SF作家のアキバ事件簿237 ミユリのブログ 秋葉原ヲタク憲章
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第237話「ミユリのブログ ヲタク憲章」。さて、今回もアキバが未だ秋葉原だった頃の物語。超能力に"覚醒"したメイド達の物語です。
腐女子が次々とスーパーヒロインに"覚醒"する謎を追う主人公らは、鍵を握る"時空トラベラー"の存在に気づき、その痕跡を秋葉原で追いますが…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 ヒロインに痣
「テリィ様にキスされた時、上手く逝えないのだけれど…ねぇスピア!聞いてる?」
「はいはい。聞いてるわょミユリ姉様」
「だ・か・ら!テリィ様にキスされて、私は宇宙を感じたような気がしたの」
もちろんスピアは上の空だ。ポシェットから小さな瓶を取り出す。香水が入ってる的なお洒落な小瓶。
「はい、ストップ!姉様、もうそこで終わりにして。ほら、口を開けて」
「なんで?」
「良いから。口を開けて」
大人しくアーンするミユリさん。チョロリと出した舌の上にスポイドで何か液体を数滴垂らすスピア。
「ちょっと何なの、コレ?ピリピリするわ」
「"悩みキラー"よ」
「何それ?」
小瓶を示す。
「頭がパンパンな時にハーブオイルの刺激が妄想を吹き飛ばして正気に戻してくれる。ママが通販で売りまくってるけど、獣医さんにバカ売れしてルンだって」
「私は犬?」
「はい!1つあげるから、テリィたんのコトで妄想グルグルになったら、舌の上に4滴垂らして」
2人とも僕の元カノなんだけど、元カノ同士で相互扶助の精神を発揮している。元カレとしても安心。
「わかったわ」
「あら…今がその時カモ」
「やぁスピア!」
僕が僕の御屋敷トラベラーズビクスに御帰宅したのはjustその時だ。気安く挨拶したがスピアは無視。
「テリィ様。何か?」
一方のミユリさんは、絶対に何かを期待してる表情を浮かべ、満面の笑顔を僕に向ける。警報発令だw
「や、やぁミユリさん。その小瓶は香水?」
「あ。はい、試供品をもらって…何でもないわ」
「綺麗な瓶だね」
"悩みキラー"をしまい、早々に仕掛けて来るw
「でね、テリィ様。この間のコトですが、ほらステージの上で私達がキスした時のコトですけど…」
ココで肩をチョンチョンと叩かれ、ミユリさんが振り向くとメイド仲間のエアリだ。彼女もメイド服。
「ミユリ姉様。マリレの様子が変なの」
「変?何かあったの?」
「今、私のコトを避けて通ったわ」
何だそりゃ?口を挟む。
「気がつかなかったんだろ?」
「いいえ。絶対気づいてたわ。逃げるようにトイレに駆け込んで行ったの。見て来て」
「…エアリ。テリィ様が女子トイレに入れるハズがナイでしょ?私が逝くわ」
慌ただしくトイレに消えるミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
トイレの洗面でマリレは顔を洗ってる。その横にチョコンと腰掛け、足をブラブラさせるミユリさん。
「マリレ。どうしたの?」
「え。別に」
「エアリが様子が変だって」
マリレは、洗面から顔を上げようとしない。
「ちょっと1人にして」
顔を拭きながら個室に駆け込む。
「待ってるわ」
「今、話したくないの」
「何かあったのね?」
案じるミユリさんに塩対応。
「ほっといて。1人になりたい」
「そう…わかったわ。じゃ後でね」
「はい」
ミユリさんがドアを開け閉めして、そのママ腰掛けていると、個室から出て来たマリレと鉢合わせだw
その目の周りには青アザw
「その顔…誰かにやられたの?」
第2章 女子トイレの密約
佐久間河岸。遠く水上空港に降りる飛行艇が神田リバーに美しい軌跡を残して、鮮やかに着水スル。
「あのメイド長なの?」
「…YES。酔ってて」
「酔ってて?」
ミユリさんは溜め息。
「前にもあったの?」
「こんなにひどくヤラれたのは初めて。でも、誰にも同情なんかされたくない」
「その痣を見たら…ムリでしょ」
急に懇願モードのマリレ。
「姉様。この痣、姉様なら消せる?私の超能力じゃ無理みたいなの」
「ソンなコトより…またやられたら?」
「もうしないわ」
マリレは、陥落寸前だった1945年のベルリンからタイムマシンで脱出して来た"最後の大隊"だ。仲間とミリヲタ向け御屋敷をやって生計を立てているが…
「ねぇ。あのメイド長を庇うの?彼女はSS、マリレは国防軍。しかも生粋のプロイセン軍人の家系でしょ?」
「姉様。良いから早くやって」
「はいはい」
ミユリさんが手をかざすと痣はきれいに消える。痣がキレイに消え去った頬を手で撫でるマリレ。
