帝国編 第十一話 商会ギルド
帝国の城門前にて。
城門の左右は高い城壁に囲まれ、中の様子を見ることができない。
そして、2人の青銅の甲冑に身を包んだ兵士が、真紅色のその城門を護っていた。
ある程度近づくと、
「そこの旅商人一行、止まりなさい」
コガネが馬をあやして止める。
ルークが荷台から降りて、言った。
「通行許可をお願いしたい」
「では、ここにサインを」
黒色に漆塗りされたペンと書類を渡される。ルークは、ずらずらと並ぶ注意事項を読み飛ば
して、下の署名欄にサインした。
「お手数かけました。その書類はそのまま許可証になります。必ずお持ちください」
「了解です」
そうルークが了承すると、
「開門!」
その掛け声とともに、軋むような音を立て、門が開けられる。
ルークはコガネが頷いたのを皮切りに、荷台に乗り込んだ。
そして馬が歩き出し、……門をくぐる彼らに、帝国兵士のエールが贈られた。
「旅商人御一行!……よい帝国生活を!」
ルミナス帝国。
それは北から南にかけて一文字に縦断する大通りを「クライツストリート」、西を「ローグストリート」、東をルミナス城下「レイズタウン」と二つの通り、一つの街からなる大国である。
「クライツストリート」は、ビジネスタワーが連なる大通りで、就職に関することは主にここで情報を集めるのが一般的だ。
「ローグストリート」は、旅商人のギルドが連なり、今日も旅に出る商人が闊歩している。
その為、ギルド同士の競争が絶えず、時折り、いざこざが勃発することもあるという。
ルミナス城下「レイズタウン」は、帝国を象徴する城を起点に、魔導警察本部、帝国軍基地、
美術館や博物館、帝国裁判所に、果てはコロシアムまで、近代的なものから古風溢れるもの
まで網羅した一大都市だ。
その陰に、スラム街があるというが……実態はあまり知られていない。
レイド、ケルトはカマルやルークたちと一度別れて、クライツストリートにあるそれぞれの本部へと向かった。一方ルークたちは「ローグストリート」にある自分たちの旅商人ギルドの前に立っているのだが―――――。
『うう……脚が上がらない』
「ほんと……、流石にギルドの中は入り辛い……」
ルークたちは、自分らが業績を残していないことを苦にし、沈んだ気持ちのまま、足踏みし
ていた。カマルはそんな彼らを心配そうに見ていた。
ルークは歯を食いしばり、サクヤたちに言う。
「そもそも……僕らは、ビジネスチャンスを棒に振ったんだ。怒られるどころか、笑われる」
「うん……」サクヤが顔を伏せる。
『でも……』コガネが首を横に振って言った。
『それは仕方ないことで……だって、魔物が……』
「いや……もう少し早めに出ていればよかったんだ。この業界では、一秒たりとも無駄にで
きないでしょ?」
「なら……三人で笑われに行こう」
『そうだ、そうだよ。それなら苦しくない』
「いや……、だめだ。僕一人で行く」
「なんで!?……だって、一人だけだったら、どんなに……」
サクヤが俯く。
その様子を見て、ルークの脳裏に電子機械のシステムチェックの際に失敗し、嘲笑された件
が思い起こされた。
あの時の悔しさがよみがえる。
拳を、爪が手のひらに食い込むまで握りこみ、歯噛みする。
だが、それ以上にルークにはやらなければならないことがある。
「サクヤ、コガネ。君たちに頼みたいことがあるんだ」
ルークがおもむろに彼らに向き、頼みごとを告げようとする。
その改まった態度に訝しさを覚え、コガネが訊いた。
『なに?』
「帝王軍に、イグニション・バーンを破壊してしまったことを伝えることと……」
「……帝王軍の、内部調査を頼む」
「え、なんで……内部調査もする…」
『わかった』
サクヤが言い切る前にコガネが了承した。
サクヤの裾をカマルと一緒に引っ張り、荷馬車にのせようとする。
