第十四話 灼火を統べる者
地鳴りととともに現れた巨大な魔物。それはアルタイルたちの存在に気づき、裂け目のような顎を大きく開けて襲い掛かってきた。
「来るぞ!」
アルタイルが光の剣を構えた瞬間、魔物の口から奔流のような火炎が吐き出される。守りの体制を取った討伐隊の盾壁が一瞬で焼き崩れ、隊員たちが次々に吹き飛ぶ。
スピカが水魔法で相殺して咄嗟に仲間を守ったが、蒸気で視界は悪くなってしまった。
「うおお!」
光魔法を纏わせた剣で、アルタイルが突撃する。しかし、岩のような外殻は斬撃を跳ね返す。剣を握る手に痺れを感じながら、外殻の割れ目から噴き出した熱風を避けた。
「こいつも物理攻撃が通じない……!」
スピカは目標を定めるように水の長槍の切っ先を魔物に向ける。外殻の割れ目を狙って水魔法を連射したが、魔物は炎を吸い込み、水を一瞬で蒸発させてしまった。
討伐隊の矢や槍も熱気で炭のように崩れ去り、誰も決定打を与えられない。そのとき、ベガの声が響いた。
「どきな、アンタら!」
ベガが手首の欠片から、自分の身長ほどありそうな大剣を生み出す。そして地面を高く蹴り上げ、落下する反動を使って、重量のある一撃を外殻の割れ目に叩き込んだ。
「グォォォオオオオ!!」
魔物が身をくねらせて轟きを上げる。ベガの圧倒的な攻撃力が、魔物討伐に希望を見出した。
「硬いのは岩のとこだけで、攻撃さえ当たれば割れ目が弱点になる! アルタイル! スピカ! アンタらの連携を見せてやんな!」
「おう!」
要領は火のスピリットと同じだった。相殺されるのを前提に、スピカが水魔法を外殻の割れ目に向かって放つ。ベガを見習って物量で攻めれば、相殺し切れなかった水魔法が割れ目へと一撃を与えた。
「アルタイルさん! 今です!」
割れ目の熱が引いたのと同時に、光魔法を纏わせた剣が貫く。魔物は痛みに咆哮を上げた。
「良い連携だ! そのまま続けな!」
ベガも個人で応戦する。火魔法を使えば魔物に力を与えてしまう。そのためベガは純粋に自分の力だけで戦っているが、その攻撃力は凄まじかった。
その硬さで剣を弾いた外殻でさえ、ベガの大剣の前では綻びが生じる。
「こりゃあ同じところを狙えば崩れそうだ!」
ベガは不敵に笑い、何度も同じ外殻の箇所を狙った。
アルタイルとスピカ、そして討伐隊が外殻の割れ目を攻める。そしてついにベガの攻撃を受け続けた外殻がひび割れ、砕けた。
「討伐隊ぃ! ここの砕けた外殻も狙い目だよ!」
「おお!」
火炎で応戦するも、攻めるコツを掴んだアルタイルたちを前に魔物は成す術もなく攻撃を受ける。
「グォォォオオオ!」
そして一際大きな咆哮を上げたかと思いきや、魔物が地面を顎で削るようにして潜っていった。
「なっ!? そんなことができるのか!?」
「地面の下から襲ってくるかもしれません! みなさん、気を付けてください!」
いつどこから現れるか分からない魔物に対して、全員に緊張が走る。そして地響きがしたかと思えば、魔物は討伐隊のど真ん中から飛び上がるように顔を出した。
「ちっ! 討伐隊、散開しろ! 固まってるとやられるぞ!」
隊員たちが魔物の攻撃で吹き飛ばされる中、他の隊員に向かって指示を飛ばすベガ。顔を見せた魔物に攻撃を仕掛けようとしたが、再び地面の中へと潜ってしまった。
地面が隆起した瞬間、スピカが咄嗟に水魔法で壁を展開する。しかし、灼熱の突撃に呆気なく蒸発し、また隊員たちが熱波に吹き飛ばされた。
「まだ来る!」
ベガは大剣を構えるも、その体躯に似合わず潜行する速度が速く、狙いが定まらない。
まるで大地そのものが敵になったようだった。討伐隊も散開し、誰も攻撃に回れない。
「アルタイルさん! 一瞬でいいから魔物の動きを止めましょう!」
スピカの声に、アルタイルが頷く。次に地面が盛り上がった瞬間、二人は同時に攻撃態勢に入った。
スピカは長槍を地面に突き刺し、熱を帯びた大地を冷やすように水魔法を展開して、魔物の動きを鈍らせる。アルタイルは光魔法を剣に纏わせ、地表へと突き立てた。
「出てこいっ!」
閃光が地中に走り、魔物を地表へと強制的に炙り出した。
巨体が地上へ躍り出る。動きは確かに止まっている。この機会しかない。
「良くやった! あとは任せな!」
ベガは前に出ると、魔物の顎に大剣を突き刺し、口を開かせた。そしてその場で両腕を大きく広げると、火口で噴き上がるマグマが呼応するかのように渦を巻き、炎の奔流が彼女の手中に収束していく。
「アンタの炎とアタシの炎、どっちが強いか勝負しようじゃないか!」
ベガの放った大火が、開かれた顎から魔物の体内へと流れ込む。それは、魔物が喰らえる炎の量を遥かに超える暴走した火だった。巨体が苦悶の声を上げ、内側から灼熱で焼かれる。
大地を揺るがす断末魔とともに、魔物は爆ぜるように崩れ落ちた。岩のような殻が散らばり、炎を飲み込むはずの巨体は、逆に炎に呑まれてついえたのだった。
その瞬間、火山全体を覆っていた黒い瘴気のようなものが晴れ、再び火口からは、力強い赤熱の光が大地に注ぎ始めた。
熱風が吹き抜ける中、ベガは肩で息をしながらも、不敵に笑みを浮かべる。
「これで討伐完了、だ」
アルタイルとスピカは互いに息をつき、戦士としてのベガの実力に圧倒されるしかなかった。




