帝国編 十三話 敵を知るもの
カルデアの教主は自分の後ろにあるホワイトボードに図解しながら話す。
「私の魔法は細胞を融解……分かりやすく言うと体組織を壊すことで細胞レベルに対象を粉々にできると言った内容なのです」
「それはまた……」カマルがそう呟くと教主は苦笑した。
「不気味で、かなり実戦的でしょう?」
「いえ……」
「いいのですよ。私の魔法を少しお見せしましょう。別にこの魔法は有機物だけに機能するわけじゃないのです」
イシュカー、なにかサンプルを出しなさい。
そう言う教主にイシュカーはいつのまにか手に持っていた拳大の石を差し出す。
それを足元に置いて教主の左隣へと下がった。
「細胞融解魔法」
そう呟くように魔法の名を口にする。瞬間、時計の針のようなものが教主の足元に現れた。
青く……まるでサファイアのような色合いの光を放つ。
続けて教主はいう。
「我が名に誓い、標的を破壊せしめなさい」
その言葉を皮切りに指針が石に向き、その青い光が石に伝播する。
少しずつそれでも確かに掘削機を当てるかのように石が破壊されていく。
しかし、塵となって消えるのではなく本当に融けるようだった。
「この魔法は幼少の頃に発現しました」
教主が言う。
「当初は制御の仕方が分からず苦労しました……誤って人にむけてしまったこともあります。殺してしまうには至りませんでしたが、かなり大怪我をさせてしまいました」
「そんなことが……」
「ええ」だから私はこの帝王のお膝元の国軍基地施設に私の魔法を研究材料として差し出す代わりに制御する方法を教えて欲しい。
そういって頼んだのだと教主は言った。
「私自らはすべての人を守護することができるのなら、死んだのちに神のもとに行くことが叶わなくても構いません」
さもその死が本望であるかのように。栄誉であるかのように、教主は言う。
イシュカーは拍手した。
ぱちぱちぱち、と。
それが当然であるかのように。
ーーーおかしい、気持ち悪い
言ってることはすごくまともであり、かなりの英雄的なことだと思う。
それに普通の挙動だ。何かしらの魔法を発動させているわけでもなさそうだし、教主の浮かべる笑みも別に普通そのもの。
なのに解せない。得体の知れない気持ちの悪さがそこにある。
なのに帝国軍兵士もイシュカーも旅商人のサクヤとコガネでさえカマル以外のすべての人がそれに同調していた。
カマルは首を横に振って自分の違和感は気のせいだと一旦思うことにした。
「貴重な話を聞かせていただきありがとうございました」
カマルは頭を下げる。そして、極力苦々しい顔を晒さないようの努めて笑みを浮かべた。
「ただ、ならずものに襲われた時にその兵器を壊してしまい……大変申しわけなかったです」
「いえいえ…大丈夫ですよ」
とんでもないです、お気になさらずと教主が言う。
「この私の役に立てたならよかったです。では私たちは実験施設長との会談ののちに、第一当地にて挨拶をしに行きますのでここいらでお暇させていただきます」
そう言って教主は背を向けて去っていった。
カマルには、遠ざかっていく教主の笑う顔が不気味に歪んで見えた。
イシュカーはカマルに
「私もここでお暇しますね」
「はい……ありがとうございました」
「彼は敵だ」そう言って耳打ちするイシュカー。
「え……?」カマルが聞き返すと、イシュカーはこういった。
「その事実を知りたければコロシアムに出て私と闘いなさい。そして勝てたあかつきには私があなたにカルデア本部の場所をお教えします」と。
背を向けて歩き出したイシュカーの背には、怒りと寂しさがカマルの目には見えていた。