「このコトは、誰にも話さないで」
「ムリ。そもそも問題の解決にならないし」
「ダメょ。私と姉様だけの秘密だから。誰にも知られたくナイの…姉様、テリィたんにも黙ってて」
溜め息をつくミユリさんを見てマリレは念推し。
「姉様のためなの。テリィたんがどんなに誘惑してもキッパリNOと言う訓練ょ。コレは試練」
「そ、そーなの?確かにそうしなきゃとは思うんだけど…どうしようもナイのょ」
「訓練ょ訓練。ほら、空襲警報!」
女子トイレから出た2人は、早速僕と御対面だ。パッと顔を輝かせるミユリさん。溜め息つくマリレ。
「ねぇ!どうやらテリィ様と私達って、心が通じ合ってるみたいよ!」
「…お面ライダーV2.5が改造ゴキブリ人間をグライダーキックでやっつける回がアルけど、姉様もテリィたんにグライダーキックをキメてょ」
「イヤょ。ソレにテリィ様は、ご自分より私が敗北するシーンがお好きなのだし」
ドヤ顔のミユリさん。頭を抱えるマリレ。ソコへスピア母娘が登場。両手に積み重ねた箱を抱えてる。
「お待たせ!今宵のパイを持って来たわょ!」
「何枚焼いたの?こんなに売れるかしら」
「チョコレートにバナナ、ルバーブにココナッツ。イチゴパイも焼いたわ」
スピアのママは、御屋敷でパイを販売スルつもりのようだ。因みに僕はヲーナーだが何も聞いてないw
「素敵!ココナッツパイね?私の大好物だわ」
「ラギィ警部!1口召し上がれ」
「あ。1口だけ」
トイレから出て来た万世橋のラギィ警部の目の前でパイを奥へと運び去るスピア。慌ててママが弁解。
「ごめんなさい、ラギィ。あいにく御屋敷で売る分しか焼いてナイのょ」
「残念。ぜひジックリ食べてみたいわ。ねぇ私のために焼いてくれない?」
「構わないけど…もう2回もデートしたのに、いつも貴女が呼び出されてデザートまでたどり着かなかったし」
突然現れた時空断層"リアルの裂け目"の影響で、今やアキバでは"百合"が花盛りになっているw
「悪いと思ってる。心から反省してるわ」
「私は、食べてもらえないパイは焼かない主義なの。ソンなヒマはナイし」
「えっと今宵貴女のおウチに行っちゃダメかしら。私のためにパイを焼いてくれたら絶対行くけど」
満更でもないママは、念のため釘を刺す。
「OK。でも、断っておくけど、今度すっぽかしたらもう知らないわよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"マチガイダ・サンドウィッチズ"は、チリドッグが異様に美味いホットドッグステーションだ。
「ミユリさん。ソレじゃマリレはベルリン脱出後から、ズッとパワハラされてたのか?」
「はい、テリィ様。パワハラっていうかセクハラみたいな…あの、テリィ様。誰にも逝わないってマリレと約束しましたので」
「ミユリさん。コレはそーゆー問題じゃナイょ」
一蹴スルw
「そんなコト聞いて放っとくワケにいかないな。何とかしなくちゃ」
「ですから、とりあえず私が…」
「あら。頼れる敗北系ヒロインさんね?また声かけるから、次はセクシーな新コスでリングに上がってね」
ココにもパイを届けたスピア母娘が出て逝く。入れ違いに入っ来たマリレが椅子を前後逆にして座る。
「HI」
「マリレ。あのな…」
「…姉様。テリィたんにしゃべった?」
光速でお出掛けするマリレ。追いかける僕。
「待てょマリレ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マリレを先頭にパーツ通りをズンズン歩く。
「このママじゃ何の解決にもナラナイ。何か対策を考えないと」
「対策ですか…」
「ふん。万世橋に通報でもスル?」
僕は首を振る。
「所轄のラギィ警部にそんなコト、出来るワケないだろ。ムダさ」
「でも、今回が初めてじゃナイのでしょ?あ、悪いけどテリィ様には全部話したから」
「姉様!マジ女の友情ってゴムより薄いわ」
天を仰ぐマリレ。
「とにかく!コレは私の問題。自分で何とかしなきゃ。今日が私の独立記念日だから」
「また貴女が殴られるようなコトがあれば、その時はパワーを使って対抗して」
「姉様。私が自分のパワーをコントロール出来ないのは知ってるでしょ?所詮は"ロケッティナ装備"の次元降下兵なの。下手に興奮してパワーを使えば、死人が出かねないわ」
冷静な分析だ。さすがプロの軍人。
「とにかく、貴女は貴女の御屋敷に帰ってはダメ。危険だわ。せめてハンカ兵曹が落ち着くまでウチに来て。ソレなら良いでしょ?」
渋々うなずくマリレ。
「OK,alright。今宵参ります」
クルリと背を向けて歩き去るマリレ。ソレを見届けてから、ミユリさんは僕に弁解するように告げる。
