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第七話 家を訪ねて来たのは

 あれから数日。

 俺はダンジョン内に持ち込み可能な武器を調達したり、どこかいい配信場所はないだろうかと探したりしながら家で過ごしていた。


「珍しいにせよEランクでも規格外のモンスターがいる可能性があるってことだもんなぁ。運営者の管理する踏破済みダンジョンだったら安全だけど、再生回数を稼ぐには不向きだし……」


 もうすぐ冬休みなので登校時間も少ない。次のダンジョンに行く算段が立つまでははっきり言って暇だ。

 友人と呼べる友人がおらず、ゲームが友達状態――つまりいわゆるぼっちというやつなので、誰かが会いに来ることもない。

 その、はずだった。


 なのに突如としてインターホンが鳴って、母が俺を呼びに来た。


「加寿貴。あんたに会いたいってお客さんがいらしたみたいよ」


 どうせ配達だろうと思っていた俺は驚いて顔を上げる。

 俺なんかに用があるなんていう人物がいるとは思えないのだが。


「客……?」


「若い女の子みたいだったけど。クラスメイト? それともこの前出かけた時に彼女でも作ったんじゃ――」


 母の言葉を聞き終える前に俺は玄関へと走り出す。


 俺の脳裏に浮かぶのは可憐な少女の顔だった。そんな馬鹿な、と思う。俺の都合のいい妄想か何かかも知れない。

 だがドアを開けた向こう、確かにそこに佇む彼女と対面したことでようやく現実だとわかった。


 ピンクのパーカーに丈の短いスカートというラフな格好。

 記憶の中と寸分違わぬ、いや、スライムに塗れていない分さらに可愛らしく見える美少女がそこにいた。


「こんにちは、加寿貴さん。数日ぶりですね」


 輝かんばかりの朗らかな笑顔に脳を焼かれる。

 俺は呆気に取られて押し黙った。


「先日のお礼がしたくて来ました! 図々しいことは承知の上ですけど、お話しがしたいので家に上げてもらっても?」


 先日のお礼、だなんて。

 俺はそもそも見返りを要求して助けたわけではないし、あの件はあれきりだと思っていた。正直こんなことをされても反応に困ってしまう。


 だが可愛らしくお願いされてしまったら断ることなんてできなくて。

 俺は人生で初めて異性を招き入れた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 さすがに自室ではまずいかと思って話し合いの場所はリビングにした。


 ソファに座った俺は、至近距離で光留と見つめ合う。

 彼女はまず冒険者証――冒険者における身分証明書を提示してから話し始めた。


「私は加寿貴さんに大きな恩があります。

 スライム討伐ができたのも、強制強化キノコを食べた私が無事でいられたのも、全部加寿貴さんがいてくれたから。冒険者として未熟な自分が不甲斐ないです。でも、何か加寿貴さんの力になることはできるんじゃないかと思うんです」


「俺の力に?」


「スライム討伐で得た資金の大半をお渡ししてもいいですし、もっと私的なことでも。私馬鹿なので勉強を教えるとかは無理だけど……」


 ほんの少し恥じらうような光留の様子から、俺たち思春期男児が考えがちなそういうことも可能なのは伺える。

 俺も一瞬考えないわけではなかったがすぐに振り払った。いくら相手が美少女だとしても頼んでいいことと悪いことがあるだろう。


 一方、俺にとって金についての話は聞き逃せない。

 だってゲームが買えるのである。スライム討伐後の金銀財宝はこの目で見たから、たとえあの半分であっても相当な額になるのはわかる。

 これ以上自分の身を危険に晒して小遣い稼ぎをしなくて良くなるとすれば、とても魅力的な話だった。


 でも――。


「やっぱダメだ。戦ったのは俺じゃないからもらうなんてできない」


 俺がナイフを突き刺してもびくともしなかったスライム。あれを倒したのは間違いなく彼女だった。

 俺はただ少し手を貸しただけでしかない。


 きっと今の言葉を後で悔やむだろうなとは思う。これほど手っ取り早く大金が手に入れられる機会などなかなかないだろうし。

 でもせめて助けた女の子の前では格好をつけたいのが男心というやつだ。


 美少女が家を訪ねてくるという、俺のようなパッとしない人間には一生体験できなかっただろうイベントだけで最高のご褒美。それで満足することにした。


「本当に……?」


「うん」


「っでも、それじゃあ私が嫌ですよ! 貸しを貸しのままにしておくのは気持ち悪いというかなんというか……。そうだ、加寿貴さんって配信者を始めたばっかりって言ってましたよね」


「ああ、言ったけど」


「それならまだ仲間がいないんじゃないですか? 冒険者も兼ねているのであればソロでもいけますけど、そうじゃないとEランクか踏破済みダンジョンが無難。その先に進には冒険者を雇うのが望ましいとされています」


 確かに、『配信者入門』とかの動画を見ると、まず冒険者を雇うところから始める初心者配信者は多いらしい。

 まあ俺はあくまで小遣い稼ぎが目的でありそこまで本格的なものは求めていなかったから、考慮から外していたが。


「まさか――」


「Bランクまでならどんとこいです」


 俺の言葉を肯定するように、光留が胸を張っていた。

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