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エピローグ

 その日は大雪だった。

 この季節に、この地域に雪が降ること自体は、そこまで珍しいことでもない。

 しかしここまでの大雪は、ここ、パナメシリア大陸北東部、ゴリン丘陵に積もるにしては少々多すぎる。異常気象の類だ。


 そんな中、一面の銀世界に一つの人陰が見えた。

 その人物を一言で表すなら「白」。長い白髪をはためかせ、身にまとう衣服も白だった。

 しかし、腰に下げた刀だけは、この銀世界にたった一つだけ、自らの存在を証明するかのような漆黒を主張していた。

 彼女はしばらく進み、やがて適当な洞窟を見つけると、そこに入り込んでいった。


ーーーーー


 ああ、運が悪かった。まさかこんな大雪に遭遇するとはね。

 二、三歩前につけた足跡がもう分からなくなってるって、どれだけ強いんだよ。

 ゴリン、っていうかこの大陸ってこんなに雪強くなかったよね。

 くそ。うるさいよ。分かってる。

 ああ、それにしても寒い。寒すぎる。そうだね、どこかで雪がやむのを待とうか。

 そうでもしないと本格的に凍死でもしてしまいそうだ。


 あれ、あそこ。

 ・・・ビンゴ。洞窟になってる、助かった。

 ん、なかなか広いじゃないか。こいつはラッキー。

 ふう、やっと服が脱げる。いくら何でもこれは重すぎるよ。

 うわ、絞ったら絞っただけ水が出てくる。これ、干して置いたって乾くのにどれだけかかるの・・・。

 まあいいや、それよりもまずは暖まらないと。

 ん? まあそりゃ、薪になるような枝なんてないよ。あったとしても、この雪で使い物になんてならないだろうしね。

 いやいや、私、魔力の扱いには多少自信があるんだ。君も知ってるだろ?

 火を起こすのは・・・ここら辺でいいかな。うん。じゃあーーー


 ―――炎魔術、発火。炎魔法、燃焼。


 ・・・と、よし。

 これで魔力の供給をサボらなければしばらくは消えないはずだよ。

 にしても。

 はぁ、この丘陵に神格者がいるって聞いてきたじゃん?

 でも、いくら神格者とは言え、この大雪なんだったら街に下りてるでしょ。

 無駄足だったかなぁ。

 え? この広い丘陵に、洞窟ってそんなに少ないの?

 じゃあ、もしかしたらこの洞窟に神格者がいたりして・・・。

 はは、まさか本当にいるだなんて思ってないよ。

 でもさ、念のためって言うじゃん?

 よし、じゃあすまないけど、付き合ってもらうよ。

 ・・・にしても、広いね、この洞窟は。

 焚火の明かりが届かないな。

 炎魔術、発火。炎魔法、燃焼。

 よし、進もうか。



 そして私は、あるものを目にした。

 それはなんとも信じ難く、私は動揺を隠せなかった。

 驚きのあまり、魔力の供給が途切れ、手のひらの上に浮かばせていた火の玉が消えた。

 魔力の供給を断ってしまうなんて、私もまだまだだったね。

 だが私にとって、その光景はそれほどまでに衝撃的なものだった。

 そして、明かり火が消えたのに、部屋は真っ暗にはならず、仄明るかった。

 なぜなら。

 私が見たのは私の背丈を超えるか超えないかといった石だったからだ。

 そしてそれはーーー


 ―――白く、淡く光っていた。


ーーーーー

 

 こつ、こつ、こつ。

 なにか、音がする。

 これは・・・足音か。

 はは、音なんて久しぶりに聞いたな、まったく。

 その音の主が僕に近づいてくる。

 それもおそらくは人が、だ。

 ああ、ああ。うれしいなぁ。

 彼は、彼女はどんな人だろう。

 どんな見た目なのかな。

 どんな性格なのかな。

 どんな声なのかな。

 ああ、どんなもてなしをしてあげよう。

 いや、僕ができる事なんてたかが知れているか。

 でも、ああ。

 まだかな、早く来てくれないかな。


 そして彼女は現われた。

 白い長髪を後ろでまとめ、白いシャツ一枚を着て、そして腰には黒い刀。

 いかにも戦闘人、といった印象だった。

 彼女の僕を見る目には驚愕が強く出ていた。

 はは、まあそれも当たり前だ。

 では、ここは僕が大人の余裕で話しかけてあげよう。

 まあもっとも今の僕は石だ。

 本来ならだれかに話しかける事なんて出来るわけがない。

 だがしかし。

 僕がこの時をどれだけ待ちわびたと思ってる?

 僕は石であり、そして神格者だ。

 その力をどう使えばいいのか、今までずーっと考えていた。

 そしてその成果を、今こそ発揮する時だ!


『あ、あー、聞こえてる?』


 よし、手ごたえばっちりだ!

 ほらほら、彼女を大きく目を見開いて・・・。

 いや、驚かせちゃ駄目じゃないか!

 ああ、駄目だ。

 テンションが上がりきってしまっている。

 ここは落ち着いて・・・そう、大人の余裕だ。

 深呼吸深呼吸、すー、はー。


『ごめんね、驚かせるつもりはなかったんだ』

「あ、ああ。こちらこそ驚いてしまって、すみません」


 あ、ああ。会話、会話だ!