「テリィ様。私はマリレにアキバのヲタ友ってモノを知って欲しい。ソレだけです」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷。バックヤードで"顎飯"と呼ばれるマカナイ飯が並べられる。サーブされるソバから大皿をキープして次々に取り分けるマリレ。自分の分だけw
「マリレ。取り分けるのは全員が席に着いてからよ。も少し待たなきゃ」
「なんで?」
「それがマナーでしょ」
エアリが嗜めてると、賄い当番のスピアが湯気が立ち昇るダッジヲーブンを持って登場スル。
「お待ち!私の自慢のインゲン豆料理よ」
「美味しそうね!」
「マリレも食べてね」
ヲーブンをオープン!キョロキョロするマリレ。
「あら?豆なんか何処にもないけど」
「クリーム状にした。煮込んであるの」
「形がないっていうのはちょっと…」
マリレの遠慮のナイ意見。焦るスピア。
「おいしいのよ。食べて」
「いいえ。遠慮しておくわ」
「マリレのトコロのメイド長は、いつまで出張?」
同僚メイドからの質問にスピアが即答。スピアは…マリレの元カノ?だ。あわよくば再起を狙ってる。
「ほんの数日なのょ」
「で、メイド長はどちらへ?」
「メイド長と言っても私の難民雇用の手当てが目的の転職屋だから」
にべもない。慌ててスピアが取り繕う。
「マリレの御屋敷は難民雇用に前向きなのょね。アキバ特別区のモデル事業所だから」
「うーん私達、マリレと話がしたいんだけど。エアリのお友達なのにマリレのコト、ほとんど何も知らないんだモノ」
「その方が良いわ。貴女達に私を知ってもらおうとも思わないし」
同僚メイド達は目がテンになる。
「え。あ、ほら。それって、つまりその」
「どういう意味か、マリレ自身から聞きたいわ」
「え。別に意味ナンかナイし」
気まずい雰囲気。困惑顔のスピア。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜メイド服にカーディガンを羽織り、スピア家の勝手口からキッチンに入るスピアとミユリさん。
「もうクタクタよー」
「良いモノ見っけ。こーゆー時はスイーツを食べるに限るわ」
「そうね。ラッキー」
スピアはキッチンに散乱スル食べかけのパイに次々と手をつけて逝く。釣られてミユリさんも1口2口。
「あら?コレは何?」
腰掛けたイスの下からポリスハットを引っ張り出すマリレ。その時、ドアの向こうから嬌声が…
慌ててドアの前まで後退するスピア。
「誰?またママが誰か連れ込んでルンだわ。全く懲りないンだから…ママ、ただいまー」
「マリレ!そのポリスハット隠して」
「あ。しまった」
突然ドアが開いて、髪が乱れてるママが現れる。慌ててハットを後ろ手に隠すスピア。一方、ママも後ろ手にドアを閉め明らかに動転して取り繕ってる。
「あら。お帰りなさい、スピア。今日はずいぶん早かったのね」
「ママ。もう直ぐ日付が変わるけど」
「イヤだ。もうそんな時間?季節の変わり目で時間の感覚がなくなってたわ。パイ食べる?」
散乱スル食べかけパイ皿の1つを薦める。
「結構ょ…私達は今から部屋でパイを食べるけど、ママはもう寝た方が良いわ。明日も大変だから」
「ええ。寝るわ」
「すぐ?」
ガクガク不自然にうなずくママ。
「YES」
「1人で?」
「当たり前でしょ、何言ってんの?…わっ!」
後ろのドアが開いて前にツンのめるママ。
「あの、えっとラギィ警部をお見送りしたらね」
「ロリィ、お客さん?あ…」
「何なのコレ。最悪」
現れたラギィを見て絶句するミユリさんとスピア。ラギィの口の周りにはベッタリと口紅の跡がつく…
「あ、あら。ミユリ姉様?テリィたんにフラれて貴女も百合に?」
「違います、ラギィ警部」
「…良い夜だわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
それぞれの事情から逃げ出すようにして飛び出し、パーツ通りの街灯の下に集まるメイド達…と僕。
「トラベラーズビクスのメイド達が喧嘩をふっかけて来たの。きっと私のコト、嫌いなんだわ」
「ソンなコトないわょマリレ」
「とにかく!もうゴメンなの。元SSのメイド長に虐待を受けて来たナンて誰にも言えナイわ」
自暴自棄なマリレ。空き缶を蹴飛ばす。
「じゃ今のママで良いの?お願い。一緒に解決策を考えましょ?」
「1人でヤル。放っておいて!」
「…マリレは、人の言うコトなんか聞く奴じゃない。生粋のプロイセン軍人の家系だからな」
歩き去るマリレ。溜め息をつく僕。
「ミユリさん。少しマリレに構い過ぎだよ、エアリも」
「だって!子供みたいだから…ミユリ姉様ならワカルでしょ?姉様もテリィたんには構い過ぎだから」
「そうかしら」
余計なお世話だ!
