1 過去からの案内状 2
図書室の閉室15分前の放送が流れてきた。
我が港町中学校の図書室は、月曜日から金曜日の放課後は一般市民にも開放されている。
わたしは席を立ち、『シャーロック・ホームズの冒険』を書架に戻そうとした。
「それ、返すの?」
わたしとおなじくらいの背丈の男子生徒がいった。
わたしは身長153㎝くらいだ。
「ラッキー! この本は中々ないからな。これを読めば、ホームズシリーズはすべて読破したことになるんだ」
男子生徒は満面の笑顔で、わたしから、『シャーロック・ホームズの冒険』を受け取った。
「あれ、おまえ、もしかして、D組の二宮麻子?」
男子生徒は、メガネをかけていたわたしの顔をましまじと見た。
「そうよ」わたしは答えた。
「そんなもの外してしまえよ」
「えっ?」
「メガネだよ」
わたしはメガネを外した。
「うん、おまえはその方がずっとかわいいよ」
ーかわいいよーわたしはこの言葉を聞いてもあまり嬉しくなかった。過去の嫌な思い出が、また、頭の中でぐるぐる回る。
「あれ~、おまえ、俺がせっかくほめてやってんのに、あんまり嬉しくなさそうだな」
「だって……」
「おっといけない」
男子生徒は、壁の時計を見た。
「あと5分だ。早く借りに行かなきゃ。あっ、俺、仁川真司っていうんだ。じゃあな」
仁川真司、どこかで見たことがある名前だ。そうだ、テストの順位表で、1学期の中間、期末考査の両方とも、10番以内に入っていたっけ。1学年200人だから、かなり勉強ができる。
ちなみに綾乃もいつも10番以内に入っている。わたしといえば、国語と英語のおかげで60番以内に入っていられたらいい方だった。
仁川真司、名前なんて教えてくれても、友だちになれるわけがないのに……。
わたしは早くもあきらめてそう思った。