第十話 嵐を討つ者たち
飛び込むように襲い掛かる小型竜を迎え撃つため、防衛隊が前に出る。彼らが小型竜を押さえている間に、アルタイルたちは風竜に詰め寄った。
空に轟いたのは、風竜の咆哮だった。その翼が打ち振られるたび、空の空気が逆巻き、嵐めいた乱流となって襲い掛かる。
「正面から来ます! 注意してください」
スピカが水の長槍を握りしめ、水の結界を張りながら叫んだ。彼女の結界がなければ、アルタイルたちは風圧に吹き飛ばされていただろう。
アルタイルは光の剣を構え、風竜の影に立ち向かう。脚に力を込め、暴風に抗うように前へと飛び込んだ。
その瞬間、風竜の翼が大きくしなり、轟音とともに風の刃が放たれる。
「援護する!」
後方からの声はハダルだ。風の欠片を煌めかせ、風の弦が張られた弓を生み出す。彼の放った風の矢は風竜の視界を一瞬だけ逸らし、結果、アルタイルは直撃を免れた。
「ハダルさん、助かりました!」
風の刃をすり抜け、アルタイルは剣に魔力を宿す。その切っ先は風竜の身体に迫るも、硬く厚い鱗に阻まれた。火花を散らすように剣が弾かれ、アルタイルは体勢を崩す。
その間に竜は唸りを上げ、口内に渦巻く風を圧縮していく。その膨大な力が放たれれば、アルタイルたちに逃げる余地などない。
「スピカ!」
「はい!」
スピカは呪文を早め、水の壁を展開した。彼女の水魔法が風竜の咆哮の一部を逸らしたものの、その力はなお凄まじく、彼女の水魔法ごと押し潰さんとしていた。
「く……っ」
「このやろう……!」
アルタイルは湖底神殿で水流を裂いたときの感覚を思い出し、そのときと同じように剣先から光の刃を放った。それが風竜の咆哮ごと、押し寄せる風を横に裂く。そして隙を伺っていたハダルは、その一瞬の隙間を狙って、風の矢を放った。
耳をつんざくような轟きを上げて、風竜はその身体を捻る。ハダルの矢が片眼を貫き、その痛みに悶えているのだった。
怒りに震える咆哮が、周囲の風をさらに荒れ狂わせる。翼を激しく打ちつけ、風竜の身体が空中で翻るたびに強烈な突風が巻き起こった。三人は風に押し戻され、思わずバランスを崩してしまう。
「しまった……っ」
アルタイルは剣を握り直し、必死に空中で踏ん張る。しかし風竜の尾が旋回し、アルタイルの身体を吹き飛ばした。
「ぐあぁ!」
「アルタイル!」
ハダルはアルタイルをサポートしようと弓を構えるが、風竜が生み出す突風で矢の軌道が逸らされる。風の欠片の力を集中させても、激怒した竜の力には届かない。
風竜の突風は戦場全体のバランスをも崩し、防衛隊に生まれた隙をついて、小型竜もアルタイルたちを狙って襲い掛かる。
各々で小型竜を倒すも、親玉である風竜を倒さなければ再び狙われてしまう。
「このままじゃダメだ……!」
アルタイルの胸に焦燥が走る。前衛として風竜の動きを止めるため、どれだけ身体を張っても、竜の怒りはその想像以上の力で反撃してくる。
風竜は再び空を旋回し、尾を振り下ろす。アルタイルは咄嗟に剣で受け止めたものの、衝撃で腕が震えた。
スピカの水魔法も、展開する前に次の突風にさらわれる。ハダルの放った矢も、竜の怒りでかき乱された風に軌道をねじ曲げられ、鱗の外側をかすって消えた。
空中での戦いは、三人の連携に僅かな狂いさえ許さない。風竜の怒りの前に、彼らはまさに苦戦を強いられていた。
「これじゃ埒が明かない……!」
アルタイルは叫ぶ。身体がふわりと浮き、突風に煽られながらも、光魔法を剣に集中させた。
「スピカ! 俺の斬撃に水魔法を! ハダルさん、あとは頼みます!」
「分かりました!」
「任せろ!」
アルタイルが剣を振り上げると、その切っ先から光魔法が筋となって天高く伸びる。そこにスピカの水魔法が渦巻き、風竜の突風さえも乱す、魔力の渦が生まれた。
「いっけぇぇぇ!!!」
アルタイルが剣を振り下ろせば、光と水が一体となった斬撃が突風ごと風竜を切り裂く。
正面から攻撃を喰らった風竜は雄叫びを上げて、大きく仰け反った。
「今だ!」
ハダルは力いっぱい引いた矢を放つ。空を裂く矢じりに小さな風の渦が起こり、それは竜の突風をも巻き込んで暴風となる。そしてその矢は、大きく仰け反った風竜の喉元――逆鱗を貫いた。
身体が震え上がるような断末魔の叫びを上げ、ゆっくりと崩れ落ちていく風竜。虹色のような光を放ちながら、下へ下へとその身体は消えていった。
静寂が戻る。空にはまだ巻き上がる風が残っているが、竜の怒りは完全に鎮まった。アルタイルは息を切らしながらも、剣を握る手に力を感じる。スピカは微笑み、ハダルも深く息を吐いた。
「やった……!」
「無事、倒せましたね!」
「小型竜の方も統率を失って逃げていくぞ」
風は再び穏やかに流れ始め、天空樹の周囲にいつもの風が吹き始める。ハダルは翼を休ませながら、アルタイルとスピカを真っ直ぐに見つめた。
「……君たちを巻き込むわけにはいかないと言ったが、訂正しよう。君たちの連携と力は、もはや国境を越える英雄のものだ。よくぞ、私の国を守ってくれた」
こうして三人の戦いは終わったのだった。