「とにかく!子供扱いしない方が良いンだ。だって、いつもソバにいて尻拭いしてあげるワケには逝かナイだろ?」
「テリィ様。だから、心配でたまらないの。だって私達は、このアキバで3人きりのスーパーヒロインだから」
「ソレはそうだけど」
母性溢れるメイド達は溜め息をつく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜中に御屋敷に戻るマリレ。カウチでニュースを見ている元SSのメイド長。冷蔵庫を開けるマリレ。
「どこをウロついてきたの!」
怒鳴る元SS。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
寝る前に部屋で髪をとかすスピア。ガウンを羽織りママがノックして入って来る。ベッドに腰掛ける。
「折り合って、貴女にお願いがあるの。ママのコト、批判するような目で見るのはヤメてくれる?」
「だって、ママが心配なんだもの」
「心配?何が心配なの?」
振り向くマリア。ママと向き合う。
「ママが、焦ってまた恋愛で失敗するんじゃないかって」
「それってラギィ警部のこと?」
「私は、ママがアイツに利用されるのが嫌なのよ」
ムキになるママ。
「私が利用されるってどーゆーコト?」
「ほら。百合の目的なんて結局は1つでしょ」
「あのねスピア。この秋葉原ではパンピー、中でも独身者は絶滅危惧種なの。その点ラギィは貴重な存在。比較的若くて仕事も固い。何より良い人だわ」
バッサリ切り捨てるスピア。
「警官でしょ?パンクスでバンギャだったママと釣り合うとでも思う?」
「全然違う2人だから引かれ合うのよ」
「だって、あの人は…何だか信用出来ないわ」
先手を打つママ。
「テリィたんの元カノってコトを気にしてるならヲ互い様だけど」
「え。違うわ、警部の性格を言ってるの」
「警部の性格?」
語るスピア。
「口数が少なくて、何を考えてるのかわからない。けども、母性本能をくすぐるタイプ。そーゆー奴は鬼門ょ。私達母娘にとって、とても厄介な存在なの」
「スピア…貴女、マリレと上手くイッてナイのね」
「マリレ?私、マリレのコトなんか言ってないわ」
スピアはプイと横を向く。
「そうよね」
「ママ。コレ、あくまで一般的な意見だから」
「はいはい。そうでしょうね」
娘は、さらに母親に"説教"。
「ママ。とにかく、女は安売りしちゃダメなの。1回欲望が満たされたら、パートナーは直ぐ離れていくわ。わかった?」
「だから?」
「用心に越したことはナイの」
子供のようにうなずくママ。フト心配顔になる。
「ねぇソレは経験から言ってるの?まさか…」
「ママの経験ょ。ママを見て思うの」
「あぁそうなの」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。とっくに閉店した御屋敷の業務用冷蔵庫の前で元SSのメイド長がマリレに喧嘩をふっかける。
「ねぇ!全員のメイド服を今日中に洗濯しとけって言ったわょね?」
「後でやるわ」
「今、やって」
カウチに埋もれたママ指図するメイド長。
「私に命令しないで!」
「あら。何?総統を見捨てた脱走兵を養ってやってるのょ?ちょっとは感謝して。ほらっ!」
「ぷへ!汗臭い!」
使用済みのメイド服をマリレの顔にブチまける。
「脱走兵?養ってやってる?私の難民手当が目当てで雇ってるだけでしょ?サヨナラ!」
「ちょっと待って!」
「エアリ?何でココにいるの?」
出て逝くマリレは窓から飛び込んで来たミユリさん&エアリと鉢合わせ。妖精のエアリは羽根で飛べるのだ。
「今の大声は何?何か問題?」
「出て行って!姉様も」
「あら!メイドの応募なの?貴女達も難民?」
難民を雇用スルと特別区から難民手当が出る。手当目当てで難民を雇用する転職屋は多い。
「自前のメイド服なの?即、合格ょ明日から来て」
「結構です。ソレよりも…」
「オバさんには聞いてナイわ。消えて」
ミユリさんをオバさん扱い?神をも恐れぬ暴言だ。
「2人に構わないで。嫌がってるでしょ?」
「マリレ、アンタにも聞いてナイょ。私はこの羽根の生えたお姉ちゃんに聞いてるの」
「OK。じゃコレが返事よっ!」
メイド長はグラス片手にエアリの肩に手を回す…その手を捻りグラスの中身を顔にブチまけるエアリ。
「このメイド野郎!フザけんな!」
メイド長は、壁にかけてあったライフルを構える。銃口がラッパ型?もしや音波ライフルの実験品か?
「ハンカ兵曹。落ち着いて!」
「落ち着いてるわ。スターリングラードの時みたいにね。あの時の仇をとらせてもらう!」
「ヤメてぇ!」
マリレが叫ぶと同時に…業務用冷蔵庫?が宙を飛んでハンカの鼻面をかすめて壁に激突!火花が飛ぶ!
きゅいいいーん!
音波ライフルが発射され、耳で聞き取れない高周波が御屋敷中を飛び交い全てのガラスが割れ落ちる。
「な、何?今のは…前からヘンだと思ってたのよっアンタがやったのね?アンタ、ミュータント?」
「行くわょマリレ!」
「一緒に来て!さぁ!」
ミユリさんとマリレを左右に抱き抱えて、開け放たれた窓からパーツ通りの夜空へと飛び出すエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
メイド達はトラベラーズビクスに舞い降りる。
「エアリったら。貴女のお陰でこのザマょ!」
「落ち着いて、マリレ。大丈夫よ。ハンカ兵曹は酔ってたわ。明日になったら何も覚えてナイ」
「でも、もう御屋敷には帰れないわ」
