帝国編 第十話 決意
帝国へと至る林の中。
彼らはその林道でキャンプをしていた。
カマルは荷台から薪を取り、それを束ねてたき火する。
サクヤやコガネ、ケルトはたき火を取り囲むようにして座り、談笑していた。
レイドの姿が見えない。
カマルはレイドを探そうとして、ルークが荷台の中にいるのを見かけたら。隅に座り、天窓を仰いでいる。ランタンが煌々(こうこう)と輝いているが、彼の顔には憂いがあった。
カマルは追加の薪を取りに行くついでに彼に近づき、話しかけた。
「そこ、気持ちいいですよね?私、みんなが寝静まったとき、そうしてたんですよ」
すると、ルークは笑い、言う。
「ははっ……ここは本来なら僕の特等席だよ」
「またまた~」
カマルは少しだけ意地悪く笑って、続けた。
「でも、ルークが無事でよかったよ」
無言になり、ルークは真顔で目を見開く。
それに彼女は動揺し、訊いた。
「あ、あれ?敬語を使わなかったの、まずかった……ですか?」
「えっと……君って結構フットワーク軽かったんだなって」
そう答え、ルークは優しく笑い、続けた。
「僕は、敬語を無理に使わなくてもいいと思うよ。だから、そんな感じにしてくれて大歓迎」
彼女は胸を撫で下ろして、苦笑いする。
「よ、よかった~。ありがとう、ルーク」
そうして、二人は語り合った。
ルークは、売り物として、電子機械のメンテもしているということを話した。
それに関する知識を持ったのは、初回に受け持った時に客から馬鹿にされたことで奮起し、
図書館で勉強して身についたということかららしい。そして、それだけ知識がついたのに出
来高制の旅商人を続けるのは、サクヤやコガネとともに目指した夢だからということ。
カマルは、「銀色の雷」という小説の作者が「リゲイル」と男っぽいペンネームを付けてい
ることでファンの間では「男」ではないかと噂されているということを話した。
しかし、男ではないかと言われてる所以はまだある。カマルは「『リゲイル』の文章表現が、細やかな心理描写、ロマン溢れ、美しい情景の描写。逆に手に汗握るバトル描写。それらを綿密に複雑に絡ませ、それでいて違和
感ないようにみせているため、本当は中性なんじゃないかと思っている」と語った。
それからカマルは、こう続けた。
「ラジオで流れてたんだけどね。帝国でこの季節になると紳士服を着て、仮面をかぶって、
講演をするんだって」
「行ってみたい?」
ルークがそう訊くと、カマルは笑顔で即答した。
「もちろん!……それが、私の夢!」
そう言って笑う彼女の眼は、星空のように輝いているようにルークの視界に映った。
夢があるな、とルークは思った。
それなら、話さなければならない。
彼はおもむろに立ち上がり、
「カマル、君に言っておかなきゃいけないことがある」
「なに改まって……」
少し苦笑いしつつもフランクに接しようとしたが、ルークの真剣な表情にカマルは真顔に
なる。
「どうしたんですか?」
気付けば彼女は敬語に戻っていた。だが、ルークは答える。
言葉を選んで、カマルを傷つけないよう、配慮しながら。
「君のその肩の傷はまだ完治しちゃいない。きついことを言うかもだが、命にかかわること
だ。戦闘は極力避けてほしい。分かるね?」
カマルは分かっていたとでも言いたげな笑顔を浮かべ、ただ頷いた。
そして、開口する。
「傷については分かりました。……でも、護られているばかりじゃあらくれものたちや邪神龍、
魔物に急に襲われた時、死んじゃいます」
ルークが顔を伏せる。俯いたその顔に自嘲的な笑みが見えた。
彼女が、そう言うことは、分かっていたのだろう。
そして今、何か言おうとして、彼女を引き留めようとして、言葉を選んでいるのだろう。
―――――優しいね、ルーク。でも、だめだよ
しかし、カマルは首を横に振った。
「責任を持つなら、お願いです。私に戦い方を教えてください」
「っ……」
ルークはうつむいたまま、視線を合わせない。
カマルは頭を下げる。
「ルーク……お願い。私は、あの二人を守りたいんだ。だから……」
ルークは、彼女を見た。それから、その必死の懇願に首肯した。
ただ、一度だけ。
圧倒されたのではない。彼女に、力を与えるためだけに。
彼は、リーダーだ。
なら、責任を持つことに何ら変わりはない。
だから、その頷きは力強く、そして、「彼女を守るという決意の表れ」だった。
「ああ……、分かった」
「……ありがとう!」
カマルが安心しきったような笑顔を浮かべる。
「でも、僕の修業は大変だぞ。大丈夫か?」
意地悪くルークが笑った。
それにカマルは
「大丈夫!……なんてったって、魔術師を目指してるから!」
と笑い、返した。
「へえ……言ったな?魔術師は最強の魔術使いだぞ」
「うん!……幼いころからの憧れだから」
「そっか……と、みんな寝ちゃったみたいだね」
視線をサクヤたちの方に向けると、たき火が消えており、みんな横になっていた。
「そうみたいだね……ずいぶんと話し込んでたもんね、私たち」
「僕らも寝ますか。……明朝出発しなきゃいけないから」
「うん」
カマルは頷いて立ち上がり、ランタンを消した。
暗闇の中でカマルが言う。
「改めてよろしくね、ルーク」
「こちらこそ。よろしく、カマル」
そう言って笑い合った時、後ろから声が聞こえた。
「おいおい……ずいぶん、仲良さげだな」
振り返る。背を壁に預け、立っていた。
カマルが問う。
「レイド! 探してたんだよ? どこ行ってたのさ」
「村の方だよ」レイドが少し笑いながら答えた。「帝国の兵器を調べたくてね」
「ああ……君って公安だったっけか」
ルークが少し訝しげな顔をする。
その時、レイドは言った。
「俺はお前らと馴れ合う気はねえ」
「ちょ……」
「大丈夫」ルークが言いかけるカマルを制止する。頷くカマルを横目にルークはレイドに聞いた。
「なぜか聞いてもいいかな?」
「もともと気に食わなかったんだよ、孤児院に入れるっていうお前らの考えがさ。俺たちは子どもながらに真っ当な職につけている。ようは才能がある。自分で稼げる。だから居場所がなくなったってだけでああ言うふうに言われたのは我慢ならねえ」
「それについては申し訳なかった」
ルークが頭を下げる。
カマルがおろおろと2人を見守るが、構わずレイドが続けて言う。
「俺たちもコロシアムに参加する。金を手に入れる。そこで証明してやるよ、お前らの助けなんて1ミリもいらないってことをね」
ルークが驚いた顔でレイドを見た。
カマルも彼を見る。
ルークが少し詰めるように言った。
「カマルの肩の傷が深いこと知ってるだろ? 彼女にも無理をさせるのか」
「カマルはしんどいなと思ったら棄権すればいい。3人の中で誰か1人が優勝すればいいし、お前らがコロシアムのことを少しでも考えてるなら出ろよ」自分の首に人差し指を向け、ルークを睨んで言った。「サシでやろうぜ」
「………分かった」
ルークは少し考えたあと、頷いた。
それを見届けるとレイドはその場を後にする。
ルークとカマル、2人だけが耳が痛いくらいの静けさの闇にただ残されていた。
次の日の朝……。雨が降りしきる中、帝国へと急ぐ。
そして、門の前へと到着した。