「あ、ねえ、ちょっと!!引っ張らないでよ、私まだルークに聞きたいことが」
彼女は納得いかないのか、身を乗り出し、そう叫んだ。
言いたいことは伝わる。
ルーク個人でない限り、あの時、あの場所で感じたどことない恐怖を、煮え切られない疑問
を、分かるはずもないのだから。
そう、だからこそ、彼女は聞かなければならない。
苦楽を共にした、仲間である彼の考えを。
共有すれば、彼の中で渦巻く疑問を少しでも楽にできると思うから、と。
だが、
『着けばわかるから、頼むよ……!』
コガネはあくまで、ルークを一人にすることを選んだ。
仲間はずれにされた、と思う反面、コガネの、ルークの考えの裏に隠された優しさを感じら
れ、腑に落ちない。
「ぐっ……ずるいよ。なんで、教えてくれないの……」
サクヤは顔を伏せるしかなかった。
脱力し、コガネに引っ張られるままルークから遠ざかる。
そして、彼らが荷馬車に乗ったのを確認すると、ルークはギルドに視線を向けた。
「ありがとう、コガネ……サクヤ」
サクヤたちに感謝する。
「カマル、見苦しいところを見せてごめん。だけど、やることはしっかりやらなきゃいけないんだ」
重く沈み込んだ気持ちを高ぶらせる。
確かにギルドに足を踏み入れた途端、嘲笑の嵐に吞まれるであろう。
しかし、そんな事よりも彼らに恥をかかせたくないのだ。
―――――恥をかくのは自分だけでいい。
思い、脚を石段にかける。一歩ずつ、その階段を上った。
―――――まあ、少し怖いけどね。
苦笑し、ルークは青く澄み渡る空を見上げた。
―――――サクヤ、コガネ、カマル頼んだよ。
上りきり、ギルドの扉の取っ手に手をかける。
そして、ぐっと前に押し開けた。
酒とタバコの匂い。
薄暗い酒場のようなところにいるものたち数十人の目がルークへと視線が集まった。
少しして、どっと笑い声が響き渡る。
ルークは一瞬怯みかける。それでもなんとか前に脚を踏み出す。
そして前へ前へと進み。
「ギルド長マステル、少しお話しが」
老いた猫が魔術師然とした茶色のローブを身にまとい柏の杖を持ってカウンターに座っていた。
冷ややかな目でこちらを見て。
「なんだ能無し」
開口一番それかよと思うものの、ルークは言う。
「まずは申し訳ございませんでした。私はビジネスチャンスを棒に振り……何も成果を得られないばかりか、子どもらを仲間に入れる始末
弁解の余地もございません」
「なら、なんのようだ」あくまで冷ややかな態度を取り続けるマステル。
だがルークは続ける。
「私はそれでも金を稼ぎ、あなた方の役にたちたいと考えております」
「それなら破門だ」
「出ていけと?」
「そうだ。私たちのギルドにお前たちのようなビジネスチャンスを棒に振る能無しどもは必要ない」
「……っ」
予感はしていた。ネコ族は虐げられていた種族。
それでも圧倒的な商売知識、手腕を用いて巨大な商会ギルド「マスターズレイド」を立ち上げたのだ。帝国一のギルドであり、精鋭が集う。
ビジネスの知識が乏しいルークたちを雑用として雇ったのがこのギルドだった。
コガネがいなければとうの昔に破門になっていただろう。
でも甘えていたわけじゃない。
これからもそうだ。ルークは歯噛みするもののギルド長の目を見つめた。
ふんとマステルは鼻を鳴らして言う。
「だが、この条件をクリアできれば考えてやらんでもない。コロシアムに出ろ」
もとよりそのつもりだ。僕はコロシアムに出る。
そして闘王リアと戦う。勝つんだ。
静かに決意してルークはマステルに言った。
「優勝してみせます。そうでなければ話にならないことも分かりました。優勝杯を手に入れ、賞金を必ず持ってきます」
マステルが鼻を鳴らして目を逸らす。
話は終わりらしい。
ルークは背を向けると扉の方へと歩き出した。
一方、カマルたちは帝国軍基地に来ていた。