取り乱すマリレの肩に手を置くエアリ。
「ちょうど良いじゃない」
「エアリ。貴女は何もわかってナイ。あんな奴でも私のメイド長なの。アソコが私の御屋敷ょ」
「…マリレ。私達の御屋敷においで?テリィ様には私から執り成しておくから」
文字通り執り成すミユリさん。
「でも、ズッとはいられない…数日はソレで良いとして、姉様。その先はどうすれば良いの?」
「ソレを一緒に考えましょ」
「…実は、私の居場所は、この秋葉原にはナイように思えるの」
どっかーん。爆弾発言だw
「ま、待って。マリレ、秋葉原を去るつもりなの?気持ちはワカルけど…」
「いいえ、エアリ。貴女には絶対ワカラナイ。貴女にはワカラナイわ」
「確かにマリレはヒドい暮らしをしてきた。でも、今がソレを変えるチャンスだとは思わない?」
瞬間迷い、何かを切り捨てるマリレ。
「死んでも嫌。誰かの力を借りるのは」
「じゃ何処へ行くの?ナチスの残党を頼って、南極とか月世界へでも行くつもり?」
「ほっといて」
トラベラーズビクスを飛び出すマリレ。ミユリさんは追おうとしたエアリを無言で制し、引き止める。
第3章 南極でも月世界でもなく
スピア母娘は、神田リバー沿いにある古い雑居ビルの1Fに住んでいる。冷たい雨の中に濡れ立つ人影。
「誰?誰なの?」
格子のハマった窓から外を見てたスピアは窓の外を窺う。人影もまた窓の中の様子を窺ってるようだ
「まさか。ヤメてょソンな」
メイド服を着た人影は、窓の外で肩をスボめ雨に打たれて濡れネズミになっている。息を飲むスピア。
「ソコで何をしてるの?その手にはノらナイわよ。私の同情を惹く魂胆ね?ミエミエょ」
慌てて上を向き舌の下に"悩みキラー"を垂らす。
「答えはNOだから。絶対に部屋にナンか入れてやらないンだからね!」
無言で立ちつく人影。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数分後。スピアは、マリレの頭にバスタオルを被せて、ゴシゴシと髪の毛を拭いている…部屋の中でw
「もう風邪ひいたらどうするの?ほら、シャツを脱いで。震えてるじゃないの」
濡れたメイド服を脱がされて逝くマリレ。一言も発さズ、されるがママにほぼ全裸となる。眼福だ。
「寝て」
下着姿でベッドに横たわる。添い寝をするスピア。冷たいマリレのボディを背中から抱き髪を撫でる。
大粒の涙をボロボロこぼすマリレ。
「泣かないで。何も話さなくて良いから」
髪を撫でるスピア。ずっと泣いているマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝。朝焼けが格子のハマった窓を染める。突然部屋のドアが開きネグリジェ姿のママが入って来る。
「スピア、そろそろ起きて。遅刻スルわょ…ぎゃあああっー!!!!!何なのコレ?????」
誰かと添い寝してる娘を見つけた母親の絶叫w
「アンタ、誰?誰なの?早くベッドから出て!」
「ま、待ってください!話せばワカル…」
「問答無用!」
ブラ&パンティで部屋を飛び出すマリレ。眼福だ。
「マリレ!ママ、もう違うんだってば!」
「スピア!今すぐキッチンにいらっしゃいっ!」
「ママ、聞いて!」
聞かない。怒りの大股で出て逝くママ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スピア家のキッチン。潜水艦並みに狭い。
「よりによって娘が百合に走るナンて!」
「ママ。百合じゃないってば」
「何言ってンの?女と女がベッドインしたら百合に決まってるでしょ?」
フランス人みたいに天を仰ぐスピア。
「とにかく!お前は…」
「ねぇ娘を信用しないの?」
「…あのね。お前はともかく"タチ"が欲望を抑えられるハズがナイって言ってるの」
最初から自分達母娘はウケと決めてるw
「昨夜のマリレは違ったわ。まぁ確かに前はそーゆーコトはあったカモ…」
「何ですって?!」
「昨夜のマリレは、原因はワカラナイけど、ひどく落ち込んでて百合どころじゃなかった」
断言するスピア。
「そう。ソレを聞いて少し安心したわ」
「だから!部屋にいさせてあげたかったのに…」
「あのね。娘のアンタが誰かを勝手に部屋に引っ張り込んで良いワケないでしょ…何ょ私のコトを散々批判したくせに」
子供扱い?に反発するスピア。
「私はもう立派なメイド。永遠の17才なのょ?」
「だ・か・ら!メイドの店外交友は秋葉原じゃ禁止でしょ?ましてやヲ泊まりナンて絶対に許しません。OK?」
「…わかった」
母は娘に説教。やっと正常位だ。
「スピア、真面目に聞いて。貴女が言う通り、ママは男で散々苦労した。私は、もう人生をやり直すコトは出来ないけど、娘に同じ苦労はさせたくないのよ…アンタを愛してるから」
泣き出すママ。何も言えズ目を伏せるスピア。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋。警察ではなくリアル橋の方。
「お嬢さん」
「何?自衛隊なら入らないわょ」
「警察です…何でメイド服が濡れてるの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋。ラギィ警部のオフィス。
「御屋敷で音波銃が発射された形跡が見つかったンだけど」
「私は何も知らないわ」
「その時、貴女は御屋敷にはいたの?」
警部自ら"職質"スル。
「1度荷物を取りに帰っただけ」
「何時頃かしら」
「…どうしてソンなコトを聞くの?」
