに彼らを見てインスピレーションを得たんだ。…ぼくらの旅商人になった経

緯と似てたから」

ルークはそう言って苦笑する。

『あ……ごめん』

コガネは寂し気に笑うルークを横目に見て、詫びる。

自分たちが旅商人になった時、それは貧困層からの脱却を意味していた。

スラム街に近しい背徳的な街での生活は、常に死を覚悟しなければならなかったからだ。

だから、自分たちが旅商人になれた時は、嬉しかった。

モチベーションも維持できた。

だが、それは途中までのこと。

現実は厳しく、理想に程遠かった。

「だったら、それこそだめだよ」

ルークが顔を伏せるが、サクヤは構わず言及する。

「人がいいのも大概にしなよ。私たちがこうなったんだよ?この子たちを巻き込んでいい

の?」

「分かった。話をするから、少し待ってくれ」

ルークは参ったといわんばかりに手を挙げ、視線を三人に向ける。

「なあ、君たち。先ほど爆発的な光が見えたんだが、ここで一体何があった?」

「魔物と、……交戦しました」

ルークの脳裏に飛び去っていく、龍の軍勢がフラッシュバックした。

「魔物と、交戦?…よく生きていられたな。それで?」

「私が、追い返しました。…蒼い光を帯びた魔法で」

合点がいった。あの爆発的な光は彼女の魔法によるものであると。

しかし、

『信じられないな、まだ年端もいかない子供にあんな魔法を発動させるだけの魔力がある

とは思えないよ』

そう。コガネの言う通りだ。

たかが十代そこそこの少女が、それこそかの有名な勇者一行の魔術師程の魔力を内包して

いるとは思えない。

魔術師はそもそも、魔法の扱いに幼少期のころから長けていたというが、この少女は今さっ

き発動させたという。つまり、温室育ちで戦闘経験も皆無という事にほかならないのだ。

「確かにね、さっきの戦い以前に、戦ったことないだろう?」

「はい」

彼女が頷いたということは、コガネの推測通りだった。

『やっぱり…、まだ子供だよ。孤児院に預けた方がいいよ、ルーク』

「っ!?…カマルは俺たちを助けてくれたんだ!子供だなんて言うなよ、犬っころ!」

レイドが歯を食いしばりながら叫んだ。

「それに、カマルとケルトはともかく俺には職がある!魔導警察だ!」

言いつつ、胸ポケットから人の眼が基調となったイニシャルの手帳を取り出し、見せる。

帝国にある警察本部に務める警官が持つものと紛れもなく、同じものだった。

「魔導警察、か。確かにね。本物だよ、その手帳」

サクヤがルークに目配せする。

「言葉は汚いけどね」

「うっせえ!……俺は、一人でもこいつらを養う気概がある。孤児院になんか、死んでもい

かねえ!」

「レイド、ちょっとさすがにそれは!」

「うるせえよ、ケルト。てめえだって、魔導探偵事務所がありゃそのまま職として継続でき

たろうが」

吐き捨てるようにレイドは言う。

そして、

「カマルは確かに未熟かもしんねえ、でも!現に魔法が使えてる!職なんて腐るほど就け

れるに決まってんだろが!」

カマルは何か言いたそうな顔をしたが、レイドの真剣な表情に圧倒され、その顔を伏せるし

かなかった。

ルークはパンと手打ちする。

「皆、聞いたかい。ここまで彼が言うんだ。帝国まで、一応連れてはいこう。だが、そのあ

とは」

「ああ、別行動だ」

『はいはい、とりあえず帝国まで一緒に旅をするんだし、自己紹介と行こうか。僕からね~』

コガネは険悪なムードを中和するため、自己紹介をしようと促した。

コガネから始まり、一人ずつ自らの名前と職業、長所を紹介していく。

カマルは、コガネの度々入れる茶々に、くすっと笑うことができた。

例えば、

「俺は、ルーク。商会ギルドから派遣された旅商人でこいつらのリーダーだ」

『リーダー?そんなガラじゃないでしょ~』

「うっさいぞ、そこ」

こんな風な感じの普通の会話。

自己紹介をし終えた時には、もう、先ほどの重苦しい空気はなくなっていた。

「さて、あらかた紹介し終えたわけだし、行こうか」

ルークが促す。

と、一同立ち上がり、荷馬車に乗り込み始めた。

だが、カマルは

―――――あ、れ。意識が…とぎれ

視界が暗転し、レイドたちの呼ぶ声も聞こえなくなる。

そして、音もなく道端に倒れ伏した。

目が覚めると、そこには見知らぬ天井があった。

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