1 過去からの案内状 1
以前、いとこの初音ちゃんに言われたことがある。
「麻子ちゃんのようにかわいかったら、どんなに幸せか」
そういわれて嬉しかったけど、本当に私は幸せなのかなぁ?
わたしの名前は二宮麻子。花の中学1年生。シーサイドタウンの港町中学校に通っている。
住んでいるのは桜ヶ丘町だが、この町には小学校しかないので、この中学校に通っている。
2学期だというのに、ボーイフレンドどころか、友人と呼べる人は1人もいない。
ホームズなら、こんなわたしをどんな風に分析するだろうか?
『ボヘミアの醜聞』(『シャーロック・ホームズの冒険』に収められた1編)を読み終えたところで、本を閉じ、レモンの香りがする黄色いしおりを抜き取り、わたしはホームズを思い浮かべた。
「アイリーン・アドラーをごらん。きれいなバラにはトゲがある。君がそんなふうになったのは、トゲがないからではないのかね?」
ホームズの涼しげな声が、わたしの頭の中で響く。トゲって何を指すのだろう?強さのことかな? それなら納得できる。わたしはみんなと仲良くなりたいと思っているのに、いざとなると人見知りをしてしまう。最近のわたしはそうなのだ。自分でもどうして良いのかわからない。
入学早々、男子生徒がわたしによく話しかけてくるから、桜小路綾乃(大銀行家のお嬢様できれいだが、気がきつい)を取り巻く5、6人の女子グループに目をつけられて、
「見た目を武器にして男子たちの気を引こうとする嫌な女子」
というレッテルを貼られ、クラスの女子から孤立してしまった。
こんなレッテルを貼られる理由なのだけれど、わたしは国語と英語以外は成績が悪く、運動神経も鈍いからだそうだ。でも、こういう女子なら他にも大勢いる。
綾乃に言わせると、わたしのような女子は中身、心の美しさは勿論のことだが、それ以外に、それなりの能力がなければ、嘘っほくて目障りだというのだ。
それに、英語ができるということも気に入らないらしい。
わたしは9歳までロンドンにいた。でも、このことは、この町に来てから、誰にも話していない。東京にいたころ、そのことで、わたしを悪く言う人がいたからだ。
どうしてなのかよくわからなかったが。でも、あの頃の方が友だちも何人かいたので、今よりは楽しかったが……。英語はわたしにとって、国語のようなものだった。
あと、心の美しさのことだけど、正直いってそれにも自信がない。
いつもやさしい心でいたいと願っているが、キレる(心が傷つく)と、酷いことを思うこともある。
そうなると心の中は嵐のような状態で、どんなにその思いを消そうとしても、中々消えてくれない。
自分の心なのに、わたしのいうことを聞いてくれないのだ。
でも、それを人に向けることは滅多になかったが……。
先の、麻子と真司の物語の1番初めの物語で長編です。
麻子と真司がどんな風にして出会ったのか、お楽しみください。