反発するマリレ。濡れたメイド服からジーンズに着替えてる。激レア私服ver.ナンだが全く萌えないw
「ハンカ・カンナ元SS兵曹に最後に会ったのが貴女だからょ」
「どーゆーコト?」
「元SSの溜まり場にも顔を出してナイそうょ」
コレは…取調べなのか?警戒するマリレ。
「反ナチ組織にでも拉致されたンじゃナイの?」
「近所の人が証言してる。昨夜銃声だけじゃなく、人間のモノとは思えない叫び声が聞こえたとかね」
「人間の中にヲタクは入れてる?」
警部に睨まれる。溜め息つくマリレ。
「一体何のコトだかワカラナイわ」
「昨夜は何処にいたの?」
「外ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜。トラベラーズビクス。アンテナカチューシャをつけたスピアは、何だかとても憂鬱そうだ。
「私のコト、褒めてちょうだい。昨夜もテリィ様にハッキリ逝ったわ、NOってね。まぁ画像に向かってだけど。でも、コレって進歩だと思わない?」
能天気なミユリさん。スピアは頬杖して上の空。
「ねぇ聞いてるの?」
「あ。ごめん、聞いてなかったわ」
「どうかしたの?」
お給仕のトレイを置き隣に座るミユリさん。エアリが御帰宅…いや、真っ青な顔して飛び込んで来る。
「マリレを見なかった?」
「いいえ」
「見たけど…」
曖昧に答えるスピア。
「じらさないで教えて。大変なのよ」
「マリレに何があったのかを教えてくれたら、コッチも教えるわ」
「ソレは…言えないの」
目を伏せるエアリ。
「じゃ私も言えないわ」
「あのね。私は、マリレを助けたいのよ」
「助けるってどーゆーコト?」
割って入るミユリさん。
「姉様。マリレはナチの上官からセクハラされていたようなのです」
「まさか拷問系?」
「エアリ、ピンク映画の見過ぎょ。マリレは…昨夜はウチにいたわ。ずっと朝まで」
ミユリさんの目がテン。
「スピア、何ソレ?あんなにNOと逝えって言ってたのに、貴女はマリレを部屋に入れたワケ?」
「だって、姉様…マリレってスゴく悲しそうだったから。朝、ママに見つかって追い出されたわ」
「居場所がわかった。マリレは万世橋だ」
このタイミングで飛び込む僕w
「万世橋?どうして?」
「逮捕されたの?」
「どーやらハンカ兵曹殿が行方不明になったらしい。万世橋はマリレを疑っている」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
鼻歌を歌いながら買い物から帰ってくるマリレのママ。上機嫌でキッチンに入ると娘が待ち構えてる。
「あら、スピア?」
「ねぇ昨夜ウチに泊まった子が誰か覚えてる?」
「YES。マリレでしょ?瞼に焼きついてるわ。貴女とベッドで…」
ピシャリと遮るスピア。
「今、留置所にいるの」
「あ、そう…朝の強姦未遂の件で?」
「まさか。何もしてないのにママのヲ友達のラギィ警部に勾留されてる」
ママは眉をヒソめる。
「あら?何もしてない人は勾留されないけど」
「昨夜、自分が何処にいたのかを話さないからょ。私の名誉を守るための黙秘。エラいと思わない?」
「そうね。マジ感動して涙が出そうだわ」
ママはフランス人みたいに両肩をスボめる。
「とにかく!ラギィ警部は、ママのコトをスゴく好きみたいだから、昨夜はマリレはウチに泊まったって警部に話してよ」
「そうね」
「あ。今朝のコトは少しは差し引いてね」
すると、ママは大きく溜め息をつきながら、買い物カゴから野菜やら肉やらを取り出す。
「あのね、スピア。コレはマリレじゃなくて、貴女を私が信じられるかどうか、という問題なの」
「何ソレ?」
「ママは、マジで貴女を信じても良いの?」
大きくうなずくスピア。
「モチロンょ。マリレは、とても良い子だわ。じゃなければ、私こんなコト、ママには頼まないモノ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋のラギィ警部の部屋の前。腕組みして立っているスピアとママ。突然ドアが開く。振り向く2人。
「スピア?何で貴女が…」
「マリレ!良かったわ。釈放ね?」
「良いから…貴女達は外で待ってて」
部屋から出て来たマリレと入れ違いに部屋に消えるママ。後ろ手にドアを閉める。ラギィを見つめる。
「ありがとう、ラギィ」
「まさか貴女が証言スルとはね」
「でも、ウソじゃないのよ」
チェアに深々と座り込むラギィ。
「貴女がウソの証言をスルとは思ってナイわ。信じてるし」
「私の娘は信じなくても?」
「スピアは、彼氏をかばって平気でウソをつく年頃だからね」
そーかもしれないw
「でも、私の娘はウソをつかないわ」
「わかってょ。疑うのも仕事なの」
「いつもソレが障害になるわね」
イスから立ち上がるラギィ。
「何が言いたいの?」
「私、警部のコトが大好きよ。だけど、スピアはちょうど大事な時期にいるの。わかるでしょ?」
「そうカモね」
一気に攻め立てるママ。
「だから、母親としてしっかり見守っていたいの。
今、他のコトに気を取られちゃいけないかなって」
「…私達のコトなら気長に考えて欲しいわ」
「そうね」
ドアを開けて出て逝くママ。溜め息をつくラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。釈放?されたマリレをミユリさんとエアリが囲む。場所はマチガイダ・サンドウィッチズ。
「マリレ。大丈夫?」
「はい。姉様」
「マリレ。まさかとは思うけど、ハンカ兵曹に何かしたんじゃないわよね?」
