第三話 星の瞬き 目覚め
だが、目の前の恐怖なんかよりも。
痛みや苦しみなんてものよりも。2人を失う方がずっと怖い。
だからこそ。彼女にはもう、怒りだけじゃない、彼らを守ろうという意思がある。
「metor of light(メターオブライト!) ーーー星よ、輝け……世界を照らせ!」
直感で叫んだ。ただひたすらに。
自らに及ぶ不幸を遠ざける様に。
彼らを、護れるように。
彼女の体が蒼く輝く。
最初は小さくおぼろげな光だった。
だが、明滅を繰り返し、最後には大きく恒星のような輝きを放った。
それが彼女の右拳に集束し、
「VADE……!……駆けろ!」
その掛け声とともに放たれる。
蒼き光は流星のように一直線に宙を駆け、邪龍神の胴体に直撃した。
膨大な土煙とともに爆裂音と耳をつんざくような金属音にも似た音が、鳴り響く。
次いで邪神龍のうめき声が聞こえた。
肩の拘束が解け、カマルはうろめきながらも立つことができた。
効いたのか、そう思った。
「くっ…くく」
うめき声だと思ったその声は、
「くははははははっ!!」
「っ!?」
低い、笑い声だった。
「う…そ、さっきのがまるで効いてない?」
「いや、効いてるさ」
龍は言う。
「お前が後、数年その技を磨けば我は死んでいただろう」
突如爆風が巻き起こり、カマルは身構え、レイドたちは踏ん張り、吹き飛ばされないように
するが…絶望が現れた。
「だが…、かすり傷だけだ」
直撃した光弾は確かに邪神龍の胸の装甲を穿った。
けれど、威力が足りなかった。
それもそのはずだ。先の技が発動したのは今回が初めてで、威力の計算なども考えていない。
もう一度撃たなきゃ、殺される前に。彼女はそう思い、右拳を握る。
だが、蒼く光るものの淡い輝きのみで、強い輝きを放たない。
「な…んで!私はレイド、ケルトを守らなきゃいけないのに!」
焦燥感が彼女の胸中を焦がす。
冷汗が滝のように溢れ、動機が、息切れが激しくなる。
しかし、敵方は待ってくれない。
「消え失せるがいい。木偶風情ども」
邪神龍の口が開き、どす黒く高熱を放つ火焔がせり上がっていくのが見える。
次の瞬間、それがカマルたちに向かって放たれた。
彼女は咄嗟に目を瞑る。
暗い。そして、とてつもなく熱い。
だが、その視界の中で一点の光が見えた。
彼女はそれに手を伸ばす。
刹那、激しい右上腕部の痛みが彼女を襲った。
思わず悲鳴を上げ、カマルは涙で滲んだ眼を開いた。
蒼白く光る痣があった。
それは文字。
「eclat」
どういう意味なのかは分からない。だが、光弾と同じような力であることは理解できる。
それを読み上げ、前方に視線を向けると、
「すごい……」
蒼く輝く障壁が、彼女達三人を殻のように被さり、守っていた。
「人間風情が……バリアを!?」
邪神龍が一度、焦ったように見えたが、
「くっ……一瞬にして灰燼にしてくれる」
放つ焔の威力を上げるだけの余裕がまだあるようだった。
しかし、障壁は掻き消えるどころか輝きを増し、より強固なものとなる。
「よし」
彼女の口元には笑みが浮かび、
「これなら、いける!」
眼には闘志の焔が燃えていた。
「調子に乗るなよ、貴様ら」
邪神龍は声を荒げる。そして、
「貴様らなど所詮、木偶にしかすぎない!」
放つ焔は、爆炎のそれを超えプロミネンスの灼熱に達する。
「消え失せろ!!」
「負けられない!だから、それは無理な相談!」
灼熱と障壁、その威力は均衡し、上空に至る光の柱となった。
両者は互いに譲らない。
一瞬でも気が緩めば、灰燼に帰すほどの威力の押し合い。
両者は互いに咆哮する。
それは、気を高ぶらせ攻撃、防御の威力を弱まらせないため。
だが、長くは続かなかった。
―――――勝ったのは、カマルだった。
邪神龍は、火焔が押し戻されるのを察知し、大きく後退、空を旋回することでそれを避けた。
そして、告げる。
「今に待っているがいい。我を敗北させたこと、必ず後悔させてやる」
怨嗟にまみれた視線で一瞥し、彼は龍の大群を引き連れ、北東の空へと飛び去って行った。
「疲れ……た」
障壁が徐々に小さくなり、完全に収束して消えたとき、カマルは尻餅をついた。
ため息が漏れ、気が抜けたのか瞼が重くなる。
だが、声が聞こえた。
「寝んなよ、その傷じゃ死ぬぞ」
レイドが自分の袖を裂いて、包帯の代わりにそれをカマルの傷口に巻いた。
痺れのような鈍痛と切り裂かれた傷の鋭利な痛みが、襲う。
涙が溢れた。
その痛みだけじゃない。
自分の家が、彼らのお祝いが、何よりも心より大事にしていた小説が農園とともに焼失した
のだから。
「カマル……しっかたねえな」
レイドが突然、踵を返し、崩壊した家に向かう。
「レイド?」
カマルは一瞬、彼の行動が分からなかったが、思い至った。
「ねえ、無理だよ!すべて焼失してるんだよ?…小説なら尚更だよ」
「お前の…好きなもんだろ、…よっと。…そう簡単に諦めんなって。後、これは遅れたこと
の罪滅ぼしってやつだ」
レイドは扉の残骸を退けながら、笑みをこぼす。
そして、ケルトに視線を向けると、
「おら、てめえも手伝えよケルト。怪我してねえんだから、すぐ来ねえとなんか奢らせるぞ」
「はいはい、それだけは勘弁願いたいね」
苦笑し、ケルトも参加した。
彼らは瓦礫や焼け焦げた木材を退け、大きく開けた箇所を調べる。
砕かれた皿の残骸、焼け屑独特の刺す臭い、商品としてもう意味のなさないオリーブの残骸。
原形をとどめていないが、カマルの作った彼らへのお祝いの品もあった。
そして、探し始めて数分後。
「ほれ、あったぜ」
そう言ってレイドが、投げ渡す。
カマルはあたふたしたが、持ち直した。
それを見て、安心したのかケルトは微笑んで、言った。
「それ、表紙は傷んでるけど、中身は奇跡的に焼けてないから」
「レイド、ケルト……ありがとう」
カマルは、その小説を大事そうに抱いた。




