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星織が消えた世界で、俺たちはまだ戦う  作者: 秋乃 よなが
第一章 星の呼び声が導くもの

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第二話 裂けた空と始まりの戦い


 翌朝、大地を殴りつけるような地響きで、アルタイルはベッドから飛び起きた。


「っ、なんだ!」


 壁がきしみ、天井の埃がぱらぱらと落ちてくる。心臓まで揺さぶられるたびに、昨夜見た悪夢が脳裏に蘇った。


 寝間着のまま部屋を飛び出すと、両親も同じように青ざめた顔で廊下に出てきていた。


「アルタイル! 無事か!」


「俺は大丈夫!」


 一体何が起きたのかと、家族三人で外へと出る。鳴りやまない地響きとともに空も鈍く揺れ、次の瞬間には空全体に亀裂が走った。


 家族三人、そして村のすべてが、息を潜めて空を見上げる。世界全体が、耳鳴りだけが響くような静寂に包まれた。


「――これは……」


 悪夢で見たのと同じ光景に、アルタイルは言葉を失う。そのとき手首の欠片が煌めき、静かに言葉を発した。


『――星織(ほしおり)の崩壊が始まりました』


「崩壊……?」


 詳しい話を聞こうとした瞬間、激しい音を立てて空が割れた。細い裂け目が現れ、その向こうから全てを飲み込むような漆黒が顔を覗かせていた。


「おい! 何か降ってくるぞ!」


 父の声にアルタイルははっと顔を上げる。裂け目から現れる小さな黒い粒。それはだんだんと大きくなり、目視できる頃には、それが黒い靄を纏う異形の化け物だと気づいた。


「母さん! アルタイル! 家の中へ逃げろ!」


 猟師の勘なのか、いち早く危険を察した父が叫ぶ。三人は急いで家の中へと駆け込んだ。


「ぎゃあっ!」


「た、助けて!」


 家の窓から見えるのは、降りてきた化け物に襲われる逃げ遅れた村人たち。抵抗する間もなく、次々と化け物の手によって倒れていく。


「くそっ、なんだあいつら!」


 父が玄関の壁にかかった剣を持ち出す。それはまだ若かりし頃、冒険と称して旅に出ていたときに携えていた武器だった。


「父さん! 行っちゃだめだ!」


「村の連中が襲われてるんだ! 黙って見過ごせねえ! お前たちはここで待ってろ!」


『――あれは魔物と呼ばれる瘴気に侵された生き物です。生ある者を憎み、本能のままに喰らい尽くそうとするのです。武芸を知らぬ人間では立ち向かえないでしょう』


 家を出ていく父の背中。母の制止する声。アルタイルは父の背中に手を伸ばしたものの、空を掴んだだけだった。


「ああ…! あなた…!」


 母の悲痛な声が響く。父は一体の魔物の腕を斬り落とし、足を引きずる村人の肩を乱暴に押した。


「死ぬ気で走れ! 振り返るな!」


 そう怒鳴った次の瞬間には、別の魔物の影が父の上に覆いかぶさっていた。


 アルタイルは残酷な場面が見えないよう、母の目を覆い隠す。しかし彼の目には、血を吹いて倒れる父の姿がしっかりと映る。それでも父は立ち上がり、村人を守るために最後まで戦っていた。


 そのうち、一体の魔物が家に向かってくるのが見えた。


「母さん、ここも危ない! 裏口から逃げよう!」


 アルタイルは、父の死を悟りながらも気丈に振る舞おうとする母の腕を引っ張る。そして裏口から出たものの、すぐ別の魔物に遭遇してしまった。


「っ、こんなところにも……!」


 魔物の大きな爪が襲い掛かる。その瞬間、スローモーションのように、母が自分を庇って前に出たのが見えた。


「アルタイル! 逃げなさい!」


爪が母の身体を貫く。生温かい飛沫が、アルタイルの顔に飛び散った。


「――あなただけでも……生き、て……」


 ――『母さん!』。その言葉は、声にならなかった。


 重い音を立てて、母の身体が地面に倒れ込む。前には母を襲った魔物が。後ろからは家に向かってきていた魔物の足音が聞こえていた。


 もう、逃げるチャンスなんてない。


 アルタイルが諦めかけたとき、手首の欠片の声が響いた。


『――立ち上がりなさい、アルタイル。あなたは星織に選ばれし者』


 欠片が眩い光を放つ。光は線となって伸び、やがて一本の剣の形になった。気づけばアルタイルの手の中には、熱を帯びた柄が握られている。その先に、白い炎のような刃が伸びていた。それは純粋な光ではなく、アルタイルの胸を焼く『怒り』と『憎悪』の塊が、形だけ光の剣に化けているように見えた。


『わたくしは光の欠片。星織より与えられし『光』の力で、魔物を打ち滅ぼしなさい』


「うわあああ!」


 ――目の前の敵を殺せ。


アルタイルは、そう本能のままにがむしゃらに剣を振るった。それでもその切れ味は凄まじく、魔物を簡単に一刀両断にした。


 胸の奥が焼けるように熱い。悲しいとか怖いとかを考える前に、喉から勝手に叫びがこぼれた。恐怖で足が竦みそうになりながらも、誰かを守って死んでいった両親の姿を思い出して一歩踏み出した。


そうしてただ力の限り、目の前に立ちはだかる魔物を斬り捨てていった。


 アルタイルの活躍で助かった村人はいるものの、その数は少なく。家族を失いながらも村を護った青年は、そのまま意識を失った。


『――アルタイル。六英雄を集めて、星織を織り直すのです』


 魔物を倒してもなお、空は不気味に裂けたまま、時折小さな黒い粒を吐き出す。それは、星織の崩壊が始まった合図であり、世界が破滅へと向かう序章だった。


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