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星織が消えた世界で、俺たちはまだ戦う  作者: 秋乃 よなが
第四章 火の国の試練

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第十三話 炎を喰らう者


 翌朝、アルタイルとスピカはすぐに火山の入口へと出発した。火山に近づけば近づくほど、肌を焼く熱気は強まり、喉の奥まで熱が入り込んでくる。


 肺が焼けそうな苦しみを覚えながら、アルタイルたちは入口に群がる火の人影――スピリットたちが燃え盛る音を立てながら飛び跳ねているのを見つけた。


「ベガが言っていたのはあいつらだな……。スピカ、先手必勝で俺が前に出る」


 アルタイルは光の剣を抜き、火の群れへと斬り込んだ。刃は確かにスピリットの身体を裂いたにも関わらず、斬り口はすぐに赤々と燃え広がり、まるで無傷のように再生していく。


「なっ!? 剣が利かない!?」


「彼らは火そのもの! 単なる物理攻撃では、きっと意味がないんです!」


 後方からスピカが叫ぶ。彼女はアルタイルの一撃をもとに、魔物の生態をしっかりと把握していた。


「アルタイルさん! 私の水魔法で火を押さえてみます! その直後、光魔法を纏った剣で攻撃してみてください!」


「分かった、合わせよう!」


 スピカが水の長槍を構える。そして呪文を唱えながら両腕を広げると、冷たい魔力が周囲を包み込み、立ち昇る蒸気とともに白い霧が一帯に広がった。霧は燃え盛るスピリットたちの火を押さえ込み、その動きを鈍らせていく。


 アルタイルは霧の中で剣を構え、光魔法を剣に宿す。切っ先は光を反射し、眩しく煌めいた。


「はあっ!」


 アルタイルの剣が上から下へと真っ二つにスピリットの身体を断ち切った。同時に火が弾け飛び、スピリットが断末魔のように揺らめいて消滅する。弾け飛んだ火は、すぐそばの岩肌を焼き焦がした。


「まだ来ます!」


 別の群れが迫る。しかし既に連携のコツを掴んだ二人の前では、もはや敵ではなかった。スピカの水が火を鈍らせ、アルタイルの光が身体を断ち切る。二人の戦いは舞うように繰り返され、やがて群れ全体が次々と霧散していった。


 残されたのは、空気と岩肌の熱気だけ。


「……ふぅ。いい連携だったな、スピカ」


「はい。以前よりもずっとうまく戦えるようになったと思います。……でも、ここは水魔法には厳しい環境ですね。水を放っても、大半が蒸発してしまいます」


「そうか……。なら、さっきみたいに連携して戦おう。俺たちならやれるさ」


 互いに短く笑みを交わした。そのとき、岩陰から一人の人影が顔を出した。


「へぇ、やるじゃないか、アンタら」


 密かにあとを追ってきていたらしいベガは、二人の戦いっぷりに素直に感心していた。


「これなら討伐隊に連れていっても問題ないね。ひょろい奴なんて言って悪かったよ。アンタらは立派な戦士だ」


 ベガが詫びるようにアルタイルに手を差し出す。アルタイルは素直にその賛辞を受け取り、ベガと握手をした。


「アンタの観察眼もすごかったよ」


 ベガは、今度はスピカに向き直り、ニッと笑った。


「ありがとうございます」


 スピカも、しっかりとベガと握手を交わす。


「そしたらすぐに街へ戻ろう。今頃、討伐隊の準備が終わっているはずだ。アタシらが戻り次第、改めて出発だ」


「あの、討伐隊をそんな風に指示できるなんて……ベガさんは隊長なんですか?」


「ああ? そういや言ってなかったか。アタシは火の国でも一二を争う戦士でね。今回の魔物討伐の指揮を命じられたのさ」


「そんなお強い方だったんですね……!」


 同性同士だからだろうか。ベガを見るスピカの目に、憧れの色が宿ったように見えた。


 そうしてアルタイルたちは討伐隊と合流し、再び火山を登る。途中、別の魔物に遭遇したものの討伐隊の実力は素晴らしく、アルタイルたちに出番はなかった。


 火山の斜面は黒ずんだ岩肌が続き、ところどころから赤熱した亀裂が覗いていた。地面の隙間からは硫黄を含む白煙が立ち昇り、鼻を突く刺激臭が来訪者を苦しめる。


 ベガが率いる討伐隊は迷いなく先を行き、赤銅色の髪を熱風に翻した。


「アルタイル、スピカ、遅れるなよ。火山の頂に至る前にこの熱気で体力を削られれば、魔物と戦うどころじゃないぞ」


 その声は挑発めいていたが、歩調はあえて二人に合わせられている。


 上へ上へと登るたび、熱風は勢いを増し、肌に突き刺さるようだった。灼熱の参道を一歩一歩踏みしめて進み、ついに頂が近くなったというところで、大地そのものが呻くような低い振動が走った。


「……っ、なんだ?」


 アルタイルは、思わず足を止める。


 次の瞬間、地鳴りとともに岩盤が爆ぜ、灼熱の溶岩が噴き上がった。そこから姿を現したのは、岩塊を無理やり繋ぎ合わせたような巨大な身体だった。


 全身を覆う外殻は黒曜石のように硬質で、割れ目の奥には灼熱の炎が脈打つように明滅していた。眼も口も定かではなく、ただ裂け目のような(あぎと)からは、赤熱した溶岩の唾液が滴り落ち、地面を焼き焦がす。


「さあ、炎を喰らう魔物のお出ましだ」


 ベガが不敵に笑う。


 魔物が咆哮すると、周囲の炎が一斉に揺らめき、そのまま吸い込まれるように巨体の亀裂へと吸収されていった。燃え盛っていた炎の岩でさえも、まるで餌を求めるように飲み込んでしまう。


 外殻は岩のように硬く、しかも火を吸収すればするほど力を増す。まさしく火山そのものが形を取った魔物であり、炎を喰らいながら強化する『災厄』そのものだった。


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