3 タイムマシン起動 1
家に着き、ガレージのシャッターを閉めると、さっそく、錆びた鉄の箱を取り出した。錆びているといっても、表面が錆びているだけで、けっこう頑丈な箱だった。南京錠がかけられてあったが、真司は自分の鍵をあける腕には自信があった。
家中の鍵を全部、針金1本で破ったことがあった。これは真司の特技だった。誰に習ったわけでもないのに、真司は、どの鍵もスムーズにあけることができた。
けれども、真司は、それで犯罪なんてしようと思わなかった。真司がなりたいものは、ホームズのような名探偵だったからだ。ホームズの本に出会ったのは、中学に入学した今年の春だったから、半年とまだ日は浅いが、真司は、いつか必ずホームズのような名探偵になってやろうと思った。
推理小説が好きなのに、どうして今まで、《ホームズ》を読まなかったのかって?
真司は、100年も昔の話を読んでも時代がガラッと違うし、推理の役に立たないと思っていた。
だから、中川治郎や外田高夫などの現代の推理小説しか読んでいなかったのだ。
でも、《ホームズ》に出会って真司は、
手がかりがないうちに理屈をつけるのは、たいへんなまちがいだ。事実にあう理論をさがすかわりに、理論にあうように、無意識のうちに、事実を曲げてしまうことになる。(『ボヘミアの醜聞』より)
など、推理の基本を教えられたような気がした。
話はそれてしまったが、真司は工具箱から針金を出すと、南京錠の鍵穴に当て、中をごそごそかきまわした。
五分後、カチャという音がしたかと思うと、難なくこの南京錠をあけた。真司は少し拍子抜けした。
あのホームズの贈り物なのに、こんなに簡単にあいてしまっていいのだろうか。
ふたを開けると、真司はどこかで見たことがあるような気がした。
幅が2㎝、長さが15㎝くらいのマスが3段並んでいた。その中に8ケタの数字が入れられるようになっていて、
上段に、1894 0405 1300 という数字が入っていた。
レンタルビデオの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で見たタイムマシン、デロリアン号についていたものによく似ていた。
そのビデオを参考にすると、左の8ケタの数字が日付(年月日)を表し、右4ケタの数字が時間(何時何分)を表していることになる。
格段の右サイドにネジのようなものがあったので、真司は上段のネジを回してみた。1番右の数字が00、01、02、03…と1つずつ動いたので、真司はすぐに戻した。
上段の18940405という日付の数字は、ホームズが『空家の冒険』の事件を解決した日だと、真司はすぐに分かった。
タイムマシンだ! 真司の体は震えた。
本物なんだ!
真司は放心したように、このタイムマシンを見つめていた。
でも、何に取りつければいいのだろう?説明書のようなものは入っていないだろうか?
真司がタイムマシンを箱から出すと、茶色くなった2つ折りの紙が出てきた。広げてみると、《bicycle》と英語で書かれていた。
自転車につけろということかな?
タイムマシンを見ると、赤青黄色の3本のワイヤーの先に、自転車とそっくりな発電機がついていた。
自転車のライトを外して、この発電機をつけるということかな?
他に方法が思いつかなかったので、とりあえずそうしてみた。タイムマシン本体もハンドルの中央につけられる金具があり、意外と簡単に取りつけることができた。