念を推すマリレ。
「馬鹿なコトを言わないで」
「そうよね。別に疑ったワケじゃナイけど」
「で、警察には何て逝ったの?」
吐き捨てるように話すマリレ。
「新しい里親を探してくれるって。家庭じゃなくて里親をね」
「マリレ…アキバを出る気なのね?」
「姉様。何とかやっていくつもりです」
慌てるエアリ。
「マジなの?何処へ行くつもり?」
「とにかく、秋葉原を出るわ。エアリ達はココで家族ゴッコを楽しめば?トラベラー探しなんて興味ナイでしょ?」
「ねぇ私達は家族じゃないの?少しは周囲に馴染む努力をしたらどーなの?」
つい口調がキツくなるエアリ。
「エアリ、甘いわ」
「子供みたい。何もかも周囲のせいにして。大人になってよ!」
「…姉様はどう思う?」
ミユリさんは暫し目を瞑り答える。
「賛成は出来ないわ。トラベラーを探すのは危険過ぎると思う」
「何か証拠でもアルの?」
「ハブルが逝ってたでしょ?トラベラーは、姿を自在に変えられる連続殺人鬼なのょ?私達3人は一緒にいるべきだと思う」
悲しげに首を振るマリレ。
「もう決めたの。さようなら」
「マリレ、待って!もう知らない。好きにすれば良いわ。ね?姉様」
「…」
パーツ通り。ビルの谷間に消えるメイド服。
第4章 "秋葉原ヲタク憲章"
御屋敷の窓際席で天体望遠鏡をのぞいてたら、いつの間にか傍らにミユリさん。まるで陽炎のように。
「ごめんなさい。突然来て」
「え。どーしたの?」
「ずっと話せなかったから」
マリレのコトかな。
「色々大変なコトがあったみたいだね。少し聞いてるけど、大丈夫?」
「参りました。もしかしたら、マリレはこのまま別れも告げずに、アキバから去ってしまうカモ」
「もしマリレがそう決めたのなら、もう少し見守ってあげたら?」
ミユリさんは、僕の肩に頭を載せて溜め息。
「耐えられないのです。マリレを失うなんて」
僕は、黙ってミユリさんの髪を撫でる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エアリは、御屋敷のバックヤードでヲレンジ水晶を見てる。僕が傍らに立つまで気がつかないでいる。
「テリィたん…神田リバードッグからもらったこの石だけが私達のrootsを知ってるのね」
「リバードッグが"トラベラー"の命を救った時に使った石か。スーパーヒロインの故郷となる時空のモノなのかな」
「でも、いつかソレが何処だかわかったとしても、そこにマリレがいなきゃ意味ナイわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田リバー水上空港。出発ラウンジ特有のざわめきの中でマリレと対峙するミユリさんとエアリ。
「姉様。少ないでしょ?私の全財産なんかスーツケース1つに収まるの」
「マリレ。貴女には私もエアリもついてる」
「でも…お別れです、姉様」
ミユリさんは首を振る。
「嫌ょ」
「また連絡します」
「ソレじゃダメなの」
いつになく強情なミユリさん。
「姉様、仕方ナイでしょ?だから、笑って別れましょ」
「出来ないわ。マリレの気持ちはワカルけど」
「ううん。姉様、ソレこそウソだわ」
スーツケースを手にゲートに向かうマリレ。
「確かに私は恵まれてる。アキバでかけがえのないTOと巡り会い、メイド長のお仕事もいただいた。でも、ソレが重荷になる時だってアルの」
「その点、ウチのメイド長は元SSだけど、何でも好きなようにやらせてくれたわ」
「でも、コレからは違う。全て自分1人の責任で生きて逝くのょ出来る?」
立ち止まるマリレ。
「無茶したら野垂れ死にってワケ?」
「YES。でもね、いつだって何処だって私達がついてる。私達3人がアキバで一緒になったコトには、きっと意味がアル。何処かに逝きたければ逝けば?でも、どんなに遠くに逝っても私達はヲタ友。いつも一緒ょ」
「姉様…」
ミユリさんはマリレに紙包を渡す。
「コレは貴女が持っているべきょ。エアリも同じ思いだから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その貨物便は、折からの雷雲に突っ込み激しく揺れる。コパイ席のマリレは黒い雲間を見つめる。
「そもそも笑っちゃうよな、メイドさん」
「何が?」
「秋葉原さ。今やインバウンドのお陰で経済が回ってるような街だろ?」
何度も雷鳴が光り、左右に大きく揺れるA3000の機体の中で、心底つまらなそうに語るパイロット。
「しかし、何であんな街に世界中から人が集まるのかねぇ。有るのか無いのか良くわからねぇ"リアルの裂け目"とやらを見に行くためか?」
「"裂け目"から来る人に会いにじゃナイの?」
「異次元人か?そんなのいるワケねぇだろ?ソレに、もしメイドさんが異次元人なら、間違っても秋葉原にだけは住まねぇだろ?」
聞き流しながらミユリさんから渡された紙包を開けるマリレ。中から鈍く光るヲレンジ水晶が現れる。
「全く、あの街に何があるってンだよ。何にもナイ街だぜ。秋葉原は」
雷鳴。その瞬間、マリレの脳内でミユリさんや僕達と秋葉原で出逢った頃の記憶がフラッシュバック。手を伸ばすマリレ。微笑み手を繋ぐミユリさん、エアリ、そして僕…青白い雷鳴が機内を照らし出す。
突然、泣き出すマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝。マリレはスキレットに卵を落とす。
「マリレ?何してるの」
「あ。エアリ、みんなに朝食をつくってる」
「…マリレ。でも、貴女。料理が出来るの?」
