第十一話 再会を誓う夜
風竜討伐の夜、風の都の砦は防衛隊の宴で盛り上がっていた。隊員たちが酒杯をぶつける音や合唱の歌声で満ちている。
「本当によくやってくれた。改めて礼を言う、アルタイル、スピカ」
砦にある食堂の端でハダルは二人に頭を下げた。
「やめてくださいよ、ハダルさん。俺たちはできることをしただけです」
「魔物の脅威に立ち向かうことが当たり前なものか。君は立派だよ、アルタイル」
アルタイルの謙遜にハダルは笑う。アルタイルはくすぐったい気持ちになった。
「……俺、魔物の襲撃で故郷を失ったんです。だから風の国のことも、水の国のことも、他人事だと思えなくて……」
「アルタイルさん……」
アルタイルの過去に、スピカが気づかわしげに名前を呼ぶ。それに『大丈夫だ』というように、アルタイルは笑ってみせた。
「俺、できる限りの魔物を倒していきたいんです。魔物に困っている人がいたら助けたい。そして、もう一度世界を平和にしたいんです」
「……君はもう立派な戦士なのだな。同じ欠片を持つものとして誇らしい」
「だからハダルさん。俺たちと一緒に欠片を集めて星織の塔へ行ってくれませんか? ハダルさんがいてくれたら、すごく心強いんです」
「……君たちと一緒に戦って、私も一緒に行けたらと思うよ。だが――」
ハダルは真っ直ぐにアルタイルを見た。
「やはり君たちと一緒には行けない。私にはこの国を守る責任がある」
「そんな……」
同行を断られたことに、アルタイルは胸の奥に冷たい鉛を流し込まれたような気持ちになった。周囲では、隊員たちの笑い声が響く。
「ハダルさんがいなければ、いつまで経っても世界を平和にできないんですよ!?」
「違う、そうじゃないんだ、アルタイル。私の話を聞いてくれ」
冷静に言葉を続けるハダル。その眼差しは、決してアルタイルから逃げようとしていなかった。
「英雄と欠片を集めるには長い時間がかかるだろう。その間、私が不在ではこの国の防衛は大きく揺らいでしまう。だから私はここに残りたいのだ」
「……俺たちにだって、ハダルさんの戦力が必要です」
「そうかもしれない。だが私は君たちに希望を感じたんだ。たとえ私がいなくても、旅を果たすだろうという確信だ」
ハダルがアルタイルに手を伸ばす。そうしてその肩をしっかりと掴んだ。
「君たちが欠片を集めて星織の塔に向かう頃、私も必ずそこに行くと約束しよう。欠片が集まったタイミングは、風の欠片が分かるはずだ。星織の塔で再会しよう」
「………」
家族を失ったアルタイルにとって、短い時間ではあったものの、ハダルの存在は頼もしい兄のようだった。アルタイルはハダルと別れることを、なかなか受け入れられなかった。
「――アルタイルさん、ハダルさんと再会の約束をしませんか?」
そんなアルタイルの背中を押したのは、スピカだった。
「一緒に戦って、ハダルさんは心から信頼できる人だと私は思いました。そんな人が再会を約束したんです。絶対に裏切るはずがない。……アルタイルさんは、そう思いませんか?」
「それは……」
「もしハダルさんに何かあれば、欠片を通じて私たちにも分かるはずです。反対に、私たちに何かあればハダルさんにも分かる。それって、離れていても絆で繋がっているみたいで素敵だと思いませんか?」
スピカは優しく微笑んで、ハダルとは反対側のアルタイルの肩に手を添えた。
「私たちは私たちができることを、ハダルさんはハダルさんが成すべきことをして、星織の塔で再会する。今より一回りも二回りも強くなって、ハダルさんを驚かせましょうよ、アルタイルさん」
「スピカ……」
スピカの言葉を噛みしめるように黙り込んだあと、アルタイルは静かに頷いた。そしてハダルの目をしっかりと見返して、再会の約束をした。
「――ハダルさん。今はここでお別れになりますが、必ず、星織の塔で再会しましょう」
「ああ、もちろんだ。ありがとう、アルタイル、スピカ」
三人は互いのコップを合わせ、約束の乾杯を交わす。アルタイルの目に、もう不安の影は見られなかった。
「さて、次の目的地は火の国ですね」
「火の国か……。あそこへは気球で南へ向かうのが一番早い。気球の手配は私がしておこう。明日の朝、港で待っているといい」
「ありがとうございます、ハダルさん!」
「ただし、火の民は力を重んずるという。英雄を仲間にするのは、一筋縄ではいかないだろう」
こうして夜は更けていく。束の間の平穏を楽しみながら、アルタイルたちは次の旅に備えて杯を重ねるのだった。その笑顔の奥に、それぞれが未来への決意を秘めながら。