 いったいどれだけ振りだろう。

 はは、ああ、こんなことでこれほどまでに喜んでしまうなんて、ああ。


「ど、どうしましたか」

『いや、人と会話するだなんて久しくしていなかったからね。

 少々、感動してしまったよ』

「は、はあ」


 あまりわかってもらえていないみたいだね。

 でもそれでいい。

 それでこそ人間っていうものだ。


『それで?

 君は一体何者で、なにをしにここに来たのかな』


 あくまで僕が客人を歓迎するといっても、それは聞いておかねばならない。

 極論、彼女の目的が僕を壊すことだったら、歓迎だなんて言っている場合じゃない。

 僕だって、まだ死にたくはないからね。


「申し遅れました。私はカノン王国にて異世界から召喚された者です。

 まあ、もうカノンに私の席はないでしょうが」

『待って、異世界?

 たしかに、そういったものが存在する、という説は僕の生きていた時代にもあった。

 だけど、そんなものは酔っ払いの戯れ言だと思われていた』

「そうなんですか。

 ですが、異界といった類のものはあります。

 私の存在こそがその証明です」


 なんと。

 僕が石になってから何年たったかはわからないけど。

 今の技術はそこまで進歩しているのか・・・。


『でもなんで、わざわざ召喚なんてされたんだい?』

「いや、そこまでは私にも・・・

 ですが、異界人は強い力を秘めていることが多いとか何とか。

 まあ、私たちはただの雑魚でしたけど」

『待って』


 それはおかしい。

 だって君は。


『君は神格者だろう?

 君が雑魚だなんておかしい』


 そう。

 彼女は神格者なんだ。

 神。

 人間が家畜を飼うように。

 人間が魔物を狩るように。

 神というものは頂点から末端に至るまで、人間を支配する力を持った、頂上の存在だ。

 神格者はというのは、そんな神に、勝らずとも劣らず、同等の力を得た者のことだ。

 そんな彼女が雑魚?

 そんなことがあるものか。


「よく気づきましたね。

 そう、私は神格者。ですが私は本を使ったんです。元は本当にただの雑魚でしたよ。

 まあ、本に認められるのも実力だ、と言われればそれまでですが、私は力を制御しきれていません」

『待ってくれ。

 その、本っていうのは、なんだい?』

「本というのは、一般の書物のことではなく、神至本と呼ばれるもののことです。

 神至本というのは、神と対話するための媒介のことですよ」


 頭痛がした。

 異世界といい本といい、世界は僕が知っているものとは別物だった。


『・・・すぐには信じられないけど、きっと本当のことなんだろうね』

「? はい」

『僕の知っている神格者っていうのは、本なんか使わず。

 自らの力で成るものだった』

「そう、なんですか」

『ああ、いや。君たちを否定したいわけじゃない。

 まあ時代が変わったんだろうね。

 それよりもまずは質問に答えてほしいな』

「え?」

『君は何のためにここに来たんだい?』

「あ、ああ。すみません。えっと。

 さっきも言った通り、私は神の力を得ました。ですが、その力の制御には至っていません。

 なので、各地の神格者を探して、話を聞いたり稽古をつけてもらったりしているんです。

 私に力を貸してくれている神から勧められて」

『ああ、そういうことかい』


 ああ、よかった。

 僕でも協力できそうな目的だ。

 ん? いや、ちょっと待て。


『君、僕がここにいるって言うことは誰から聞いたんだい?』

「ああ、街の人に聞いたんです。

 「丘陵のどこかの洞窟に、神に至った者がいる。彼は世に影響を与えることを嫌って自ら街から離れたんだ。」って。

 まあ、一種の言い伝えみたいなものだったらしいですけど」

『・・・そうか』


 何と言うことだ。

 こんなに変わってしまった世界に、朧げとはいえ、僕と言う存在がなくなってしまったわけではないのか。

 自らが英雄と囃し立てられるのを嫌いこの場所を選んだものの、それはなんというか、感慨深いな。

 ああいや、今は感傷に浸っている時じゃない。


『いや、ごめん。話を戻そうか』


 僕が彼女に何をしてあげられるか、という話だったか。


『でも僕は見ての通り、君に手ほどきをしてあげられる状態じゃない』

「まあ、はい」

『でも僕は君に話をしてあげられる』

「話?」

『うん。

 察しているだろうけど、僕は相当前の時代の人間だ。

 僕にとっての昔話は、君たちにとっての歴史書で見るとか伝承だのの類だ』

「・・・」

『僕が神格者として君に授けられるのは、人智を超えた力でも、過ぎた力を自分のものにする方法でもない。

 僕が生きた時代の、英雄たちの歴史さ。

 ・・・それでいいかい?』

「はい!」

『では早速』

「くちゅん!!」

『・・・』

「・・・」

『そういえば君はやけに薄着だね』

「外は大雪で、濡れた服は入口の方に干してあって・・・」

『ああ、それじゃ冷えるだろう』

「炎の魔法は使えるので・・・」

『じゃあ早く使いなよ・・・』

「すみません、どうも・・・」


 僕の久しぶりの客人は、ドジっ子なのかもしれない。

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