朝焼けに染まる、トラベラーズビクスのキッチンにメイド2人の笑い声が弾ける。
「まだまだ私のコト、知らないのね」
「もっと教えて…ありがとう。うれしいわ」
「や、やや?おはよー」
物音を聞きつけ、僕が上の階(つまりメイド長の個室だキャw)から降りてくる。
「おはよう、テリィたん」
「う、うん。マリレ、良い朝だ」
「この前のお詫びに朝食を作ろうと思って」
僕は脳内で大歓声。人がつくってくれる朝ごはんほど美味しいモノはナイ。ミユリさんも降りてくる。
「あらあら。何が起きてるの?」
「マリレがみんなの朝食をつくってくれてる」
「料理…出来るの?」
笑いの輪がドッと広がる。フト真顔になったマリレが僕の方を向く。
「今度、秋葉原でヲタクなら誰でも、今までの一般人としての人生をリセットして、新たにヲタクとして基本的人権を付与する法律が出来たって聞いたけど。そんなコト、出来るの?」
「"秋葉原ヲタク憲章"だ。法律じゃなくて憲章。未来は法律じゃ縛れないからね…でも、簡単じゃないぞ。パンピーからの卒業を認める立会人が必要で、未だ認定された例はナイ」
「どんなコトでもスルわ。手を尽くしてくれない?秋葉原で生きて行きたいの」
全員の顔がパッと輝く。
「わかった。マリレの立会人に最適な人がいる。少し話をスルから時間をくれ」
「よろしくお願いします、テリィたん」
「マリレ。テリィ様のオムレツには少しミルクを入れて。機嫌が良くなるオマジナイ」
微笑むマリレ。OKサイン。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…メイドのマリレさん。貴女は、自ら信じるモノのため、いつでも廃人になる勇気を持つヲタクとしての人生に、貴女自身が責任を負うコトを誓いますか?」
「誓います」
「わかりました…確認のため、一言付け加えます。貴女は良い立会人に恵まれた。そうですね、大統領閣下」
実は、僕はマリレの立会人を秋葉原特別区の大統領に頼んだのだ。結果はYES。彼女も僕の元カノだw
「私達は、人類が未来を切り開く原動力は、ヲタクが持つ、廃人になるコトをも厭わぬ底力にあると信じてる。"秋葉原ヲタク憲章"は、人類進化の可能性をヲタクに託す理念を謳ったモノ。秋葉原は、人類進化の可能性を貴女達に委ねます」
「大統領閣下。"覚醒"したスーパーヒロインの使命は重大ですね。がんばります」
「マリレさん。私は、貴女のスーパーヒロインとしての"覚醒"を踏まえ、主に一般人から寄せられる偏見からの解放を認め、ヲタクとしての基本的人権を付与します…ココにサインを」
隣に座っていた僕は電子ペンを渡す。
「おめでとう」
マリレと握手する。微笑むミユリさんとエアリ。僕を指鉄砲で撃つ仕草をして去って逝く大統領閣下。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋。ラギィ警部のオフィス。ヘラヘラと笑いながら入って来たメイド服は、元SSのハンカ兵曹だ。
「へへへへ。アタシを指名手配にしたんだって?」
「ハンカ・ハンナ?…確かにしたけど」
「出頭したわ」
顔は笑っているが目が死んでいる。
「無事だったのね」
「YES。だから、もう探さないで」
「どこに行ってたの?」
眼前にいるのに生死が判然としないハンカ。
「東池袋のサパークラブに素敵なイケメンいたの。少しハマってみたわ」
「そう。音波銃の銃声がしたのはナゼかしら」
「飲んで銃の手入れなんかするモンじゃナイわね」
口だけがパクパクと動く。
「それより、今いる場所の借地権が今月で終わるわ。東池袋に良い仕事を見つけたの。秋葉原は取っ払うつもりなんだけど、難民メイドが一緒じゃ足手まといょ。この際、解雇したいんだけど何か手続きが必要かしら」
「もう済んでるわ。もはやマリレは難民メイドじゃない。秋葉原特別区から基本的人権を付与された、立派なヲタクょ」
「フーンそーなの?」
ヘラヘラ笑って出て逝くハンカを呼び止める。
「ねぇハンカ」
「何か御用かしら、ラギィ警部」
「秋葉原から消えて」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
深夜の裏アキバ。百貫森の外れ。古ぼけたフォードGPAが停車スル。闇夜。遠く青白い月明かり。
「ハンカ。消えろってさ」
その女は後部座席に声をかける。ドアを開け"死体"を引きずり出す。夜霧が流れ込む中、穴を掘る。
「さよなら、ハンカ」
無造作に投げ込まれた"死体"は、手足をバラバラな方向に散らして横たわる。汗を拭って溜め息。荒い息でドライバーズシートに戻る。やがて、光が…
静寂が訪れる。不敵な笑顔を浮かべる…ミユリ。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"人類の進化"をテーマに、ヲタクは"次の人類"だというシリーズ全般を通じて発信中のテーゼに触れる作品を描いてみました。
世の中全般がスゴい勢いでヲタク化していて、10年前なら眉を顰められてた私達の行為を、パンピーが次々とマネするようになりました。つくづく私達は、世の中の先を進んでいたのだ、と感慨を新たにしています。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかり国慶節系インバウンドで溢れてる秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。




